共有と熱量がオープンイノベーション成功の鍵、Scrum Connect 2018レポート

米シリコンバレーでアーリーステージのスタートアップ企業を中心に投資を行っているVC(ベンチャーキャピタル)のScrum Venturesは、2018年11月19日に米国で活躍する起業家によるセッションや投資家同士のネットワーキングを目的としたイベント「Scrum Connect 2018」を開催した。

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「Scrum Connect 2018」の会場の様子

「ビジョンの共有」と「熱量」がオープンイノベーション成功の鍵

「日本における、オープンイノベーションの現状と展望~Nikkei Startup X Special Session​~」では、実際にオープンイノベーションを起こしているバカン代表取締役の河野剛進氏とエクサウィザーズ取締役の粟生万琴氏が登壇し、それぞれの取り組みについてのトークセッションが行われた。

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バカン代表取締役の河野剛進氏

バカンは「VACANT(空いている)」という言葉が語源で、レストランやカフェなどの空席情報を提供する「VACAN(バカン)」、トイレの空席管理IoTサービス「Throne(スローン)」、お弁当を探して取り置きができる「QUIPPA(クイッパ)」の3つのサービスを展開している。

京都大学、大阪大学出身者のエンジニアが創業したベンチャーと静岡大学情報工学部のベンチャーが一緒になったエクサウィザーズは、AIを利活用したサービス開発を進めている。高齢者の認知症患者のケアの技法としてフランスで開発された「ユマニチュード」を広げるケア事業、労働人口減少に向けたHR(人事)テックなど、社会課題解決に向けた6つの事業を展開しているという。

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エクサウィザーズ取締役の粟生万琴氏

ケア事業では、認知症患者をケアするコミュニケーションとスキンシップのメソッドである「ユマニチュードケア」の達人の技をAIが学習し、その内容をコーチングすることで技能を伝承する実証実験を行っている。

ロボット事業では、製造業の労働人口減少という課題を解決するためにロボットの導入を進めている。通常はロボットが動作するための複雑な制御プログラムが必要になるのだが、人間の動作をAIが学習して再現することで、複雑なプログラミングなしにロボットの導入ができるように開発を進めているところだ。創業間もない頃にデンソーから無償でロボットを借り受け、開発を進めることができたと粟生氏は話していた。

オープンイノベーションを成功に導くために重要なこととして、バカンの河野氏は「熱量」を挙げた。「私たちもそうだが、熱量がないとコラボはうまくいかない。本気でこういうサービスを世の中に一緒に広げていきたいと思ってもらえることと、困難があっても乗り越えようという思いがあること。それを大企業の上の方が認めて『やってみなはれ』と言ってくれる環境があるかどうかが大事だ」(河野氏)。

河野氏は続ける。「プロダクトができきっていない時に、よく分からない人たち(スタートアップ企業)から提案を受けて、それを自社で取り組むかどうかを判断するのは大企業の方にとってすごく難しい。その企業の中に本当に熱心な方が『このサービスはあるべきだ』と考えて一緒に伴奏してくれて、実証実験をしていただいたり、そこで出てきた課題をどう解決するかを一緒に悩んでいただたりした。価格についてもアドバイスをもらいながら作ってきた。大変だったが、まさにオープンイノベーションが普及した中で乗り越えられたと思っている」

エクサウィザーズの粟生氏は「受発注の意識じゃオープンイノベーションは成立しない」と語る。「私たちも『受託している』という意識をまず捨てることが非常に重要だ。本気で投資していただく代わりに、我々スタートアップが技術を含めて一緒に汗をかくこと。会社対会社ではあっても、熱量を一緒に上げていく中で『誰』と『何をやるか』が重要だ。お互いの人となりや価値観を話しあう場を最初に無駄にしなてはいけないと思った」(粟生氏)

バカンの河野氏も「相手とビジョンが一致ことが重要」だと語った。「多少トラブルがあったとしても、ビジョンさえ合っていればこれから何をすればいいか案を出しながら解決したり、修正したりしていける。将来どういう世界を作っていきたいかをお互いに語ったり、そういうことを応援してくれる方たちなので、共感できるビジョンを最初にしっかりプレゼンするといいと思う。スタートアップの組織内もそうだが、しっかり話し合ってお互いに信頼関係を築くこと。自分の欲だけではオープンイノベーションはうまく行かない。ここは譲れるけどここは譲れないというメリハリを付けるのも大事だと思う」(河野氏)。

一緒に熱量を上げて共創していくためのポイントとして、大企業側の担当者に気持ちよく仕事をしてもらうための取り組みが重要だとエクサウィザーズの粟生氏は語った。「オープンイノベーション担当者は大企業の中ではどちらかというとマイノリティだと思う。そういう人が社内で気持ちよく仕事をしていただくためには、縦の人間関係だけでなく横や斜めの部門にも我々を紹介していただくなどして、新規事業担当者がやっている取り組みを一緒になって語るような形に入り込んでいる。むしろ我々スタートアップのメンバーをうまく使ってほしいと思う」(粟生氏)

バカンの河野氏も「担当者の評価が上がるように僕たち自身も頑張るというのが大事で、『このアライアンスのKPIは担当者の評価が上がること』というのを繰り返し言いながら進めている」と語った。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。