編集部記:Nathan Eagleは、Crunch Networkのコントリビューターであり、Janaの共同ファウンダーでCEOを務めている。
多くのアメリカ人は「ネットワーク中立性」という言葉を聞くと、無関心な眼差しになり、困惑し、すぐに飽きた顔をする。しかし、インドのような新興市場にとって、ネットワーク中立性は全てに影響する重要な問題だ。
例えば、インドのバンガロールに住む22歳の女性であるPriyaの例をとってみよう。多くのアメリカ人同様、彼女はAndroidを搭載したスマートフォン(90ドル程の端末)を片時も離すことはない。私のように彼女は通勤時間にFacebookにアクセスし、友人たちと毎週お決まりのディナーの予定を決めるために連絡を取る。あなたと同じように、何十個あるアプリを使って、スポーツを観戦したり、ニュースを読んだり、家族の写真を見て楽しんでいるのだ。
しかし、欧米諸国の人には定額料金でモバイルからインターネットを無制限に使う、あるいはWi-Fiホットスポットを利用できる贅沢があるが、Priyaはどのアプリをどの程度の時間使えるかを計算しなければならない。Priyaを含め、インドにおけるモバイル端末の契約者の90%は、高額なデータ従量課金プランを利用しているからだ。
インドでのコネクティビティに関する最も重大な問題は、家計から捻出されるデータ通信料が大きな負担になるということだ。最低賃金で働く人は500MBのモバイルデータプランの通信料を捻出するのに17時間働く必要がある。1時間インターネットに接続するのに、最大3時間働く必要があるということだ。(一方アメリカでは、月額の無制限データプランの料金は、最低賃金で3時間強、働けばまかなえる程度だ。)
これを理由に、Facebookと彼らのInternet.orgのプラットフォームやAirtel Zeroは、インドや他の新興国でカスタマーがアプリを無料で利用できるよう、コストの溝を埋めようとしている。目標はとても素晴らしいものだが、彼らのモデルはネットワーク中立性(ここで、つまらない顔をしないでほしい)の課題に直面する。ネットワーク中立性とは、インターネットのコンテンツは無料で平等に利用されるべきという基本理念だ。
インドを含め他の新興国で議論されるネットワーク中立性の問題は、アメリカ国内での問題よりずっと複雑だ。アメリカでのネットワーク中立性を巡る争いでは、Comcastによる、Netflixや他のストリーミングサービスのコンテンツをストリームする速度をコントロールしようとした問題が最近話題となった。この場合、利用者が映画を鑑賞する際、ロードするのに少し余計な時間がかかってしまう。
インドでは、スピードが問題なのではない。アプリや映画が他のものよりロードするのが少し遅い(これはアメリカで大々的な倫理問題を起こす)という以前に、そもそもアクセスできるかどうかという問題がある。Internet.orgやAirtel Zeroのようなプラットフォームでは一部のインターネットは利用できるが、他のものは利用できない。例えばデータ通信が少ないアプリは利用できるが、他のものは利用できるアプリのリストにすら入らない。
Priyaのような人は、Wikipediaを閲覧したり、Facebookで友人と話す以上のことをしたいと考えている。YouTubeで動画を見たり、ファイル共有のための最新のローカルアプリをダウンロードしたいのだ。彼らは、インターネットの一部ではなく、インターネットでの体験の全てを得たいのだ。(特定のアプリが他のアプリより利用するのに少し時間がかかるという問題の重要性はまだそれほど高くない。)
Internet.orgとAirtel Zeroは、彼らのミッションはインターネットへのアクセスがない人たちにインターネットを届けることだと言う。それは意義あるミッションだ。しかし、彼らのサービスは多くの人に初めてオンラインにアクセスする機会を提供すると同時に、彼らを誘導しているとも言える。
例えばInternet.orgは、あまりに大量のデータを消費せず、Facecbookの参加ガイドラインに準拠するアプリ開発者に対して、サードパーティアプリの開発を認めている。Airtel Zeroでは、承認されたアプリに関しては無料で利用できるが、他のアプリには通常のデータ課金がかかる。
ここ最近巻き起こった抗議は、両社の努力により作られたこの状況では、その地域で開発されたアプリや大企業ではない所のアプリを利用するコストが高くなり、それらが排除されてしまうことに対する抗議だった。Facebookを無料で利用できる場合、新しく立ち上がったスタートアップのソーシャルアプリを高額な金額を払ってまで利用するだろうか?これは全てのコンテンツを公平に扱うオープンなインターネットではないということを意味している。
次の10億人にインターネットを届ける難しさは、新興国でのデータ通信のために使うパイプ、ワイヤーやドローンの費用を負担しなければならないことにある。そして、それを担うのはインド政府ではない。もし、Facebook、Googleや他のAirtelのような大手オペレーターがそれを担うのなら、その意義ある行いのために金銭的なインセンティブを求めるのは当然のことだろう。
他にソリューションは無いのだろうか?という疑問が浮かぶ。
インドのような市場に無料でオープンなインターネットを届けるには、広告に支えられるモデルが最適ではないだろうか。現在あるほぼ全てのメディアはこのモデルを採用している。テレビやラジオの始まりも同じだった。テレビやラジオが初めて登場した時、広告主の存在により、コンシューマーは媒体を無料で消費することができるようになった。ウェブページを見てみても、現在のメディアのほとんどはこのモデルを採用している事実を確認することができる。同じように広告主がアプリやオンラインコンテンツの壁や制限を失くし、無料でアクセスできるようにすることはできないだろうか?
Mozillaはバングラディッシュで Grameenphoneとパートナー契約を結んだ。複数のアフリカ諸国ではOrangeと契約している。これらは広告モデルで、ユーザーに制限のないオープンなインターネットを提供する取り組みである。
バングラディッシュでのGrameenphoneの取り組みでは、ユーザーはモバイルのマーケットプレイスで短い広告を視聴した後、自由に使用できる20MBを毎日付与するというものだ。Orangeは、特的の地域のコンシューマーに対し、Mozillaのスマートフォンを購入した場合、端末と共に定められた時間内での無制限のインターネット利用が提供される。これらの取り組みは、Mozillaが自由に利用できる無料のインターネットアクセスを負担する代わりに、端末の売上を押し上げることが目標だ。
もう一つ例を上げると、インドで大成功を収めたPepsiのキャンペーンがある。FreeCharge(Snapdealに最近 買収されたスタートアップで、インドのコンシューマー向けインターネットセクターでは最大のバイアウトになった)では、Pepsiを買うと、無料でインターネットが利用できる。キャンペーン内容は次の通りだ。ペットボトルのPepsiを購入し、キャップの裏側のコードをモバイル端末に入力すると、10ルピー分のインターネットが自由に使える。FreeChargeは、その10ルピー分で閲覧できる内容や、アクセスに関して何ら制限を設けていない。コンシューマーは自由に利用することができる。
現在、2190億ドルが新興市場での広告に費やされている。しかしその90%以上は、屋外の看板やテレビ広告といった従来の広告媒体に向かっている。テクノロジー関連のコミュニティーが広告主に対して適切な広告プラットフォームを提供できれば、新しくインターネットに接続する多くの人に向けて、自社のブランドを打ち出したいと熱望する企業が必ず現れるだろう。そしてその対価としてインターネットにアクセスするコストを担うことに同意するだろう。そうすれば、広告モデルで無料で視聴できるケーブルテレビやラジオと同じように、広告はインターネットの門番ではなく、ゲートウェイとなることができるはずだ。
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