動画中の顔をぼかして本人同定を不可能にするプライバシー技術のD-IDが14.5億円を調達

もしもFacebook(フェイスブック)が、TechCrunch Startup Battlefield(スタートアップ・バトルフィールド)に登壇したD-IDのような技術を利用していたら、Clearview AIといったプライバシーを破壊するソフトウェアにすべてのユーザーの顔をさらすことはなかっただろう。

D-IDの創業者でCEOのGil Perry(ギル・ペリー)氏も、彼のスタートアップが持つ技術の重要性について述べるとき、同じことを口にしている。

D-IDは「de-identification(匿名化)」という意味で、一見すると単純明快だが実はきわめて複雑高度な技術を使ってデジタル画像にぼかしを入れて、画像内の人物を特定できないようにする。

現在、新型コロナウイルス(COVID-19)パンデミックにより世界中の政府や民間企業が監視技術の利用機会を増やしているため、このような対抗技術の出番が来たといえるだろう。

ペリー氏は「世界中の政府や企業が今の新しい現実を口実にして、監視社会を強化しようとしている」という。彼の故国イスラエルの政府も、追跡技術を使って携帯電話上の対話をモニターしていた。携帯電話の位置データを利用して、その人が新型コロナウイルスの感染者に接触していたかを判定していたのだ。

消費者も規制当局もこの問題に気づきつつあるが、多くの場合、被害はすでに現実だ。ソーシャルメディア企業にはすでに、Clearview AIやClearView、HighQ、NTechLabsのような企業がかき集めた大量の画像がある。そして私たちの個人情報の多くが、すでにオンラインで流通している。

しかしD-IDは、まだ負けたとは思っていない。ペリー氏とイスラエル陸軍のサイバーセキュリティおよびサイバー攻撃部隊8200にいたSella Blondheim(セラ・ブロンドハイム)氏およびEliran Kuta(エリラン・クタ)氏が創業したD-IDは、匿名化技術のニーズは今後増えると考えている。ヨーロッパや米国の一部の州では、プライバシー保護が新たに法制化されているからだ。

同社はその技術の以外のアプリケーションも研究している。画像中の顔をぼかすD-IDの技術とサービスは、画像やビデオのディープフェイクを作るためにも使える。

ペリー氏によると、このようなデジタル加工の市場はまだ黎明期にあるという。しかしそれでもAXA Venturesを始めとする投資家たちの心を捉え、同社がリードする1350万ドル(約14億5000万円)の投資ラウンドにPitango、Y Combinator、AI Alliance、Hyundai、Omron、Maverick(U.S.)そしてMindsetらが参加した。

D-IDによると、すでに自動車メーカー企業からの需要があり、ドライバーのリアクションは記録するが本人を同定する情報は残さないために、彼らはその技術を運転をモニタするシステムの匿名化に利用したいようだ。また、侵犯などをモニタするセキュリティ技術にも、同じく匿名化技術のニーズがあると同社はいう。閉回路テレビが物理空間をモニタするが、その際に、ビルに出入りする人を同定する情報を集める必要はない。

ブロンドハイム氏は 「監視の強化と個人のプライバシーの保護を両立させなければならない企業は、保存したデータを匿名化するか、それともプライバシーの法律を冒して高額な罰金を覚悟するかの二者択一に迫られている」という。

D-IDの高度な技術はすばらしいだけでなく、創業者たちの主張によると現代社会においてプライバシーを確実に保護するために必要な、自衛のためのツールでもある。D-IDのCEOは一般消費者もそんな技術を求めている、という。

「プライバシーの意識と、プライバシーを強化する技術の重要性が増している」とペリー氏は述べている。

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

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TechCrunch Japan

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