トランプ大統領が大幅な社会保険の削減を断行しない限りという条件が付くかもしれないが、米国の健康系アプリで新しい動きがあるようだ。健康的なライフスタイルを送るためのプログラムを終了した成人病予備軍の人々に対して保険料の一部を還付する、つまりお金を渡すという施策が、早ければ2018年1月にもスタートする。ダイエット支援アプリとしてスタートした「Noom」(ヌーム)は個人ユーザー向けサービスを継続しつつも、健康保険や成人病予防といったヘルスケア分野へ軸足を移している。
米Noomの共同ファウンダー、ジョン・セジュ氏がTechCrunch Japanの取材に対して語ったところによれば、早ければ2018年1月にも潜在的に糖尿病のリスクが高い人々がNoomが提供するアプリを使って指定プログラムに参加するとMedicareと呼ぶ米国の保険システムから数万円単位での還付金が支払われるようになる、という。Noomは米国疾病対策予防センター(CDC:Centers for Disease Control and Prevention)で認定を受けたプログラムとなっている。CDCは糖尿病になりやすい体質でリスクの高い人が受けることで実際に罹患するリスクを抑える糖尿病予防の60日間のDPP(Diabetes Prevention Program)というプロトコルを策定していて、このDPPに沿ったサービスを認定してきた。これまで認定対象は対面サービスのものだったが、モバイルアプリとしてNoomが認定第1号になるという。2016年11月にNature誌の研究ジャーナル、Science Reportsに掲載された研究成果でアプリのみによる減量効果が認められたことが大きいそう。
Noomによれば84%がNoomのプログラムを終了し、このうち64%が5%以上の減量に成功するという。「ある日本企業で75人を対象にパイロットプログラムを実施したところ、95%の人が減量に成功しました。これは他の市場を遥かに超える数値です。日本人はいったんやると決めたら、ちゃんとやる国民ですね(笑)」(セジュ氏)
Noomは日本を含む世界累計4500万ダウンロードと、このジャンルでは広く知らたアプリだ。専門コーチがユーザーの一人ひとりに合わせて16週間のプログラムを組み、食事や運動についてチャットでアドバイスをしてくれるというアプリだ。月額利用料が5000円とお高いが、セジュ氏は「ゲームなどとは違います。むしろこれは安い。本当に痩せるのですから」と話す。
ダイエットアプリというと美容目的だが、成人病予防のための「減量」となると保険市場という巨大市場が絡んでくる。もともと月額980円だったNoomが一気に月額5000円へと価格をあげたのは、美容から健康へと軸足を移したこととも関係しているようだ。
個人ユーザー向けアプリとして、米国、カナダ、ドイツ、韓国、日本の4カ国でサービスを展開してきて一定の成果を出しつつあるが、セジュ氏は日本の大手生命保険会社とも協議中という。保険会社にしてみれば、現在の保険商品が価格だけが差別化要因になっていて売りづらいとか、NPSスコアが低いという悩みがある。だから健康アプリを組み合わせた新しい保険商品の開発に保険会社は興味がある、ということだ。Noomには「48才男性で渋谷に住んでいる、10年吸ったタバコをやめた、子どもは2人、運動量と心拍の変化はこれこれ」といったデータが集まっており、精緻なリスク計算に基づく保険商品設計が可能になるし、米国の取り組みのように予防医療に結びつくからだ。保険加入者がアプリを使うことで、例えば掛け金を2%割引くといったことができるかもしれない。もっとも、米国と違って日本をはじめとするアジア圏では糖尿病よりも高血圧、特に塩分摂取量が問題だとセジュ氏は指摘しているが。
現在Noomのビジネスは2割が法人向けだが、2017年には5割程度になるとセジュ氏は予想しているという。日本市場での動きとして2017年2月14日には、愛媛県職員向け特定保健指導に「Noomコーチ」の試験導入を開始すると発表している。
Noomは2008年に創業し、これまで計7回の資金調達ラウンドで4336万ドル(約49億円)の資金を調達している。従業員数は約120人で、ニューヨークに本社をおいている。セジュ氏は最初の起業が19才で現在37才の韓国人連続起業家だ。韓国市場の「見えない天井」を感じて渡米、英語を勉強した後にブロードウェイで音楽ビジネスの2度めの起業を経てからNoomを創業している。