「これは、CASHを手がける僕らだからこそやるべき事業なんです」ーー即時買い取りサービス「CASH」を手がけるバンク代表取締役の光本勇介氏は、今日発表されたばかりの新サービスについてこう説明した。その新サービスの名前は「TRAVEL Now」。あと払い専用の旅行代理店アプリだ。
TRAVEL Nowで旅行を買うとき、その時点で旅行代金が手元にある必要はない。ユーザーは海外旅行を含む3000種類の旅行プランの中から欲しいものを選び、ボタンを押すだけ。するとハガキが送られてくるから、それを持ってコンビニに行き、2ヶ月後までに支払いを済ませればいい。そのハガキを持つ手は、TRAVEL Nowで買った旅行で日焼けしていても構わない。
一番重要なのは、TRAVEL Nowを利用するにあたり面倒な審査や手続きなどは必要ないということ。バンクは、このサービス運営にあたってユーザーの与信はとらない。
人を信じる
CASHをリリースしたとき、同サービスは性善説によって成り立つビジネスだと光本氏は言い切った。その光本氏は今回の取材で、「CASHでは、人を信じてお金をばら撒いた。TRAVEL Nowでは、人を信じて旅行をばら撒く」と話す。では、なぜ旅行という領域にテーマを絞ったのかと聞くと、光本氏は一言、「勘です」と言った。
日本のオンライン旅行代理店(OTA)市場は、楽天やリクルートなどのビッグプレイヤーたちが長年にわたり覇権を握ってきた業界だ。どれだけマーケティング費用をかけられるか、という体力勝負になりがちなOTA市場にスタートアップが参入するためには、サービスに何かしらの新しさが求められる。
先日、チャット型旅行代理店の「ズボラ旅」をリリースしたHotspringは、チャットの向こう側にいる人に日程だけ伝えれば、目的地や旅先のプランをどんどんリコメンドしてくれるという“楽さ”をウリにしてOTA市場に参入した。バンクの場合、この市場に参入するための武器は、“そもそも旅行を買う時にお金を必要としないサービスを作る”というブッ飛んだ発想だった。
「旅行はモノとは違い、『彼女の誕生日があるから』だとか『急に休暇ができたから行きたい』といった、“いま”のニーズがとても重要です。でも、その時にたまたまお金がないから旅行を諦めていた人は多いはず。既存の旅行市場は、お金がある人が旅行に行くことで形成される市場だが、TRAVEL Nowは、その既存市場が取りこぼしていた人たちに旅行を提供することで市場を創る」(光本氏)
CASHのバンクだからこそできる事業
与信も取らず、お金を受け取るより先に旅行を提供するーー仮に光本氏とは別の人がこのアイデアを思いついたとしても、それを実行することは難しかったはずだ。
「ノールック買い取り」と言われたCASHでさえ、ユーザーに“ばら撒いていた”のは1人あたり2万円まで。一方、比較的高額な旅行商品を扱うTRAVEL Nowでは、その数字が10万円にまで跳ね上がる。それを可能にするのは、「人を信じるために人を知る」能力だと光本氏はいう。
「CASHを1年運営してきて、ユーザーの行動をもとに悪い人を見分けるための知見がついてきました。例えば、CASHの初回利用時にグッチ、ルイヴィトン、APPLE製品の新品を売る人がデフォルトする(お金を渡しているのに、商品が送られてこない)率は94%。そして、その人が出品から5分以内に出金ボタンを押すと、デフォルト率は96%まで上がります。即時買い取りというフォーマットやUI/UXを真似ることはできるけれど、この事業は、ユーザーの行動によって悪い人を見分けるという技術がないとできないと思っています」(光本氏)
CASHの運営に関する具体的な数字は非公開であるものの、これらの行動分析により、CASH全体のデフォルト率は1年前のサービスリリース時にくらべて「10分の1以下」(光本氏)に下がったという。
CASHで培った行動分析力を駆使して、今度は旅行をユーザーにばら撒くと決めたバンク。はたして、与信をとらずに人を信じるビジネスは成立するのか。壮大な社会実験が始まった。