新型コロナ禍でもクリーンエネルギーの導入は未来に向けて進行中

新型コロナウイルス(COVID-19)パンデミックによる経済ロックダウンは、再生可能エネルギープロジェクトや電気自動車の販売にすぐさまマイナスの影響を及ぼした。しかし持続可能なトレンドは続いており、長期的にはより強いものになるかもしれない。

国際エネルギー機関によると、この40年で初めて世界全体で太陽光発電、風力発電、その他の再生可能エネルギーの導入が前年を下回る見込みだ。同機関は2020年の再生可能エネルギー導入は前年比13%減となると予想している。また、Wood Mackenzieの予測では世界の太陽光発電の導入は2020年に18%減る。そしてMorgan Stanleyは米国の太陽光発電の導入は今年第2四半期の48%減から第4四半期に17%減になると予想している。

これは建設の停滞、サプライチェーンの混乱、資金難が原因だ。

屋根へのソーラー発電設置が最も深刻な影響を受けている。個人宅や事業所への訪問が3月から数カ月にわたって停止された。設置業者は従業員の半分が一時帰休となった、と明らかにした。中国での太陽光発電設備の生産が一時的に停止されたため、サプライチェーンも混乱した。設置、サプライチェーン共に再開し、契約の大半はまだ有効だ。しかし太陽光発電設備の屋根取り付けは2020年は成長が見込めず、回復するのに1年以上かかるだろう。また、太陽光発電の導入を計画していた一部の事業所は、事業再開にあたってより優先順位の高い資金の確保や投資があるかもしれない。太陽光発電の導入を計画していた零細事業所の需要の多くはまったく戻らないことも考えられる。

一方で、再生可能エネルギーを利用した発電所での発電は引き続き成長していて、マーケットシェアを拡大している。今年前半、再生可能エネルギーの発電量は19世紀後半以降初めて石炭による発電量を上回った。19世紀後半というのは水力発電が活用され始めたころだ。米国では、新たな発電方法の中では風力と太陽光によるものが最もコストが安い。パンデミックと石油価格の崩壊でもその傾向は変わらない。石炭プラントの閉鎖が2020年は加速していて、風力と太陽光は引き続きガソリンと競合する。

加えて、太陽光発電所と風力発電所はすでに資金を工面済みで、僻地で進行中の建設はロックダウンの影響を受けていない。30GW発電できる新規の太陽光発電の契約も交わされ、金利が低い限り資金面は問題にならないはずだ。実際、米国と中国の太陽光・風力発電プロジェクトの多くは政府のインセンティブを得ようと2020年中の完成を急いでいる。

しかし再生可能エネルギー発電所向けのサプライチェーンは混乱した。第1四半期に中国のソーラーパネル製造は一時停止され、今は再開しているものの注文減に直面している。また、一時期はスペインとイタリアにある18もの風力発電用タービン製造施設が、社会的距離の維持と消毒の対策が導入されるまでの間、稼働を停止した。アフリカやその他の国での採掘作業も一時中断され、現在、需要減に直面している。

発展途上国における石油・ガスの再生可能エネルギーへの切り替えは数年前ほどには魅力的なものにはならないようだ。新興国の経済は可能な限り電力を低価格で確保したい。つまり石炭やガス、あるいはディーゼルの発電所だ。発展途上国の新化石燃料プラントは数年間は二酸化炭素排出を抑制できるかもしれない。

電気自動車の販売は世界的にかなり影響を受けた。電気自動車への移行は、人々が車を買い換えるときに起こる。石油価格が低迷し、中古車価格も下がり、失業率も世界恐慌以来の水準にまで上がっている。安いガソリン、安い車、高い失業率により2020年の複数人乗りEVの販売は予想を大幅に下回りそうだ。Wood Mackenzieは、2020年の世界のEV販売は前年比43%減となると予想している。加えて、自動車メーカーが発表する新EVモデルの多くが2021年までマーケットに投入されない。

ただ、長期的なEVへの移行は継続し、加速さえするかもしれない。走行コストはガソリン車よりもEVの方が安く、数年以内にEV初期費用がガソリン車と同じくらいになったとき、マーケットはEVに傾くはずだ。フル充電で走行できる距離は平均的なドライバーには十分なもので、残るハードルは急速充電ステーションの設置のようだ。

2020年に石油需要が崩壊する前、石油大手は石油需要のピークは2040年代にくるだろうと予想していた。しかし今、ピークはもう少し早く、おそらく2020年代半ばにくると予想されている。石油消費のピークは2019年だったかもしれないと、考える人もいる。とにかく2019年のレベルに戻ることがあるにしても、それは少なくとも数年先になりそうだ。

ただ最近の石油価格の崩壊は、石油・ガス業界が数十年間、かなり競争力のある価格で燃料を供給できることを意味する。これは少なくともEVが短期的にマーケットシェアを奪うのをさらに難しいものにする。また、代替の液体燃料を競争力のあるものにするのも困難にする。バイオ燃料や合成燃料にとっては、安い石油がそうした業界に打撃を与えた数十年前の再現となりそうだ。ガソリンやディーゼルで走る車の代替は、発展途上国の貧しくなった経済では当然のことながら魅力的なものではなくなるだろう。

しかしクリーンな交通手段が浸透しつつあるという明るい要素もある。例えば、電動自転車はホットなアイテムだ。人々は大量輸送交通機関の代わりを模索し、外の新鮮な空気を吸いながら移動できるものを求めていて、電動アシスト自転車は素晴らしいソリューションだ。もはや年寄り(あるいは怠惰な)サイクリストのための乗り物と見下されることはなくなった。

在宅勤務もここ数年は浸透していなかったが、パンデミックが最終的に一変させた。直近の全国規模のロックダウンは、従業員を家から働かせるよう大企業を駆り立てた。在宅勤務はおおむね機能すると企業は認識し、多くが人で溢れかえるダウンタウンのオフィスには戻らないだろう。

一部の専門家は、クリーンエネルギーの可能性に言及した。というのも、パンデミックで空気はきれいになり、日々の石油消費は30%減ったからだ。とある消費者調査では、電気自動車への関心が高まっていることが示された。

クリーンテクノロジーでロックダウン前よりも経済を回復させる機会にしたい。しかし労働者や事業所は現在あるインフラで経済を再開させなければならず、クリーンテクノロジーへの投資には資金が必要なのが現実だ。多くの事業所が事業を維持するための資金繰りに苦しんでいて、新たなクリーンテクノロジーはずれ込むかもしれない。

それでも、持続可能な未来のための大きなインフラの変化は進行中だ。太陽光発電と風力発電は急速に化石燃料発電に取って代わろうとしている。車メーカーや政府は交通部門の電動化を約束している。パンデミックは目先の障害ではあるが、持続可能な経済への移行は遅れているだけであり、数年内には加速さえしそうだ。

編集部注:筆者であるRoger Duncan(ロジャー・ダンカン)はテキサス大学オースティン校エネルギー研究所の前研究フェローで、Austin Energyの前ゼネラル・マネジャー。 著書「The Future of Buildings, Transportation and Power」(共著)が間もなく出版される。

画像クレジット:pabst_ell / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi

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TechCrunch Japan

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