今、その役割が注目されている活動家的なデベロッパーの台頭

本稿の著者はBob Lord(ボブ・ロード)氏は、IBMでWorldwide Ecosystems and Blockchainを担当するSVP。IBMのブロックチェーンビジネスを監督し、開発者、グローバルシステムインテグレータ、独立系ソフトウェアベンダーにまたがる同社の主要なエコシステムを推進するなど、ビジネス全体に新しいオープンテクノロジーを浸透させている。

ーーー

この数カ月間、特に米国において、テクノロジーと社会におけるその役割が注目を集めている。

私たちは、テクノロジーの公正かつ倫理的な利用方法や虚偽情報の拡散を阻止するためにできることなどについて、真剣に話し合う必要がある。だが、こうした問題の解決に尽力する際、この話し合いによって、善行のためにテクノロジーを利用する活動家的なデベロッパーの台頭という、2020年現れた希望の兆しを曇らせることがないことを願う。

活動家的なデベロッパーはこれまでにないほどさまざまなグローバル問題に対応し、信じられないほどに困難な問題を解決するのを好むことだけでなく、そうした問題を大規模に、そして見事に解決できることを証明した。

彼らの起業家精神にあふれる成長型マインドセットをこのコミュニティで解き放ち、より多くの人々が、あらゆる人のために持続可能な未来を築く機会があるようにする責任は、私たち全員にある。私は、同僚や業界、政府などに、デベロッパーが主導するアクティビズムの新たな波をサポートし、今、存在しているスキルギャップを協力して埋めていくよう呼びかけている。

新型コロナウイルスのパンデミックから、気候変動や人種問題まで、デベロッパーは、人々が不安定な今の世界をうまく切り抜けることができるように新しいテクノロジーを作る重要な役割を担っている。こうしたデベロッパーの多くは、労働時間外に世界中で共有できるオープンソースのソフトウェアを使用して社会問題に取り組んでいる。この取り組みにより多くの命が救われている。ゆくゆくは何百万人もの命を助けることになるだろう。

国際的な研究者コミュニティは、いち早くオープンソースのプロジェクトによってデータと遺伝子配列を共有し合い、新型コロナウイルスの早期理解と感染を阻止する取り組みにおいて協力することに役立てた。研究者がほぼリアルタイムで世界中の遺伝子コードを追跡できることは、私たちの対応において極めて重要であった。

St. Jude Children’s Research Hospital(セントジュード小児研究病院)では、この重要な時期に、たった10日間で同意署名プロセスのデジタル化を成し遂げた。台湾、ブラジル、モンゴル、インドから集まった4名のデベロッパーチームは、気象データを使用して天候の変化を察知し、より情報に基づいた作物管理の意思決定ができるよう農業経営者を支援した

1950年代から1960年代の公民権運動と反戦運動から最近のブラックライブズマター運動を支持する集会まで、人々は情熱と抗議心を持って、より良い未来へと導く話し合いの場をかたち作ってきた。そして今、人々による活動の豊かな歴史に、新しく重要なツールが加わった。最大級の課題に世界的および地域的に協力して対応するために必要なデータ、ソフトウェア、テクノロジーのノウハウだ。

現代のソフトウェアデベロッパーは、1940年代や1950年代に橋や道路を設計し、非常に広範な進歩への道を開いたインフラストラクチャを作った土木技師に似ている。

オープンソースコードのコミュニティは、すでに協力・共有している。あらゆる人が共有できるイノベーションを生み出し、完璧ではなく完成を目指すことに焦点を当てているのだ。ハリケーンによってコミュニティが大きな被害を受けそうなとき、ただ土嚢を準備するだけではなく、オープンソースのテクノロジーを使用してコミュニティを支援し、ソリューションを拡張して他者を助けることができる。例えばDroneAID(ドローンエイド)は、視覚認識を利用して頭上を飛ぶドローンから地上のSOSの印を検知して数え、緊急救援のために地図上に救急ニーズを自動的にプロットするオープンソースのツールだ。

GitHub(ギットハブ)による最近の調査では、オープンソースプロジェクトの作成は2020年4月より25%増えている。デベロッパーは空き時間を利用してオープンソースコミュニティやバーチャルハッカソンに貢献し、より持続可能な世界を作ることに自らのスキルを活用している。

2018年、私はIBM、David Clark Cause(デビッド・クラーク・コーズ)、United Nations Human Rights(国連人権理事会)によるCall for Code(コール・フォー・コード)の立ち上げを手伝った。グローバルなデベロッパーのコミュニティを支援する取り組みだ。そのミッションの大部分を占めるのは、野心的な構想を実世界に取り入れるために必要なインフラストラクチャを作ること。IBMでは、エンタープライズクライアントによって使用されるものと同じテクノロジーへの2400万人のデベロッパーコミュニティアクセスを提供しており、これにはオープンハイブリッドクラウドプラットフォーム、AI、ブロックチェーン、量子計算などが含まれている。

Prometeo(プロメテオ)は消防士、看護師、デベロッパーのチームで、AIとモノのインターネット(IoT)を利用したシステムを開発した勝者であろう。これは消防士が火災に立ち向かう際に消防士を保護するシステムで、スペインの複数の地域ですでにテスト済みである。私たちはこれまで、自宅学習用に教師が仮想情報を共有できるようにしたデベロッパー、消費者の購入における二酸化炭素排出量の影響を計測できるようにしたデベロッパー、スモールビジネスに新型コロナウイルスに関するポリシーの最新情報を提供できるようにしたデベロッパー、農場経営者が天候の変化に対応できるようにしたデベロッパー、パンデミックの中でビジネスの生産ラインの管理方法を向上できるようにしたデベロッパーなどを見てきた。

2020年、Devpost(デブポスト)は世界保健機構(WHO)と連携し、健康、被害を受けやすい人口、教育などのカテゴリーで新型コロナウイルス感染症の緩和ソリューションを作成するという課題をデベロッパーに出した。Ford Foundation(フォード財団)とMozilla(モジラ)は技術者、活動家、ジャーナリスト、科学者をつなげて、技術と社会正義に取り組む組織を強化するためのフェローシッププログラムを先導した。U.S. Digital Response(米国デジタルレスポンス、USDR)では、無料奉仕する技術者を、危機に対応する政府や組織と結び付けた。

最も複雑な世界的かつ社会的な問題は、より小さく解決可能なテクノロジーの課題に分解できる。だが最も複雑な問題を解決するには、あらゆる国、あらゆる階級、あらゆる性別の頭脳が必要になる。スキルギャップの危機は世界的な現象であり、次世代の問題解決者に、すばらしいアイデアを影響力の高いソリューションに変えるために必要なトレーニングとリソースを準備することが重要だ。

2021年は、企業や州、国の境界を越えて連携し、世界で最も大きな問題のいくつかに取りかかる新しく活気に満ちたデベロッパーコミュニティが表れると期待できるだろう。

だが彼らは自分たちだけでは問題を解決できない。こうした活動家的なデベロッパーには私たちからの支援や励まし、対処すべき最も重要な問題を指摘する手伝いが必要だ。そしてソリューションを世界中すみずみまで提供するツールも必要になる。

テクノロジーの真の力は、この世界をより良いものに変えたいと考える人々のためにある。変化を生みたい人々がそれを成し遂げるためのツール、リソース、スキルセットを確保できるように、私たちはスキルギャップを埋め、社会の根深い格差を解消することを、改めて重要視する必要がある。

私たちの未来は、これを正しく理解できるかどうかにかかっている。

関連記事:誰もが資本を獲得し起業家精神を持てる社会を目指すことが最後の公民権運動

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:コラムアメリカ

画像クレジット:Klaus Vedfelt / Getty Images

原文へ

(文:ゲストライター、翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。