海の生物は我々とは大きく異なる世界に住んでいる。人間は生きていけない。しかし、我々の世界もまた彼らにとっては致命的だ。鋭いエッジや素早い動きが容易に彼らを傷つける。海に住む柔らかな体の生物を捕まえて観察するには、そのための機械も柔らかくなくてはいけない。ハーバード大学のロボット工学研究はそれが目的だ。
深海から標本を集める作業を安全に進めるのは難しい。深海生物は地上の生物よりはるかに厳しい圧力や温度にさらされているが、手で触れるだけでも容易に傷ついてしまう。これまでに研究目的で収集する方法は、圧力を保った小さな容器に吸い込んで地上に持ってくるものが多かった。しかし、魅力的で小さな生き物たちを手にとって、試験管の中で観察できたらどんなにうれしいだろうか。
そのために、ハーバード大学のワイス研究所では、そういう生物を一時的に捕獲し、写真を撮ったり組織を採取したあと解放するための安全で簡単な方法を研究している。
一年少し前、彼らは「underwater Pokéball」を作った。クラゲや浮遊する魚を包み込む柔らかな多面体構造の仕掛けだ。しかし、こんな方法を採ったとしても、容器を閉じるときに潰してしまう可能性がある。
そこでチームは「ヌードル状の付属器官」を研究した。普段は茹でたスパゲティー(というよりその形状からはフェットチーネ)のように、自由に曲がってものを傷つけない。
それぞれの「指」は、「伸縮性だが堅牢なシリコン材料」で作られており、内部の小さな繊維がふだんは柔らかいが、使用時には僅かな水圧を使って硬直させることができる。こうすることで、全部の指を特定の方向(ここでは内側に)に曲げて、このソフトな3Dプリントされた「手のひら」で、届く範囲のものを捉えることができる。つかみ方は柔らかくて相手を傷つけることなく、しかし身をくねらせて抜け出ることがないくらいの強さだ。
指の大きさや長さにはほとんど制限がないので、操作に応じてカスタマイズして使うことができる。映っている装置は、一般的なクラゲを捉えるのに便利だが、もっと大きな動物や小さな動物を扱うようにも簡単に拡大縮小できる。
装置全体を水中で使うことも可能だが、小さくて単純な構造なので研究者が手に持って標本採取するハンドヘルドガジェットを作ることもできる。彼らはプロトタイプを作り、「このハンドヘルドソフトグリッパーを使って、3種類の一般的なクラゲ種を優しくつかむところを演示できた」とコメントしている。
これで、海中にクラゲの破片が少なくなることを望むとともに、いつかはそんなグリッパーをレンタルして、シュノーケリングしながら、傷つきやすい海洋生物を自分の手でつかむ(非推奨)ことなく観察できるようになるかもしれない。
研究論文は、論文誌のScience Roboticsで本日発表された。
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(翻訳:Nob Takahashi / facebook )