国立大学法人岡山大学は「SiEED」(STRIPE Intra & Entrepreneurship Empowermentand Development)を開講し、4月8日に基礎プログラムの第1回講義がスタートした。この講義は、岡山大学の学生や教職員に加え、社会人や中高生などにも開放されるもの。その直前となる4月6日に、同大学においてSiEEDの始動を記念して国内外からゲストが集結した。岡山大学の「本気の改革」に多くの関係者がエールを送った。
「マイントドセットの社会実装」を支える
冒頭に登壇した岡山大学の槇野博史学長は、SiEEDにおける人財育成について「社会課題を解決し、その成果を世界のパラダイムシフトにつなげていける開拓者、挑戦者の育成」と定義。SiEEDは、同大学がこれまで実践し、多くの実績を残してきた国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」に照らし合わせたSDGs教育プログラムと接続することで、DP(Diploma Policy、大学を卒業するための学士力の要件)である「教養、専門性、情報力、行動力、自己実現力の5つの力」をより強力に高めることのできるプログラムであるとした。
槇野学長は「例えばイノベーションの創出においては、大学における研究成果・新技術と社会における製品化・市場投入とのギャップを埋めるためのマイントドセットの養成とスキルセットの習得かが、SiEEDで可能になる」と期待を寄せた。
2名の起業家によるトークセッション
続いてEvernoteの元CEOで、現在は起業家支援を手がけるAll Turtles創業者のPhi lLibin(フィル・リービン)氏と、大同門の代表取締役社⻑でシルバーエッグ・テクノロジーの共同創業者のフォーリー淳子氏が登壇した。
何を、いつ作るか
リービン氏はロシアの難⺠出身で、8歳で米国ニューヨークに移住。英語はコミックを通じ自己学習で習得し、プログラミングは親が買ってくれた「Atari400」で独習したという。大学卒業後はソフトウェア企業に就職し、1997年に「最初の起業」を行って以来、リービン氏は幾度もの起業をしたが、いつも「何を作るか。それには、いつが最適なのか。」を考えていたという。
「ブームの技術は、5年後の当たり前としてあらゆる前提になる」とリービン氏は強調。「1993〜95年、世界はインターネットのプラットフォーマーとしてYahooやAmazonが登場。1998年にはそれを前提にしたドットコムがバズワードになり、無数の企業が産まれた。が、数年後には誰も話題にしなくなった。2007年にはモバイル、昨今はAIという具合に、バズワードは次々に産まれるが、5年後にはそれが前提の新たな価値が生まれる」と示したうえで、「2007年創業のEvernoteはその時点でAIをうたっていた。ただし人工知能(Artificial Intelligence)ではなく拡張知能(Augmented Intelligence)。人間の記憶領域を拡大し、過去の関連ノートを通して思いがけない知への出合い(セレンディピティ)を引き起こすという価値だ」と、同社サービスの成功の裏には明確な提供したい価値と、先見性のあるリリースタイミングがあったことを伺わせた。
意味のある問題に取り組めば、必ずスケールが付いてくる
次にリービン氏は直近で起業した「All Turtles」の取り組みを紹介。多くのベンチャーが創業期に「資金調達や経理処理等に追われ、プロダクト開発に時間を割けない」という課題を解決すべく、開発に集中できる形で支援を行うシステムを持つ。日本を含む3つの国にオフィスを構えて「意味のある問題の解決」に挑むチームを支援している。
ただ、年間3000ものチームが同社の門を叩き、うちリービン氏との面会には600人が挑んだが、支援を得たのはわずか3チーム。ここをクリアするための要件としてリービン氏は以下の4つを挙げた。
- 本質的で現実的な課題を解決すること
- 当該領域のエキスパートである創業メンバーがいること
- ビジネスモデルが現実的で、収益化の可能性が高いこと
- 数年前には実現不可能だったサービスを、最新の各種プラットフォームを活用して12〜18カ月で実現すること
つまり、成功確率が高い起業家は、明確な課題設定、その領域に取り組む専門知識、収益性、最新技術の応用、スピード感をもった製品化といった要素を持っているのだという。前出の槇野学⻑が岡山大学の重点育成ポイントに挙げた「教養、専門性、情報力、行動力、自己実現力の5つの力」とも、連動する部分が多い。リービン氏は「情熱を持って意味ある課題に挑めば、後からスケールは付いてくる」と、来場者に課題設定の重要性を説いた。
若者へのメッセージ「自分が作りたいものを作ろう」
後半はモデレーターのフォーリー淳子氏が会場の声を拾うかたちで、SiEEDプログラムでこれから学ぶ若者たちに向けたメッセージがリービン氏から発信された。
フォーリー純子氏:これまでに経験した厳しい決断とは?
リービン氏:厳しい決断には2種類ある。答えがわからないちきと、答えはわかるがそれが気持ちよくない時(に下す決断)だ。チームメンバーの解雇が後者の一例。ひとつ言えるのは「恐れ」に基づいた決断や、安全を取りにいく決断は最悪な結果を招くことが多いということだ。
フォーリー純子氏:そうした悪い判断から学んだことは?
リービン氏:悪い判断をした時に大切にしてほしいのが、その失敗を徹底的に味わい尽くすことだ。かなり辛いことだが、そこに向き合ってほしい。そしてできればその失敗から得られた知見を、世界中に向けて発信してほしい。その情報が検索して出てくれば、次に問題解決に挑む人にとって大きな力になる。
フォーリー純子氏:日本の若者へのメッセージを。
リービン氏:「顧客が何を求めているか」を追求してできた製品は、個別に作り分けないと他の誰かに対して売りにくい。一方でEvernoteはその逆で、作りたいものを作って、それを使いたい人が顧客になった。自分たちの製品であれば改良も短時間でできることになる。つまり、Evernoteは自分たちのために作った会社だ。そういう意味でも、皆さんが起業をする時には、1つ目の会社は「自分のために」作るといいでしょう。2つ目以降の会社で「誰かのためになるもの」を実現するのがいいと思います。