米国に移民してきた人たちにとって、代替品には複雑な思いがあったり、有り難く感じたり、またはしばしばその両方であったりもする。だからこそ、 Vanessa(バネッサ)とKim(キム)のPham(ファム)姉妹は、Omsom(オムソム)を立ち上げた。家で本格アジア料理を作るための「スターター」セットを販売するシードステージの食品スタートアップだ。スターターには、ソース、スパイス、香料が含まれ、これを買えば30分以内に料理が仕上がると2人の共同創設者は話している。
「私たちアジア系米国人は、メディアや文化の中で大きな声で主張できるようになってきましたが、それに比べて、食料品店のエスニック食材コーナーへ行くと、アジアの味がどれほど他のものに置き換えられているかかがよくわかります」とバネッサは私に話した。
エスニック食材コーナーの存在そのものがアメリカに根付く「他者化」の文化の表れだとする批判を呼んでいる。コンサルティング企業 Bain & Company(ベイン・アンド・カンパニー)に勤めていたバネッサと、Frontline Ventures(フロントライン・ベンチャーズ)やDorm Room Fund NYC(ドーム・ルーム・ファンド・ニューヨークシティー)といったベンチャー投資企業に勤めていたキムにとってそれは、姉妹でOmsomを設立しようと決意させるのに十分な理由となった。
「エスニック食材コーナーは、めちゃくちゃ遅れています」とバネッサ。「風味は薄められていて、そもそもブランディングもデザインもステレオタイプ的です。ひとつの料理を煮詰めて惨めなビン1本に詰め込むなんてこと、できますか?」。
エスニック食材コーナーは国際コーナーと呼ばれることもあるが、大抵、永遠に使い切らないタイ風ペーストが置かれている。少し先に進むと、電子レンジで温めるパッケージに入った脂肪分過多のバターチキンがある。そして瓶詰め食材の棚には、世界でもっとも多様な料理が「カレーソース」という名前でひとつの瓶に押し込まれている。
食料品店に並ぶ代替食品の進歩は悲しいほど遅れているが、創設者姉妹はそれを変えられると楽観している。そのブランド名(ベトナム語で「利かん坊」)に秘められた味付けから現時点の資本化テーブルに至るまで、Omsomもまた、語られるべき移民文化の物語のひとつだ。これが彼女たちの話だ。
Omsomは、金額は未公開ながらプレシード資金を元手に、本日創業した。このアーリーステージのスタートアップのオーナーシップグループは、Girls Who Code(ガールズ・フー・コード)の創設者Reshma Saujani(レシュマ・ソウジャニ)氏、Better Food Ventures(ベター・フード・ベンチャーズ)のパートナーBrita Rosenheim(ブリタ・ローゼンハイム)氏など、半数が有色人種の女性で占められている。また、従来型ではないニッチな分野を目指す起業家に特化した投資会社Unpopular Ventures(アンポピュラー・ベンチャーズ)の創設者でありパートナーのPeter Livingston(ピーター・リビングストン)氏も出資している。
リビングストン氏は、Omsomが今までにないカテゴリーをカバーする企業であることから、実際にはまったく「フードテックの投資家」ではないにも関わらず投資したと話している。
「産業としてのベンチャー投資は、大変に同族的で、小さな地域に固まり、自分に近い人に投資したがり、同じテーマを持つ少数に投資する傾向があります」とリビングストン氏。「歴史的に、エスニックフードに必要な食材は、ほとんどベンチャー投資のカテゴリーにはなく、そこに私は好機の匂いを感じました」。
サウジャニ氏は、自身の投資を「彼女たちと、ほとんど見向きもされなかった市場のための製品への賭け」と語り、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響でレストランが店を閉じ、人々は家で料理せざるを得なくなった現状を踏まえて「今の状況が、食糧棚の常備品への消費者の食欲をますます高めています」と話している。
お袋の味
「母親の食材」で本格的な料理を再現するのは容易なことではない。そこでファム姉妹は食材探しと料理人との協力に重点き、レシピの研究開発に1年間を費やした。
姉妹は、3組のシェフとチームを組んだ。Madame Vo(マダム・ボー)のJimmy Ly(ジミー・リー)氏、Jeepney(ジープニー)のNicole Ponseca(ニコル・ポンセカ)氏、Fish Cheeks(フィッシュ・チークス)のChat(チャット)とOhm(オーム)のSuansilphong(スアンシルフォン)兄弟だ。彼らは、売り上げに応じて段階的にロイヤリティーを受け取る。
「私たちは、材料の90%はアジア固有の食材であり、アジアから直接仕入れることに決めています」とバネッサ氏。「正式な唐辛子を手に入れるためだけにも全力を尽くしました」。
正統であることの他にも、ファム姉妹には克服しなければならない誤解があった。それは、みんな大好きな中華風オレンジチキンやクリームたっぷりバターチキンのように、米国人の好みに合わせた外国料理の脂っこくてジャンクなイメージだ。
各国の文化の代表とされがちなこれらの人気料理は、たとえばインド文化を受け継ぐ移民家族が毎日食べているであろう料理よりも数段不健康にできていることが多い。Omsomはそこを、保存料もブドウ糖果糖液糖も使わずに1年間保存可能な料理を提供することでひっくり返そうとしている。それは「自然食品チェーン店に並んでもおかしくない、健康に気を遣いたいユーザーに受け入れられる」ものだ。
今、ファム姉妹に残る課題は、このパンデミックの最中に妥協のない料理を約束どおり配達する手段の確保だけだ。人々が家に閉じ込められ、いろいろな料理を試したいと考えている社会の様子を、彼女たちは嬉しい変化だと見ている。
「私たちは、ほとんど白人ばかりのボストン南部の郊外で育ったため、私たちの食事のことを少し恥ずかしく思ってました」とキム・ファム氏は話す。「しかし、有色人種の女性として自己を確立しようと努力し始めたとき、自分のアイデンティティーへの関わりの第一段階として食事を使うことにしたのです」。
「家から離れて、いつものとおりベトナム語を使わずにいましたが、私は食事に意識が向くようになりました」と彼女。「たった1杯のフォーにでもです」。
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(翻訳:金井哲夫)