大阪がスタートアップ都市になれんって誰が言うてん? TechCrunchは大阪でハッカソンやりまっせ!

TechCrunch Japanは来る4月12日(土)、13日(日)の2日間にわたって大阪でハッカソン「TechCrunch Hackathon Osaka」を開催することにしたので、お知らせすると同時に参加申し込みの受け付けを開始したい。場所は大阪・梅田のグランフロント大阪に入居しているイノベーションハブで、参加者50人ほどの規模を想定している。

今回、TechCrunchが大阪でハッカソンをやる理由は2つある。

1つは京阪神エリアが、スタートアップ企業がどんどん生まれてくる「スタートアップシティ」となるのを応援したいということだ。今回、会場となるイノベーションハブは大阪市都市計画局にお貸し頂くのだが、大阪市のスタートアップ誘致にTechCrunchとして共感している。東京がダメになったら日本はダメなのだから東京のインフラ整備にもっと投資するべきだということは思っているのだが、日本で2番めに大きい経済圏の関西が元気にならないようで、どないすんねんという気持ちである。これを書いているTechCrunch Japan編集長の私は生まれも育ちも大阪なので、なおさらそう思う。

大阪を関西圏のスタートアップシティの中心に

京阪神というのは大阪を中心に神戸、京都とも30分圏内である。関西圏のGDPは約80兆円もあり、これはオランダ並み――、というのが大阪市都市計画局で旗振りの先頭に立つ吉川正晃理事の主張だ。小さな先進国1つ分ぐらいの規模があり、そこにはシャープやパナソニック、任天堂、村田製作所など名だたる製造業の拠点があり、学研都市もある。質の高い人材がコンスタントに輩出される大学の存在と、10年とか20年単位で地元にコミットする人たちがいるという2点は、スタートアップコミュニティが根付く上で重要な条件だ。これは米国の著名アクセラレータ「Techstars」を立ち上げた起業家で、投資家でもあるブラッド・フェルド氏が著書「Startup Communities」の中で言ってることだ。ブラッド・フェルド氏は、コロラド州ボルダーという小さな街にスタートアップコミュニティを根付かせた立役者の1人だ。彼はボルダーで可能だったモデルは、ほかの都市でも適用可能であるはずだと主張している。

スタートアップコミュニティが育つ土壌が関西圏にはあると思う。欠けているものは、経済学者のリチャード・フロリダが「クリエイティブ・クラス」と呼んだタイプの人々が一定範囲の場所に集まる密度なのではないかという気がする。核融合のように一定の密度と熱量に達すれば連鎖反応が始まるものであるとするならば、必要なのは「ここにみんなで集まろう」という場所と、そこに集まるコアメンバーなのではないか。もしそうなら、大阪市の旗振りをキッカケに「よっしゃ、分かった!」と思う人たちは今こそイノベーションハブにもっと集まるべきだと思うし、それをTechCrunchは後押ししたい。

大阪イノベーションハブが入居しているグランフロント大阪

ロンドンかて、「そんなん無理」とみんな思ってたよ

掛け声だけで何になるねん、と冷めた見方をする人もいるかもしれない。しかし、ロンドンの事例なんかは参考になるのではないだろうか。

ロンドンの「シリコンラウンドアバウト」(イースト・ロンドン・テックシティー)と呼ばれるスタートアップ企業の密集地区が生まれたのはごく最近のことだ。先日、大阪で開催された国際イノベーション会議 Hack Osaka 2014で基調講演をしたBERG共同創業者でCEO、マット・ウェッブ氏によれば、「2008年頃のロンドンにはテックなスタートアップというのはなかった。みんなサンフランシスコやニューヨークを目指した」そうだ。私は2009年にシリコンバレーに行き、当時Y Combinatorのパートナーを務めていたハジート・タガー氏にインタビューしたことがあるのだが、彼はまさにロンドンからサンフランシスコへ移住した1人だった。そんな彼は、ロンドンにスタートアップコミュニティが生まれるというのは非常に考えづらい、と言っていた。2009年当時にタガー氏が言っていたのは、ロンドンのテック系のミートアップに行くと参加者のほとんどが非テック系のコンサルやMBA、法律家ばかりということだった。実際に起業しているアントレプレナーは50人中3人もいればいいほうだと肩をすくめていた。一方シリコンバレーのミートアップでは参加者の半分以上が起業家ということも普通にあり、しかも成功者がゴロゴロいる。こうした密度の違いは越えがたいと話していた。そのとき私は「東京がシリコンバレーのようになることはあると思うか?どうすればそうなると思うか?」と聞いたのだが、シリコンバレーの中東料理店でランチを頬張りながら、タガー氏が寂しそうにただ首を振っていたのを思い出す。

ロンドンでスタートアップ企業が密集している「シリコンラウンドアバウト」

2011年の時点でもロンドンにはスタートアップ企業が急増していた

その後、タガー氏の予想は良い意味で裏切られた。2010年の段階でロンドンにスタートアップ企業は15社のみで、そのうちテック系は10社を数えるだけだった。「シリコンラウンドアバウト」という呼び名は2008年に生まれているが、これは自虐的なジョークとしてTwitter上でつぶやかれたツイートが元になったという。ラウンドアバウトというのは、ヨーロッパに良くあるクルマが360度ぐるぐる回る信号のない交差点だが、ぐるっと歩いて回れる程度の範囲という「小ささ」を、シリコン「バレー」の「峡谷」(valley)に対比して生まれた呼称だった。ところが、その後に2011年にはロンドンにあるスタートアップ企業の数は200〜300社程度となり、2012年には1300社程度に急増。2011年頃からは政府主導の旗振りでシリコンラウンドアバウトではなく「テックシティー」という呼び名を得たことや、2012年にグーグルが空きスペースをスタートアップコミュニティに解放したことなどと相まって、風向きが変わったのだという。2012年から2013年にかけて、1万5000社ものスタートアップがロンドンで生まれ、デロイト・テクノロジー Fast 50によれば、ロンドンのスタートアップ企業の5年間の平均成長率は1382%にも及ぶという。2012年の英国政府の統計によれば、いまや新しく生まれる雇用の27%はテクノロジー産業が占めているという。

今ではロンドンは、ヨーロッパでもベルリンと並んで押しも押されもせぬスタートアップシティとなっていて、TechCrunch Disrupt Europeも今年はロンドンで開催するということを発表したばかりだ。

ウェッブ氏は講演で「大阪だってロンドンのようになれる」と話を締めくくっていた。大阪がロンドンになれるかは私には分からない(そもそも比較するならリバプールちゃうんけーっ!というツッコミもある)。けれども、土壌とモーメンタムさえあれば、数年で活発なスタートアップシティが生まれる可能性があるということじゃないかと思う。大阪がそうならないと誰に言えるのか。「無理だ」という人は多いけれど、ロンドンだって、ほんの数年前までそう言われてたじゃないかと思うのだ。

製造業の伝統がある大阪ならではの「IoT」を

大阪には商業とともに製造業の伝統がある。

ということもあり、今回のハッカソンのテーマは「IoT」(Internet of Things)としたいと思う。「モノのインターネット」とも訳されるが、今やソフトウェアが特定のデバイスの中で閉じている時代ではなくなり、あらゆるものがネット接続される前夜という段階にある。今回のハッカソンでは複数メーカーの協力が得られることになっているので、APIで操作できるデバイスを使って新しい価値を生み出すような、そういうハッカソンになればと願っている。

TechCrunchが大阪でハッカソンをやる理由はもう1つある。それは関西圏と東京を結びたいということだ。だから、今回のハッカソンで優勝、準優勝したチームには11月に東京・渋谷で開催予定の年次イベント、TechCrunch Tokyo 2014でのブース設置権を贈呈したいと思う。ブース展示はハッカソンで作ったプロダクトでなくても構わないので、「機会があれば、本業とは違うプロダクトも作ってみたい」と思っているようなスタートアップ企業のチームにも、気軽にご参加頂ければと考えている。

昨年秋に東京で行ったTechCrunch Hackathon Tokyo。今年は大阪からの参加も歓迎したい

ハッカソン初日にはチームビルディングをするのでチームでも個人での参加でもOKだ

大阪と「MVP」は相性がええんとちゃうやろか?

さて、テーマはIoTと言ったが、密かに掲げたいテーマがもう1つある。「MVP」(ミニマム・バイアブル・プロダクト)だ。TechCrunch読者には今さら説明するまでもないかと思うが、MVPは定義もマチマチのようなので改めて説明させてほしい。

私の理解では、「MVPとは何らかの機能やサービスに市場性があるかどうかが分かる最小のプロダクトの実装」ということで、Wikipediaの英語版にある記述 に近い(日本語版WikipediaにMVPの項はない)。潜在顧客やアーリーアダプターに提供可能な最低限の機能セットをもったプロダクトのことだ。

スマートウォッチ「Pebble」の生みの親のエリック・ミジコフスキー氏が国際イノベーション会議 Hack Osakaで講演したときにも、MVPの重要性を語っていた。Pebbleのプロトタイプを作るとき、ユニットあたり数ドルのコストのために素材を探しまわったことは、振り返ってみれば意味がなかったというのだ。そんなことよりも、開発者を巻き込むエコシステムを1日も早く作ってフィードバックをもらうことが大事だと後に理解したのだという。初期ユーザーはアーリーアダプターやファンが多いので、完成度に対する要求レベルが低い。だから、初期段階では素材にこだわるよりも1日も早くMVPを作って出せというのだ。

MVPという方法論は、実装コスト単価当たりで得られるマーケティング上の知見を最大化するアプローチという言い方もある。最近では、ヘタしたらプロダクトを実装すらせずに、「ベータ版を間もなくリリースします!」と書いたユーザー登録ページだけを用意して実際には1行もコードを書かずに済ませるという話も良く聞くようになった。

プロダクトなしのユーザー登録画面だけというのは極端だが、もう1つの極端は、最初からプロダクトの完成形を議論したり、仕様にまとめたりして全てを実装しようとすることだろう。プロダクトが提供するコアの機能だけに絞って、まず「手触り」が分かるような実装をして自分自身や周囲、アーリーアダプター層に出してみてフィードバックをもらったほうがいいということがある。

ゴチャゴチャつけんでええねん! 本質はなんや!?

先日、TechCrunch Japanのティップス(tips@techcrunch.jp)に寄せられた個人制作のWebサイトを見ていて、これこそMVPではないかと思ったプロダクトがある。それは「中学3年生までに習う英単語だけで書かれた海外の英語ニュースだけをピックアップして表示するWebサイト」だった。メールに書かれたURLをクリックしてみると、確かに英語圏のニュースの中でも比較的平易なものだけが表示されていた。トップ画面に表示されていたピックアップニュースのうち、10個中1個ぐらいはエラーとなっていたが、それがまた良かった。10個中1個のエラーなんて、アイデアがイケてるかどうかを知るという目的の前では、どうでもいいことだからである。ログイン機能も全く不要だし、まして記事にタグを付けて分類したり、タグをフォローするなんて機能も不要。ソーシャルでシェアするボタンすら不要だ。必要なことは、毎日対象サイトをクロールして自動更新されるサイトを作り、自分自身で1日に2、3個の記事をクリックしてみること。そして、それを友人らに使ってみてもらいつつTechCrunchにリンクを送りつけることなのではないかと思うのだ。実際に私が抱いた感想は、「英単語こそ難しくないものの、文体や内容が平易というのにほど遠くて、これは誰が読むサイトなのか分からない」というものだった。それ自体はネガティブな感想だが、手を動かして実装してみたのは素晴らしいと思うし、あれこれ機能を付けずにコアバリュー1つだけに絞って実装してあったこと、そして荒削りなのを気にせずにTechCrunchに送ってきたことも素晴らしいと思った。

TechCrunchに送られてくる新サービスやアプリの案内の中には、見た目がイケていても「結局なんのサービスなの?」「誰かの役に立つの?」というものが少なくない。そして、最近あちこちのハッカソンに審査員として出ていて抱くのが似た感想だ。コアとなるアイデアや実装の周囲に2つ、3つと機能がある。デモではたいてい「こんなこともできます!」「そして、実はこれはxxxにもなるのです!」と言う。元々荒削りなプロトタイプなのだから、中途半端な機能を多く詰め込むよりも、機能は1つに絞って実装やメッセージを磨くべきではないのかと思うのだ。そこにキラリと光るものがあれば、ユーザーを獲得して人々の暮らしや仕事をラクにしたり、楽しくしたりする何かが生まれてくるというイメージが湧いてくるはずだと思う。そうした一点突破型のMVPを、もっと見てみたいと思う。

TechCrunch Hackathon OsakaでMVPをテーマに掲げたいと思ったのは、まさにこれが理由だ。いろんな機能を実装した「機能デモの集合」や「ウケそうだから実装してみた一発ネタ」よりも、世の中に良い変化を起こすために必要な最低限の機能を実装したMVPを評価したい。

左が東京のエレベーターの注意書き。右が私が書き直したもの

大阪とMVPは相性がいいと思うのだ。なぜなら大阪には本質的なことをズバッと言う文化があるからだ。ごちゃごちゃ説明しないで、ひとことでズバリを言う。遠慮がない。だから、電車のドアには「ゆびつめちゅうい」と書いてあるし、動物園のライオンの檻には「かみます」と書いてある。子どもでも分かるし、1秒で分かる。実にムダのない合理的な国民性を大阪人は持っている。東京では注意書きが責任逃れの予防策になり下がっていることが多い。「動物に餌を与えないでください。特に小さなお子様はご注意ください。檻に手を出すと場合によっては……」って読んでる間にガブっとやられたら、どないすんねん! ということだ。ごちゃごちゃとゴミみたいな文字で書いあるのだが、それは危険が及ぶ利用者に対する配慮なんかではなく、万が一のときに「ちゃんと書いてあるじゃないか」とサービス提供側が言うためだけに書いてある言い訳ちゃうのんか? そんなん上品に書いたって事故が防げんかったらしゃあないやんか。注意書きのコアバリューはなんや? MVPはなんや? 「かみます」に決まってるでしょうが!

いや、取り乱して申し訳ない……。隠れ大阪人として東京で暮らしていて抱きがちな違和感を、つい吐露してしまった。

本質は何やろうか? 何をやったら人は喜ぶんや? どうやったらお金を払ろうてもらえる商品になるんやろう? 商業の街として栄えてきた関西圏には、そういうことを徹底して考え抜く文化が連綿と引き継がれてると思う。そして、こうした文化は、シリコンバレーの人たちがいうMVPに通じるものがあると思うのだ。

と、いろいろと書いてきたが、TechCrunch Japanは大阪市と協力して4月12日、13日の週末に大阪でハッカソンを開催する。ぜひ、起業家、エンジニア、デザイナなど皆さんの参加をお待ちしている。詳細はまた別途お知らせする予定だが、ひとまず参加の受付を開始したので、早めの申し込みをお願いできればと思う。大阪を離れて20年になる西村だが、今回のイベントは大阪弁全開で参加させてもらいたいと思っているので、よろしゅうに!

photo by sakura


投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。