SoulCycle(ソウルサイクル)でサイクリングマシンを漕ぎながら聞く熱いトークには涙がこみ上げるだろうが、Coa(コア)の共同創設者Alexa Meyer(アレクサ・マイヤー)氏とDr. Emily Anhalt(エミリー・アンハルト)博士が求めるのは、そのやり方ではない。むしろ彼女たちは、人々に自問を促したいと考える。「最後に自分の魂を鍛えたのはいつだったか?」と。
すぐに答えられなければ、それがメンタルヘルスのジム、オンライン感情フィットネス講座Coa(コア)の牽引力となる。同社はCrosslink Ventures主導のシードラウンド300万ドル(約3億1500万円)を調達したばかりだ。これには、Red Sea VenturesとAlpaca VCも参加している。その他、Casper(キャスパー)の創設者Neil Parikh(ニール・パリク)氏とプロバスケットボール選手のKevin Love(ケビン・ラブ)氏も投資に加わっている。
ローンチ目前のCoaの中核的製品は、有資格のセラピストによる少人数のスタジオクラスだ。参加者は、診断を受けた後に一連のクラスを受講することになる。クラスは、パンデミックの中を一人で生き抜く方法や、政治的不安に対処する方法など幅広い。
クラスは、講義型の授業と、話し合いを誘発する個別セッションを組み合わせたスタイルになっている。大まかに言えば、Coaの使命は、SoulCycleを大成功させた少人数対象のフィットネス文化をメンタルヘルスに応用することだ。小さいグループのフィットネスなら、忙しい中でも予定を入れやすいし、仲間意識も生まれ、何度も戻って来たくなるコミュニティーの帰属意識も芽生えると考えれば、合理的なスタイルだ。
スタジオクラスの他に、Coaでは個人向けのクラス、つまり1対1のセラピーと、無料のコミュニティークラスも提供する。
Coaのスタジオクラスは、セラピーに取って代わるものではない。共同創設者たちは最初からそう考えていた。Coaはむしろ「癒やしの体験」でありたいと望んでいる。そのため、有資格のセラピストは、コンテンツ制作や指導に関わる人間に限られている。1対1のサービスでは、Coaはセラピストのマッチングも行う。今のところはカリフォルニア州限定だ(じきにニューヨークやその他の州でも実施される)。だが、Coaはセラピストの引き合わせサービスを行うという事実は、セラピーに興味のある人たちの目を、別の選択肢を示してくれる同社のネットワークに向けさせることになるはずだ。
Coaのスタジオクラスのターゲットはグレイゾーンの人々、つまりメンタルヘルスにお金を出す気持ちはあるが、セラピーを受けるほどのお金はないという人たちだ。そこで重要になるのが価格設定だ。聴講型のクラスなら25ドルから参加でき、限定的なアクセス権が与えられ、メンタルヘルスの意識を高めることができる。このスタートアップの今の主要市場戦略は、無料のコミュニティークラスと、雇用主の直属で仕事をしている従業員のための安定したプログラムの提供だ。現在Coaは、 Silicon Valley Bank(シリコンバレー・バンク)、Spotify(スポティファイ)、Asana(アサナ)、Salesforce(セールスフォース)といった企業と提携している。
「2人の人間が毎週継続的に面談して関係を深める中で起きる魔法に取って代わることは、ほぼ不可能です」とマイヤー氏は話す。「私たちが解決を目指してきた取り組みでは、安全なグループ活動から先へ踏み出すことを要求せずに、人々と深い関係を築いてサポートできる方法が課題でした」。もうひとつのハードルは、やがてはCoaが確保するコアカスタマーにも及ぶことだが、少人数グループの形式では、クラスごとに、参加者自身の弱い部分をある程度まで他人に見せざるを得ないという点だ。
「人は自分の心の状態について語りたがらない、クラスに登録したことを他人に知られたくないのだと、私たちは忠告されてきました」とアンハルト氏はTechCrunchに語った。「私たちのコミュニティーでは、それとはまったく逆のことが起きています」。
アンハルト氏は、グループセラピーでは参加者に秘匿義務を課する法的な決まりはないが、その代わりに、参加者は通常、プライバシーは重要な資産であるとの共通の認識に従っていると指摘する。Coaはそれと同じ枠組みに従い、最初に秘密保持契約を求めている。参加者は、事前に個人情報の提供を求められることは一切ない。
「プライベートな秘密を守るよう法的に義務づける方法は存在しません。しかし今のところそれが問題になったことはありません」とマイヤー氏は話す。
しかし、The New York Times(ニューヨーク・タイムズ)が報じたTalkspace(トークスペース)の捜査の問題にも見られるように、セラピー関係のスタートアップは、プライバシーには常に頭を痛めている。Coaと同様、Talkspaceにも高尚な使命があった。メンタルヘルスを民主化し、より利用しやすくするというものだ。Talkspaceの場合、利用者の会話のプライバシーを危険にさらしていると報じられたことで、その目標に水を差されたかたちだ。
Coaは、倫理的に妥協することなく、この問題を回避できると楽観的だ。
「守秘と臨床上の誠実さがすべてです」とアンハルト氏は言う。「そのため私たちは、法的、倫理的に求められるよりもずっと高い基準を設けています」。その基準の中には、こんなものもある。患者とセラピストの情報の管理は決められた専門の担当者があたる。セラピー後の調査や分析は行わない。誰がどのクラスに参加したかは明かさないことを内部関係者に義務づける。
セラピー分野のどのスタートアップとも同じく、Coaの競争相手は、Talkspace、TwoChairs(トゥーチェアーズ)、Real(リアル)、Alma(アルマ)、Octave(オクターブ)と数多い。
出張ジムを通じて、Coaはプライベートな心のフィットネス・カリキュラムを、Asana、GitHub、Silicon Valley Bank、Spotifyの企業幹部たちに提供してきた。彼らは、そのカリキュラムを、多様な価格設定で、もっと幅広いターゲット層に広げようと考えている。現在は、ソーシャルディスタンス確保の要請に従いオンラインクラスに集中しているが、Coaの予約リストにはすでに3500人が登録し、受講を楽しみにしている。
だが2人の共同創設者は、大胆な長期目標も立てている。米国中のすべての主要都市で、対面のクラスを開講することだ。現実の物理的なメンタルヘルスジムを想像してほしい。
「目に見えて、実際に訪れることができる、メンタルヘルスのためのジムを目指しています」とマイヤー氏。「そうすれば、スポーツジムと同じように、街を歩いているうちに心の健康のための場所を発見できるようになります」。
カテゴリー:ヘルステック
タグ:メンタルヘルス、Coa
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(翻訳:金井哲夫)