古いメディア大企業が次なる策としてVCに目を向け始めた

ウェブ1.0とウェブ2.0の時代は、世界の大きなメディアコングロマリットにとって優しいものではなかった。それまでのビジネスモデルに疑問符がつくようになり、コンテンツ消費する全く新しいカテゴリーをつくり、オンライン上での購読や価格設定などでの競争を展開することになった。1990年代から2000年代はじめにかけてのメディア大企業の多くは、数十億ドルもの企業価値を持ったマーケットリーダーであったが、会社を発展させるための戦略としてスタートアップに積極的に投資するようになった。

コーポレートVCをするようになった従来のメディア企業には、はっきりとした2つの戦略がある。一つは、長年展開されてきた新聞の広告に取って代わり、消費者向けマーケットプレイスを多様化させるための投資だ。もう一つが、メディアを再形成するスタートアップの動きをいち早くとらえることを(初期の株取得も)狙った投資だ。

広告に代わり、マーケットプレイスに投資する

ベルリン、ドイツ – 6月6日:2018 NOAH会議で話すAxel SpringerのCEO、Mathias Doepfner。この年次会議にはスタートアップのリーダーや起業家、投資家、メディアが参加した(写真: Michele Tantussi/Getty Images)

1990年代と2000年代初期にテックスタートアップによって新聞グループにもたらされた初の危機はオンライン広告のサイト(Craigslistとか)と取引マーケットプレイス(eBayやAmazonなどの興隆で、それまで儲かっていた広告収入が減ることで彼らの注意はeコマースへと向かった。

ハースト社はさておき、新聞や雑誌を複数発行している米国の主な企業ーガネット、ニューズ・コーポレーション、メレディス・コーポレーション、タイム、デジタル・ファースト・メディアなどーはこれまでさほどスタートアップに投資してこなかった。おそらく、ほとんどの新聞社の経営は苦しく、数年間は見返りがないVC投資に回すだけの現金が手元になかったからだろう。

しかし北欧や中欧では、ニュース会社や出版社の財政状況は比較的健全で、主要なメディアグループは過去10年間、マーケットプレイスや欧州にまたがるeコマーススタートアップに積極的に投資している。

欧州をリードする出版社Axel Springerはすでに欧州スタートアップ業界では確固たる地位を築いている。Axel Springerのデジタルベンチャーチームは車のCaroobiやAirbnbなどのマーケットプレイスに出資し、Axel Springerのベルリン拠点のアクセラレータ(Plug & Playと共同運営)はデジタル銀行N26やボートレンタルマーケットプレイスのZizoo、インフルエンサーブランドのマーケットプレイスblogfosterなど、100以上の若いスタートアップに投資してきた。本業での戦略として、従業員1万5000人を抱えるこのメディアグループはARのユニコーン、Magic Leapに今年2月に大規模な投資を行なった。その際、コンテンツIPをレバレッジするパートナーシップも締結した。

一方、ノルウェーのSchibsted、スウェーデンのBonnier、ドイツのHubert Burdaメディア(テックに詳しい人にとって、ミュンヘンで毎年開かれるDLD会議で知られている)とホルツブリンク出版もグローバルで積極的に動いていて、主にeコマースブランドやマーケットプレイスの初期または成長段階VCポートフォリオで活発で、何十億ドルも投資している。

新聞コングロマリット(または類似する他企業)による最も象徴的な企業ベンチャー投資は、2001年に南アフリカの出版グループNaspers(1915年創業)が、設立3年の中国のソーシャルウェブスタートアップTencentに3200万ドルもの投資を行った一件であることに疑いの余地はない。Tencentの企業価値は現在4000億ドルで、アジアで最も大きく、そしてパワフルなデジタルメディア企業だ。Naspersが今年3月に保有するTencentの株式を100億ドルで売却したとき、Naspersの保有株式31%の価値はおおよそ1750億ドルだった。

当然の帰結として、Naspersは世界中のオンラインマーケットプレス事業を支援・育成し、買収し、そして投資するホールディング・カンパニーへと姿を変えた(かなり小さい出版部門はまだ残しているが)。

メディアという領域外のスタートアップに投資する従来のメディア企業にとっての課題はというと、たとえその投資がかなり成功したとしても、メディア業界での目立ったアドバンテージにならないこと、ビジネスモデルをじわじわとテック企業のモデルのようにはできないことだ。これらの投資は経営上、大きな混乱を引き起こしかねず、主要事業を再度見直すのに失敗すると、株主たちは会社に刷新を要求する。AirbnbやBaubleBarに投資をすることは、従来の出版グループにとって重要なチャレンジやチャンスを意味するものではない。

それゆえに、この戦略でメディア企業にとって一番良いシナリオは、 Naspersがとった方法にある通り、まずはコンテンツ競争を抜け出して経営で成功を収め、他の消費者向けブランドのホールディング・カンパニーになることだ。しかしその後の道のりは不透明かもしれない。他の全ての活動にかかわらず、Naspersの時価総額はTencent株の時価総額より小さい…一番良いシナリオが必ずしも中心的な組織の変更であるかどうかは不透明だ。

次世代メディアへの投資

社の年次報告会に出席するドイツのメディアグループBertelsmannのCEO、Thomas Rabeー2018年3月27日、ベルリン / AFP PHOTO / Tobias SCHWARZ (Photo credit should read TOBIAS SCHWARZ/AFP/Getty Images)

 

“古いメディア”がとる別の道は、メディア事業の将来を明らかにする手段としてVCにフォーカスするというものだった。そうすることで古いメディアは新世代のメディア起業家から学ぶことができ、競合相手よりマーケットの変化に素早く対応できる。興味深いことに、こうした戦略をとったコングロマリットは、新聞事業よりもテレビやラジオ、データ、通信事業を運営しているところだった。

ベルテルスマン、ハースト、そして21世紀フォックスは、ストリーミングビデオサービスやクラウドソースストーリーテリングプラットフォーム、または拡張現実といったメディアの将来を作ろうとしているスタートアップに最も積極的にCV投資している企業だ。

年間170億ユーロの収益を上げているベルテルスマンは世界で最も大きなメディア企業の一つで、事業はテレビ制作や放送(RTLグループ)、書籍出版(ペンギン・ランダムハウス)、新聞、雑誌出版(GrünerとJahr)、そして教育など多岐にわたる。しかしメディア企業には珍しく、メディアスタートアップへのベンチャー投資をサイドプロジェクトとしてではなく、社の主要部門と位置付けている。

社の主要事業であるベルテルスマン・デジタルメディア投資(BDMI)はAudible、Mic、The AthleticそしてWonderyといった米国、欧州の企業に投資しているが、と同時に中国、インド、ブラジルにフォーカスして投資するファンドと、ニューヨーク市を拠点とする教育にフォーカスした大学ベンチャーファンドも抱える。2017年の年次報告書によると、ベルテルスマンのチームは2017年、スタートアップに合計40もの新規投資を行い、その見返りとして1億4100万ユーロの収入を得た。

2017年の収益が108億ドルと米国最大の出版社の一つ、ハーストの投資部隊はBuzzFeed、Pandora、Hootesuite、Roku、そして言うに及ばないが中国の言語アプリLingoChamp、ライブエンターテイメントブランドのDrone Racing League、VRスタートアップの8i、その他数十ものメディア関連スタートアップに投資してきた。こうしたベンチャーにおけるハーストのオーナーシップは戦略的なものだ。主要事業に関連するマーケットの動向をとらえ、素早く提携を結ぶ機会を確保する。変化するマーケットの中で企業の存在意義を高めるような戦略的買収のターゲットを探すことにもなる。

21世紀フォックスとスカイ(21世紀フォックスはスカイの株式39%を保有し、すぐにも買収しようとしている)の両社は過去数年、メディア部門の多くのスタートアップに投資してきた。ライブストリーミングプラットフォームCaffeineへの1億ドルもの投資(9月5日に発表された)に加え、Meg Whitman主導のWndrCoのNewTVベンチャーへの巨額投資、そしてフォックスは、スポーツ中心のOTTサービスfuboTV、ヒットしたニュースレターブランドTheSkimm、VRスタジオのWITHIN、ファンタジースポーツアプリDraftkingsにスカイとともに繰り返し投資してきた。スカイはiflix(東南アジアと中東における主要ストリーミングビデオサービス)のような国際的なスタートアップに共同で投資したり株式を取得したりしてきた。

従来のメディア大企業は、ヒットしたショーや映画など広範にわたる知的財産、人気のライブイベントの権利ー何百、何千万人に配信するチャネルは言わずもがなだろうーを所有し、メディア企業そしてスタートアップ双方に益をもたらすような、パートナーシップも目下抱える。こうしたメディア企業は所有権を構築するのに往々にして繰り返し投資を行い、提携を深める。これはメディア企業がマーケットプレイススタートアップに投資するときにはあまり起こらない。

Tencentの常に展開するモデル

NetflixやSnap、VICEそしてBuzzFeedを含むデジタルメディア大企業の新たな収穫は、戦略的な投資でもしない限りさほど多くはない。その代わり、彼らは主要プロダクトの成長にフォーカスしている。大きな例外がTencentだ。

中国でブームとなりつつあるメッセージアプリ部門をWeChatとQQで独占しているのに加え、中国における音楽ストリーミングの75%のマーケットシェアを持っている。また、自社スタジオ(Riot Games、Supercellなど)により世界でも有数のゲーム開発元でもある。Activision Blizzard、Epic Games、その他の少数株式も保有し、Tencentは度々、成長が見込めるデジタルメディアスタートアップに初期段階での戦略的投資を行うという戦略をとってきた。彼らは全てに対して触覚を働かせている。

Crunchbaseデータに基づくと、Tencentはスタートアップに300件超も投資してきた。中国において、最もアクティブなベンチャー投資家だ。投資は中国内に集中しているが、SoundHound、Wattpad、Spotify、Smule、そしてWonder Workshopといった西側のメディアスタートアップにも投資している。

Tencentはこれらのスタートアップに多くのデジタル資産を通して流通手段を提供し、これによりどういう新しいコンテンツフォーマットやビジネスモデルが伸びているかを常にウォッチすることができる。Tencentは常に展開するという方針のもとに動いていて、コンテンツの制作や流通、収益化で将来重要な資産となり得るプロダクトを持つスタートアップに飛びつこうとしている。こうしたアプローチというのは、古いメディア大企業、そして次世代のユニコーンとなるメディアスタートアップが検討すべきものだ。

イノベーションのペースは速く、購読制ストリーミングやesportsといったものから音声インターフェース、ARに至るまで、新たな扉が多く開かれている。“古いメディア”と分類されてしまう前に、コーポレートベンチャーを主要戦略とすることで発展する機会を組織は手にすることができる。

イメージクレジット: Mark Kauzlarich/Bloomberg / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi)

投稿者:

TechCrunch Japan

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