中⼩企業向けエッジAIシステムを提供するフツパー(Hutzper)は1月20日、プレシリーズAラウンドにおいて、第三者割当増資による総額約1億円の資⾦調達を発表した。引受先は、ANRI、広島ベンチャーキャピタル、GA投資組合、ちゅうぎんインフィニティファンド、East Venturesの5社。
同社は、2020年4月創業時より提供している画像認識用エッジAI「Phoenix Vision」と、AI導⼊後の継続⽀援を行うシステム(SaaS)「Phoenix Insight」を展開。食品など、関⻄エリアの製造現場での検品・検査⼯程の⾃働化を中心に導⼊が進んでいるという。今回調達した資⾦は、Phoenixシリーズのさらなる機能開発や導⼊企業の拡⼤、またエンジニア職、セールス職などの採⽤強化を早急に進めていく予定。
2020年4月創業のフツパーは、「最新テクノロジーを泥臭く⺠主化する」というミッション掲げ、製造業向け画像認識エッジAIサービスをサブスクリプション形態で提供するスタートアップ。社名のフツパー(Hutzper)は、ヘブライ語の「חוצפה」(英語:Hutzpah)を基としており、日本語で近い表現は「⼤胆さ、粘り強さ」となるという。ガッツあふれる「フツパー」な創業メンバーからHutzpahのつづりをHutzperに変えて社名にしたそうだ。
フツパーの黒瀬康太氏によると、ハードウェアに関してはNVIDIAや沖電気などの汎用製品を利用。顧客の環境に合わせて採用しているという。これに同社AIを組み合わせて導入しているそうだ。
また、エッジAIに取り組む企業は同社以外にも存在しているが、AIの研究開発などに資金を集中的に投入していることから、大手顧客を対象とした高価なものになりやすいという。
黒瀬氏は、これに対して「はやい・やすい・巧い AIを。」をコンセプトとして掲げており、顧客に求められる水準を基にリーズナブルかつ現場で「使える」ものを重視しているとした。食品の外観検査など製造業における検品は人手不足が課題になっており、その解決を求めている中小企業が多いためだ。
中小企業の場合多種多様な製品を手がけており、その業務に合わせて同社Phoenix Visionをカスタマイズする形で開発・導入を行っている。場合によっては、半ばフルスクラッチに近いこともある。しかしそれでも、同様のことを行っている企業およびシステムにおける価格帯の中でも安価という。黒瀬氏は「初期費用なし、またサブスクリプションモデルにより安く提供して、導入数を増やしている」と明かした。
また導入時点から人件費より安価になることを重視しているそうだ。中小企業にとって、検品業務は売り上げ増加に直接関連するものではなく、AIが関わるプロジェクトが人件費より高額となる場合、費用対効果を高めるため完全無人化などの必要が出てくる。しかし完全無人化しても、費用対効果を得るには数年がかりとなる可能性がある。
そのためフツパーは、顧客に対し「AI+人間」のハイブリッドを推奨している。例えば食品の検品の場合、従来3名で行っているのなら、AI+1名に切り替えるといった体裁だ。Phoenix Visionで高速に検品を行ってPhoenix Insightで不良品を指示し、1名の人間が取り除く作業を行うという流れを提案する。AIというとSFのようなイメージを持たれることもあるが、同社は「表計算ソフトやプレゼンソフトなどと同様に、AIもあくまで道具として使ってほしい」という。
また、すでに画像認識AI技術はコモディティ化していることから、資金調達による人員増を行い、面を取りに行くこと(導⼊企業の拡⼤)を狙っている。黒瀬氏は、AIの機能よりも、SaaSのPhoenix Insight導入先において、表示方法・指示の出し方によって現場の方がどれだけ作業しやすくなるのか研究開発を進めたいとした。実際に現場に入り込まないと「良いシステム」「現場の役に立つシステム」に落とし込むのは難しいため、その分難易度は高いという。黒瀬氏は、「フツパーのR&Dは机の上ではなく、現場で行う」としていた。
同社は今後も引き続き、より多くの企業が⼿軽にAIやロボットを利⽤することで⼈⼿不⾜を解消できるような世の中を⽬指し、日本の産業や地域社会の発展に貢献していけるよう、「フツパー」の精神を持って事業拡⼤に取り組でいくという。
AI系スタートアップというと、著名企業や東京中心のイメージがあるが、同社は、製造業の多い関西や各地方の中小企業、その現場の課題解決に取り組むとしている。
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