ロボティクスの先駆者Boston DynamicsのCEO、ヒュンダイによる買収後の展望を語る

物事は1年で大きく変化するものだが、今年は特にそうだ。Boston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)も、この規模で社歴30年の企業としては普通考えられないほどの大きな変化を、ここ12か月間に何度も経験した。具体的には、創業以来初めてのCEO交代、初めての商用製品の一般販売開始、そして3回目となる買収などだ。

もちろん、ボストン・ダイナミクスのことを保守的だと非難した人など、これまで1人もいない。

マサチューセッツ州ウォルサムに本社を置くロボティクス分野のパイオニアであるボストン・ダイナミクスは2020年12月、同社がHyundai(ヒュンダイ)に買収されるという噂が事実であることを認めた。同社の株式のうち80%は韓国のテクノロジー大手であるヒュンダイが保有し、残りの20%はそれまでの所有者であるソフトバンク・グループが引き続き保有することになる。この取引は来年6月に成立する見通しで、従業員300人を抱えるボストン・ダイナミクスの企業価値は11億ドル(約1100億円)と評価されている。

ボストン・ダイナミクスのCEOであるRobert Playter(ロバート・プレイター)氏は、TechCrunchの取材に対して次のように語っている。「ソフトバンクのもとで、当社は100人から300人規模の会社へと成長しました。それには資金が必要であり、ソフトバンクは私たちが思い描いていた製品をローンチできるよう後押ししてくれました。彼らのおかげで、運動性、操縦、視覚といった分野を含む複数のロボット製品をローンチするというミッションに向けて動き出すことができ、そのミッションの達成を目指して実際に動き出し、加速していく力を得ることができたのです」。

ボストン・ダイナミクスで長年働いてきたプレイター氏は、短期間に親会社の交代が続いたことに対する周囲の危惧は取り越し苦労だと考えている。どの親会社も、ボストン・ダイナミクスの収益アップに貢献してきたからだ。最初の親会社だったGoogle(グーグル)は調査のためのリソースを提供し、ソフトバンクは製品化を促した。今後はヒュンダイが、製品のスケールアップに必要となる工学面と製造面でのノウハウを提供するだろう。

画像クレジット:Boston Dynamics

「(ソフトバンクは)結局のところ投資会社なので、この状況はいずれ変わるだろう、という予想はいつも頭にありました」とプレイター氏は語る。「あとは、それがいつ起こるのか、そしてどのタイミングで起こるのが適切なのか、ということだけでした。ですから買収話が持ち上がってもまったく驚きませんでした。製品が無事にローンチされ、成長軌道に乗っていたので、おそらく彼らから見ても、私たちから見ても、適切なタイミングに思えました」。

プレイター氏はさらに、ソフトバンクによる買収に対して米国の対米外国投資委員会(CFIUS)が課した規制のために、同社とソフトバンクとの間の交流は非常に限定されていた、と付け加える。また、「CFIUSの承認を得ることが、ヒュンダイとの契約を成立させる条件になるでしょう」とも説明している。

同社がソフトバンク傘下に入ったことは、控えめに言っても、研究所として何十年も機能してきた会社を商業化の方向へと強力に押し出すものだったが、プレイター氏がTechCrunchに語ったところでは、ヒュンダイも同社の既存ロードマップに概ね賛同しているようだ。ここ2年間の変化はかなり大きなものだったとはいえ、ボストン・ダイナミクスは依然として非常にリーンな組織であり、市場に対するアプローチも慎重だ。

300人ほどの従業員のうち、100~120人は最初の商用製品であるSpotに注力している。また、同社による最近の採用人員は、営業、カスタマーサービス、品質管理といった、最初の製品を出さないまま四半世紀以上の歴史を重ねた組織にとっては馴染みのない分野に集中している。一方、物流ロボットであるHandleに携わるチームはそれよりかなり小さいが、拡大を続けており、プレイター氏によれば「来年にはSpotチームと同じかそれ以上の規模になる」という。さらに、4月には箱を持ち上げるロボットの商用化バージョンもお披露目予定だ。それに続いて、Spotの時に実施されたのと同じようなパイロットプログラムが実施され、翌年どこかのタイミングで製品の販売が始まるだろう。

ボストン・ダイナミクスはすでに、実際の倉庫業界から選んだパートナーとともに「概念実証」モデルのテストを開始している。「これらのシステムは、顧客の所に行って概念実証テストを実施する必要があります。設計を向上させるためにいろいろと学んでいるところです。また、このロボットの製造業向けバージョンの設計も同時進行で進めています。新世代機の最初のバージョンは来年夏に稼働できるようになるでしょう」とプレイター氏は説明する。

物流配送はこれまで何年もの間ロボティクスが最も注目してきた分野だが、新型コロナウイルスによるパンデミックの影響で、この方面への関心は高まるばかりだ。市場に対するHandleのアプローチは、この点でSpotとは明らかに異なっている。四足歩行ロボットであるSpotのパイロットプログラムの大部分は、顧客やパートナーとの協力によって、高度なロボティクステクノロジーが最も必要とされているのはどのような方面なのかを判断するために行われた。Spotの需要は決して巨大とは言えないが、安定したものであり、同社は最初の15か月で400ユニット以上を売り上げている。

需要に合わせた応用例としては、BP(ブリティッシュ・ペトロリアム)の油井や英国ナショナルグリッドの発電所での危険な業務への導入がある。また、予想していなかったようなユースケースも出現している。昨年後半、米国自由人権協会(ACLU)は警察のトレーニングにSpotロボットが使用されている動画(その前の4月のロボティクスイベントで初公開された)に対して懸念を表明した。この10月には実際の犯罪現場でSpotが目撃された。実際、プレイター氏によれば同社の顧客にはニューヨーク市警察(NYPD)も含まれているという。

「NYPDはSpotを所有していて、おそらくバリケードを築いた相手(武装しているかもしれない容疑者)との間に安全な距離を保つために使っていたと思います。それで、カメラを組み込み、できればコミュニケーションを実現させ、危険な状況がさらに悪化するのを防げるこのエスカレートを防止させることを目指していました」とプレイター氏は説明する。

「Spotの開発で意図されていた目的の1つは、危険な環境から人間を遠ざけることを可能にして、顧客の安全度を高めることです」とプレイター氏は付け加える。「そして、それには警察などの公共安全分野の人々も含まれます。具体的な例として、マサチューセッツ州警察は、従来の可動ロボットと同じ方法でSpotを応用し、あやしい荷物や爆発物かもしれない物を調査するのに使うことに関心を持っています。これはロボティクスの優れた応用だと思いますし、サポートしていきたいと考えています」。

ボストン・ダイナミクスは来年も引き続きSpotの市場を広げていくことだろう。ヒュンダイの傘下に入っても、SpotとHandleのリリース予定は変わらないと思われる。

プレイター氏は次のように語る。「私は、2、3年ごとに1つのロボットをリリースするのが、同社にとってちょうどよいペースだと思います。白紙の状態から新しいロボットを作ること自体は1年未満で可能ですが、作った後に、そのコンセプトを練り直し、市場にどれほど適しているか把握するというプロセスを繰り返す必要があります。それで私としては、まずSpotをしっかり安定させたいと思っています。検討したい改善点がすでにいくつもあります。それで、次の世代のSpotを作るかどうか、それとも別のロボットを作って別の市場に進出するかどうかは未定です。それが可能なほど大きいチームには、まだなっていません」。

ボストン・ダイナミクスの研究部門は、人間型ロボットであるAtlasなどの最先端ロボットに集中しており、ヒュンダイの監督下でもそれが継続されるだろう。同社はGoogleによる買収からしばらくたった2014年に国防契約の新規受け入れを停止したとはいえ、研究部門がボストンダイナミクスの業務で重要な位置を占めていることに変わりはない。

「Atlasの研究開発は自社内で進めています」とプレイター氏は言う。「そして、高度なハードウェアとソフトウェア両方の構築に、プラットフォームとして引き続き利用されています。近い将来には、心躍るようなニュースをいくつかお知らせできるでしょう。おなじみのボストン・ダイナミクスお手製動画で、進行中のプロジェクトを紹介することになると思います。公開日がいつになるかはまだ決まっていませんが、楽しみにしていてください」。

ボストン・ダイナミクスの非常に高度な研究成果の一部は、例えば最近発表されたアルティメートモビリティビークル(UMV)など、ヒュンダイが持つ斬新なコンセプトとの相性がいいだろう。「脚に車輪を組み合わせるアイデアは実に興味深いものです。思い返せば、Handleの最初のバージョンを作った時にも、車輪と脚が付いていました。相乗効果があると思うのです。ヒュンダイは本当にそういう車を作れるようになると思いますよ」とプレイター氏は語った。

関連記事:現代自動車がBoston Dynamicsを買収、ソフトバンクから80%の株式取得へ

カテゴリー:ロボティクス
タグ:Boston Dynamics

[原文へ]

(翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。