AIを使ったオーディオサービスが増え、カスタマーサービスで音声が頻繁に使われるようになっている。しかしモバイル時代のコミュニケーションとしては、メッセージが重要なプラットフォームであり続けている。そしていま、Zipwhipというスタートアップがテキストベースのメッセージをカスタマーサービスに持ってこようとしていて、このほど5150万ドルを調達した。このスタートアップは、固定電話、IPネットワーク電話、またはフリーダイアルなど、どの電話からもテキストメッセージで顧客とやりとりできるプラットフォームを事業者に提供している。
シリーズDとなる今回のラウンドはゴールドマンサックスが主導し、既存投資家のOpenView、M12(以前はMicrosoft Venturesという名称だった)、Voyager Capitalが参加して累計調達額は9250万ドルとなった。シアトル拠点のこのスタートアップの共同創設者でCEOのJohn Lauerはインタビューで「今回のラウンドに伴う評価額は公開しないが、数字は“間違いなく以前よりも大きい”」と述べた。
今回は、2017年9月に2250万ドルを調達した前回からZipwhipが取り組んできたことを成長させるためのラウンドだ。
顧客基盤としては、大企業100社を含む2万の事業所(2017年は6500事業所だった)の330万もの電話番号を扱っていて、昨年、売上高は80%増えた。そして、事業所の電話回線でテキストを使って質問に答えたり、物を売ったり、苦情を受けたりできるようにするために、米国の全ての大手通信会社と契約を結んだ。
その他の国の通信会社と事業所にはまだ取り組んでいる最中で、米国でもまだ大きく成長する余地を残している。同社は北米だけで事業所が所有する電話回線が約2億あると推定している。
Zipwhip、そしてOpenMarket(Lauerが以前働いた会社)やMessageBird、Twilioなどその他の似たような企業が取り組む中で、マーケットにおけるギャップは何かと言うと、多くの事業所が物を売ったり苦情を受けたり、テクニカルな問題やそのほかやりとりを要することを解決するのに顧客と電話や電子メール、ウェブサイトでコミュニケーションをとるインフラを備えているが、一方で顧客の多くは普段の生活ではテキストメッセージを使っていて、企業とのやりとりでもテキストメッセージが使えればいい、と考えていることだ。
実際、Lauerは、人々がテキストメッセージを受けられない番号にテキストメッセージを無意識に送ろうとしり、テキストしてきた組織に返事のテキストを送ろうとした結果、多くの接触を逸しているとしている。そうした電話番号は返事を受け付けないので、メッセージは届かない。
別の言葉で言うと、Zipwhipスタイルのサービスがいま存在している以上にもっとあってしかるべき、と多くの人が考えている。
(ちなみに、これは幾度となく私が考えてきたことで、私だけではないと推測している)。
Zipwhipは、企業がカスタマーサービスに使っているどの電話番号でも利用できるプラットフォームを提供することでこの問題を解決しようとしている。
テキストメッセージが電話番号を介して入ってくるとき(ここで通信会社の協力を必要とする)、テキストはZipwhipのプラットフォームを経由する。そうすることで、エージェントや販売員、またはテックサポートのダッシュボードにテキストが表示され、読んで返信できるようになる。
典型的な活用法はベーシックな顧客サービス・サポートだが、Lauerはスポーツチームが契約してチケットの販売に同社プラットフォームの使用を開始したことや、他の活用例も示した。
今のところ、メッセージは人に届けられていて、ロボット化は最小限だ(または、機械学習をベースにしたやや不自然な言葉による自動応答を活用している)。たとえば、テキストが送られたのが営業時間外だった場合、テキストの送り主に「営業時間にこちらから連絡します」との返答が送られたり、テキストプラットフォームを通じて基礎的な情報を得ることができるオプションを案内したりする。
「まだ初期段階だが、最近の反応としては、事業所や顧客はチャットボットを嫌っている」とLauerは話す。「まだ試行錯誤中で、今後が楽しみではあるものの、人にとって代わるというのはあまり考えられない」。
(Zipwhipの料金はボリュームに比例する。1つの電話回線の月額料金は35ドル、複数の回線だと100ドル。またかなりの回線を扱う企業向けの料金は応相談だ)。
もちろん、電話を使ったメッセージといったら最近はスマホのことで、FaebookのMessenger、WhatsApp、Viber、WeChat、Instagramといったアプリの使用をさす。こうしたサービスの多くはB2B2Cに参入する機会があることを認識し始めた。たとえばWhatsAppは、質問に答えたり、リクエストのあった情報を提供したりするのをサポートする企業向けにWhatsApp for Business APIの展開を開始した。また、MessengerはシンプルなQ&Aやボットを介した購入など、事業所がやりとりできるようにするサービスを倍増させている。
興味深いことに、Zipwhipは全く異なるアプローチをとっていて、そうしたアプリをまだまったく統合していない。その代わり、ネイティブのテキストアプリが電話にも使えることにフォーカスしている。Lauerは、これはプロダクトを展開する上で行なった調査の結果だ、と話した。
事業所のメッセージをアプリに取り込もうとメッセージアプリが努力しているにもかかわらず、Lauerは「ユーザーが企業にテキストメッセージを送ろうとするとき、ユーザーは本能的にMessengerやWhatsAppを使わないことが調査でわかった。テキストメッセージの使用は簡単で、デフォルトになった。これこそが、事業所が客に連絡をとる手段にしようとしている理由だ」。
大手のプラットフォームから、そうしたビジネスを展開しないか、との誘いもあった。ZipwhipはAppleの新たなサービスBusiness Chatの最初のパートナーのうちの1社だ。このサービスは事業所が顧客とコミュニケーションがとれ、iMessage経由で購入もできるというものだが、最近はさほど積極的に展開されていない。
そのことについて尋ねると、Lauerは「Appleは素晴らしい仕事をしている。そこに今まで以上に携わることを楽しみにしている」と如才なく言った。
Googleとの連携の方がより実のあるもので、RCSスタンダードを推進して数年になる。これは、アプリのような相互作用性と体験をベーシックなテキストメッセージに持ってくるというアイデアを推進するためのものだ。Googleと通信会社がメッセージアプリの出現に対処できるよう、まずはAndroidデバイスにもってくることを想定している。これは、Zipwhipがメッセージアプリの統合に積極的でない別の理由でもある。
「Googleは我々の顧客であり、パートナーでもある。RCSは我々が必要としていたもので、まさに取り組んでいるのはGoogleのためだ」とLauerは話した。RCSが使えるようにアクティベートされた電話はまだ多くはないが、増えつつある、と彼は付け加えた。「より多くの通信会社が、それに合わせて地上波をアップデートする予定だと聞いている」。
顧客として、GoogleはAdWordsのようなサービスを展開するのに多くのテキストメッセージを送っていて、このテキストは全てZipwhipのプラットフォームを介して行われている。
Lauerは、同社が成長し、アプリの人気がかなり高まっているにもかかわらずテキストメッセージ分野にまだチャンスが残されていることを投資家に示したため、資金調達は“かなり容易”になった、と語った。
「Zipwhipは、巨大なマーケット、産業イノベーションで証明された歴史、そして会社をそう遠くない将来に成長・進化させるSaaSベースのアプローチの3つが交わるパワフルな交差点にいる」と、ゴールドマンサックスのプライベートキャピタル投資グループ責任者Dorr. Hillel Moermanは声明文で述べた。「Zipwhipのプロダクト、チーム、企業ビジョンでもってZipwhipは成功路線を進み続ける。事業所と顧客がコミュニケーションをとるための良い方法に対する需要は増大していて、今後Zipwhipを率いるチームと共に働くのを楽しみにしている」。
とはいえ、VC後もやるべきことはたくさんある。「今後の課題は、より多くの事業所に解決策としてテキストメッセージを活用することができる、と気づいてもらうことだ。まだ初期段階にある」とMoermanは指摘した。
イメージクレジット: cornecoba / Getty Images (Image has been modified)
(原文へ 翻訳:Mizoguchi)