全社員に弱音も話す、5人から50人の社長となって見つけた組織の成長戦略とは?

28歳で起業後、1年でM&Aを成功させた成井五久実氏。買収先の会社で5人から50人規模の会社の代表になり、書籍を執筆したり講演会に登壇したりするなど、現在進行形でサクセスストーリーを描いているように見える。

しかしその裏で、経営統合してできた企業の代表としての苦悩も。違うカルチャーを持つ従業員同士の連携や新しく経営を共にする役員との信頼向上など、3年間「当たり前のこと」積み重ねてたどり着いた、成長する組織の作り方とは。

成井五久実(個人ブログ
1987年福島県生まれ。東京女子大学後、新卒でDeNAに入社。デジタル広告営業を経験する。その後トレンダーズに転職。2016年、28歳でJIONを設立する。会社設立から1年後の2017年、3億円で事業売却。現在は、ベクトル傘下のメディア運営会社スマートメディアのCEOを務める。

経営統合の課題は「従業員同士の連携」と「役員陣への信頼」

成井氏が代表を務めていたウェブメディアを運営するJIONは2018年、ベクトルに事業譲渡。同年、同じくメディア事業でベクトルに買収された4社が統合され、新体制でIPOを目指すスマートメディアが設立され、CEOに就任する。

JIONは高校時代の友人や前職の同僚など信頼関係のある5人で構成されていた。しかしスマートメディアは統合して集まった異なるカルチャーを持つ50人規模の組織。

「昔から大きな組織を作り社会にインパクトのある企業を作りたい、と思っていたので、スマートメディアの代表になったのはとても光栄なことでした」。

「しかし年齢やカルチャーがまったく違う会社が統合したことで、事業の多角化が進むと同時に、従業員間には感情の隔たりがありました」。

「さらにトップが急に変わったことで、人間の心理上ハシゴを外されたような気分を味わった従業員も多くいたと思います。なので1年目は「従業員同士の連携」と「経営陣への信頼向上」というのが大きな課題になりました」。

組織をまとめるために行った3つの施策、ビジョン策定とオフィス移転、そして人員強化

組織をまとめるためにまず始めたのはビジョンの策定

「ICCなどのカンファレンスで組織戦略の講座を受講し、経営者に必要なことを改めて学びに行きました。話を聞いていたらどこでも『ビジョンを決めて啓蒙すること』が大切だと言っていて。確かに、目指す目標を共有し『ひとつの船に乗っている』という認識を持ってもらうためには必要不可欠です」。

「とはいえ、そんなのすごく当たり前なことだと思いますよね。でも意外とビジョンがなかったり、あったとしても浸透していなかったりする企業は多い。だからこそ、きちんとビジョンを作り理解を深めてもらうようにしようと思いました」。

会社設立した3カ月後、役員とビジョニングを専門としているクリエイティブエージェンシーのNEWPEACEを交えてビジョンを設定した。打ち立てたビジョンは「Update Media,Update Human」。

「統合した4社はメディア事業をしていたという共通項があります。だからメディア産業をテクノロジーの力でアップデートしていきたい。そして人間の感性を刺激し、私たち自身もアップデートをしていく。そのような思いでこのビジョンを作りました」。

ビジョンはできたものの、社内に浸透させるには時間がかかる。そこで、統合前のまま点在していた複数のオフィスをワンフロアに移転。

「物理的に近くなると心の距離も縮まるので、一気にまとまりが出ました」。

「さらに人員強化も行いました。まず自分より能力が高く、信頼できる人を経営陣に加えたく、当時VOYAGEGROUPの取締役だった戸崎さんにジョインいただいたことでグッと経営が安定しました」。

「次に各事業部で、会社に対して貢献度合いが高い人材をマネージャーに任命し、事業の数字を担ってもらう仕組みに。経営陣とマネージャー6人が隔週で集まり密にコミュニケーションを取ることで、マネージャーから現場へビジョンやトップの声が届くようにしたんです」。

CEO自ら営業で数字を取り、組織成長を牽引する

1年目にビジョンの策定、オフィス移転、人員強化の実施。そういったひとつひとつの施策を丁寧にやることで、バラバラだった組織が少しずつまとまりを見せるように。従業員の発案で夜にボードゲーム会を開いたり、飲み会が開催されたりと事業部の垣根を超えたコミュニケーションが活発になった。

「月に一度の全社会も始めて、毎回冒頭に私があいさつするようにしました。カッコいいことを言っても刺さらなかったら意味がない。だからこそ、素直に感じていることを話します」。

「例えば、最初のほうは『みんなと目線が合っていない気がする』と弱音もはっきり言っていましたね。自分をよく見せようとせず本音をぶつけたことで、役員への信頼度も上がったと思います」。

同社の代表になり2年目に入った2019年。事業をさらに拡大させるため、会社員時代に年間1億円の受注を取っていた実績のある成井氏自身が営業の最前線に立つことに。

「トップが口だけだと周りはついてきません。だから自ら現場に立ち営業をして、数字を出すことにこだわりました。私が誰よりも働いている姿を見せることで、現場にも熱量を感じ取ってもらいたいと思いました。その結果、マネージャーを筆頭に数字にコミットする組織文化が形成され、会社全体で売り上げも前年比で2倍の成長率を更新しています」。

さらに初年度赤字が見込めた際には、最後のクオーターに自身のお給料を全カット。体当たりの経営を実施した。

すでに2回ピボット、環境の変化に対して柔軟に対応できる組織に

実はスマートメディアは小さなピボットを重ねている。

「1年目はメディア運営をメインにしていましたが、キュレーションメディアの需要が下がり、さらにはSNSインフルエンサーの流行により、メディアの細分化が進んだことからタイアップ広告が頭打ちになっていました。受託開発やD2C事業も並行して行っていましたが、事業拡大を狙えなかったため事業の柱にはなりませんでいた」。

「そこで2年目からサブスクリプションの形態で売上が増えていく企業のオウンドメディア事業に力を入れました。メディアのPVを伸ばすノウハウを持った我々が、企業のオウンドメディアの運営をサポートすることで、顧客のマーケティング課題を解決する。この戦略がはまり、今では弊社で一番拡大している事業になっています」。

さらに3年目の今年はオウンドメディアのCMS事業「Clipkit」を運営するラグルとの経営統合を果たし、オウンドメディアやキュレーションサイトなどのウェブメディアをすぐに構築できるBtoBのSaaS型のCMSクラウド事業にピボットをしている。

「スマートメディアは5つの会社がひとつになり、柔軟な組織づくりによって成長しています。だからこそビジネスモデルにも固執しないようにしています。今はスマートメディアという社名ですが、もはやメディア事業という型には収まりきらない進化を見せています。今後は情報を届けたい人が、狙ったターゲットにリーチできるBtoB SaaS型のコンテンツプラットフォーム事業を強化していくつもりです」。

「そして世の中の流れをいち早く察知して方向転換や軌道修正を行い、事業拡大していきたい。IPOをして時価総額3桁億円を超える優良企業を目指します」。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。