対話型コンテンツがコンテンツマーケティングを暗黒時代から救出する

[筆者: Scott Brinker]

編集者注記: Scott Brinkerはion InteractiveのCTO。

いつの間にか、コンテンツマーケティングというものが、もてはやされるようになった。最初それは、デジタル世界の知識欲旺盛な消費者を、教育し、啓蒙し、楽しませるという、立派な理想から生まれた。文明が進歩した時代における、エレガントなマーケティング手法、と見なされていた。

しかしその後ますます、質よりも量を尊ぶ帝国主義的な進軍が、でかい面(つら)をしてのさばるようになり、悪貨が良貨を駆逐していった。今やあまりにも多くの企業で、人間ではなく機械が、無味乾燥なブログ記事や、怪しげなアンケート調査の結果や、eブックやインフォグラフィックやホワイトペーパーやウェビナーのクローン軍団を量産している。

しかもコンテンツ発行のスケジュールが慢性的に過密なため、マーケターたちの多くがストレスを抱えている。そして質はますます落ちる。量優先は拙速をもたらし、消費者はつまらないコンテンツに不感症になり、マーケティングの本来の目的が失われる。

しかしコンテンツを拙速に量産するその“速”(スピード)も“量”も、今や限界に近づきつつある。

今ではあまりにも多くのコンテンツがWeb上に氾濫しているので、一片のコンテンツが一人でも見込み客を発掘しうる確率は極めて低い。それは1/3720以下だ、という説もある。およそ4000種のコンテンツをばらまいて、やっと一人が、関心を持ってくれる、というのだ。

“悪いのは私じゃない”、という貧弱な言い訳は、そろそろ終わらせよう。

クローンの攻撃: 受動的な消耗品コンテンツ

今日のコンテンツ戦争の中核的な問題は二つある。

まず、多くのコンテンツが使い捨ての消耗品であること。一度は見るけど、すぐに忘れてしまう。消費者のエンゲージメント(engagement, 関心, 関与, 参加)を求めるマーケターは、また新しいコンテンツを作る。悪循環のペースが加速する。でも、コンテンツの再生産は、同じことを別の言葉で言う、になりがちだ(広義のクローン)。大量の言葉を使ってはいるが、それらは何も言っていない。消費者の反感が増幅される。

第二の問題は、コンテンツの消費が受動的(受け身)であること。読んで、見て、聴く、それだけだ。しかも、時間と注意力は取られるが、一人の消費者のその量は限られている。しまいには退屈して無関心になる。あまりにも大量のeブックやウェビナーを前にして、消費者のまぶたは垂れ下がる。

これら二つの問題は、互いに重なっている。消費者はあらゆる方向から、使い捨てで受動的なコンテンツに攻撃され、その多くに対して無関心になる。コンテンツマーケティングの効果は萎える。それでも多くのマーケターたちの戦法は、相変わらず、より多くのコンテンツを作り続けることだ。まさに、悪循環。

希望は対話型コンテンツにあり

しかしコンテンツマーケティングの宇宙には、新たな希望がある。それは、対話型コンテンツ(interactive content, インタラクティブコンテンツ)だ。

対話型コンテンツには、参加の要素がある。受動的に消費するのではなく、オーディエンスが何らかの活動でエンゲージする。対話型コンテンツの例として挙げられるのは、クイズ、ゲーム、自己評価、ワークブック(問題集)、コンフィギュレータ(configurators,消費者による指定・設定集)、計算式、コンテスト、などだ。eブックやルックブック(ファッションカタログ)、インフォグラフィックなども、対話性を盛り込める。コンテンツの見せ方を、消費者がカスタマイズできるようにするのだ。

対話型コンテンツの制作は、コンテンツをもっとおもしろくするためのクリエイティブな方法だ。しかもそれは、単なる物珍しさの魅力ではない。ここ数十年の有力な実践的教育理論によると、経験と創造を伴う学習の方が教育効果が高い。何かを、自分で体験し、自分で作ってみること。おもしろく作られたクイズは、デスクトップ上でeブックを見ることよりも親密に、消費者の関心を喚起しながら、製品や商品の情報を伝えることができる。まざまな動的参加によって消費者にはコンテンツの訴求ポイントが、短時間でよく分かるようになり、しかも楽しい。

消耗品コンテンツが抱える問題を、対話型コンテンツは二つの点で解決する。

まず、コンテンツがもっとクリエイティブに作られるようになり、退屈な定型コピーと違って(コピーライターさんごめんなさい!)、本物の価値と魅力をオーディエンスに届けることができる。それはもはや、同じことを違う言葉で言うのとは違う。内容を、いろんなやり方で表現し、教え、強調する方法だ。たとえばROIに関するホワイトペーパーに対話型コンテンツとして、いろんなシナリオをトライできる計算式がついていたら、それだけでオーディエンスの関心度は上がる。実践結果を友だちと比較できる自己評価ツールや、よくある誤解を退治するゲームのようなクイズもおもしろい。

第二に、よくできた対話型コンテンツはコンテンツに、再利用したくなる価値を与える。ブログ記事は、それが実際に読まれることもまれだが、二度読まれることはめったにない。でも便利な計算式やコンフィギュレータが載っているブログ記事は、今後何度も何度も利用される。これぞまさに、コンテンツマーケティングの戦略家Jay Baerの言う、”youtility”*だ。力の均衡を量から価値へと戻す。便利で再利用したくなる対話型コンテンツは、今後長期的に配当をもたらす資産のようなものだ。〔*: utility(ユーティリティ, 日常常用物)のuをyouに置き換えた造語。〕

見込み客生成をあせってはいけない

多くのマーケターが、コンテンツマーケティングと見込み客生成(lead generation, リードジェネレーション)を共生的な循環と見なしている。いちばんよくあるパターンは、通常の簡単なコンテンツからプレミアムコンテンツ(premium content, 特別優待コンテンツ)…eブックや報告書、ウェビナーなど…に誘って、そのときにビジターの名前や会社、メールアドレスなどを入手するやり方だ。

しかしそのとき多くのビジターは、“こいつは罠だ!”、と感づく。

まず、プレミアムを謳っているコンテンツが、けっこうしょぼくて、全然プレミアムでないことが多い。短いブログ記事で十分なコンテンツが、大げさなeブックに肥大している。客観的な調査報告であるべきものが、特定製品のプロパガンダに変身している。そんないかがわしいコンテンツを絶対に作っていないところに対しても、粗悪なコンテンツをあまりに多く見慣れているビジターは、ガードを下げてくれない。“これもなんだか怪しげだな”、と思ってしまう。

対話型コンテンツはこの問題を、フリーミアムのようなやり方によって克服できる。ビジターはそのアプリふうのコンテンツを自由に利用できるようにする。自己評価ツールを使ってもよい、計算式やコンフィギュレータも自由に使える。罠のような入力フォームは出現しない。ビジターは、あなたの会社が提供する価値だけを気軽に堪能し、心中に好印象を築く。

そうやって心を惹きつけたら、氏名などの情報提供と引き換えにオプションでコンテンツを“アップグレード”できることを教える。たとえば自己評価ツールの終わりには、その人のスコアに基づいて、さらに個人化されたリコメンデーションをご提供できる、と案内する。その流れが自然で作為臭がなければ、相当高いコンバージョンレートを期待できる。

しかし対話型コンテンツは、典型的な見込み客情報(氏名、メアド、…)以上のものを作り出す。受動的コンテンツの場合、分かるのは、その人が関心を持ってくれたことだけで、あとはフォームに入力してくれた基本的な情報がすべてだ。しかし対話型コンテンツでは、その人の参加の仕方からとても多くのことを学べる。自己評価にどんな答え方をしたか、計算式ではどんなシナリオを試したか、コンフィギュレータではどんな指定や設定を選んだか、等々。

壁の向こうにいる営業の人たちに、コンタクト情報と謎めいた“成約確率”の数字などを投げ与えても、彼らは、そんなもの役に立たないといってゴミ箱に捨てる。しかし対話型コンテンツを使うマーケティングでは、その人に関するもっと豊富な情報が得られる。しかもその多くはフォーム入力ではない。営業はそれらの人間的な情報に関心を持ち、セールストークの緒(いとぐち)にすることもできる。もちろん、一人々々のニーズに合わせた売り込み方が可能だ。ジェダイのマインドトリックのように。

すぐ利用できる対話型コンテンツがクラウド上にある

対話型コンテンツは特注的な開発になりがちで、費用もかさみ、時間もかかり、その構築もメンテナンスも技術的に難しいのが通例だった。

しかし今では次世代型のマーケティングテクノロジ企業というものが存在し…Ceros、ion interactive(うちの会社)、SnapApp、Wishpondなどなど…、技術屋でないマーケターでも、ITの連中に頼まなくても、そして部内にプログラマがいなくても、クラウドから提供されているツールを使ってアプリふうの対話型コンテンツを容易に作ることができる。それらは、単純なFacebookアプリばかりではない。むしろ、高度でレスポンシブなWeb体験を、どんなアプリやデバイスにも提供できる汎用的な仕様のものが多い。

今コンテンツマーケティングは、良いもの、おもしろいものに変わりつつある。対話型コンテンツがコンテンツマーケティングを救い、その良さを取り戻した。消費者を教育し、啓蒙し、そして楽しませる有益な体験として。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))


投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。