日本のシード期スタートアップの多様化とレベル向上は顕著だ―、10回目のIncubate Campが開催

国内の有力VCと起業家たちが集まる1泊2日のシードアクセラレーションプログラム「Incubate Camp 10th」が、8月25、26日の2日間にわたって千葉県のオークラアカデミーパークホテルで開催された。Incubate Campは2010年から始まったイベントで、今回が10回目だ(初期には年2回開催)。日本のシードアクセラレーターの中では草分け的存在の1つだ。これまでにラクスルやGameWith、airCloset、シナプスなどを輩出している。

参加したのは18人のベンチャーキャピタリストと、18人の起業家、それにVCや経営者、スタートアップ支援関係者ら10人の審査員だ。

集まった審査員やベンチャーキャピタリストたち

イベントを主催しているのは独立系VCのインキュベイトファンドだが、参加ベンチャーキャピタリスト18人のうち14人はグロービス・キャピタル・パートナーズ、インフィニティ・ベンチャーズ、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、ANRI、YJキャピタルなど外部の「ゲストベンチャーキャピタリスト」。Incubate Campは、国内で有力なスタートアップ・VC業界の主要な顔ぶれが集まる招待制イベントの1つとなっている。

今回で10回目となったIncubate Camp 10thでは250人以上の起業家から申し込みがあり、この中から18人が選出されて参加。初日午前にベンチャーキャピタリストたちに向かってピッチを行い、その後は、こちらの記事にあるように起業家とベンチャーキャピタリストが1対1でペアを組んで事業プランやピッチをブラッシュアップ。2日目には審査員たちの前で、説得力と事業フォーカスを研ぎ澄ませたピッチを行った。

18人のベンチャーキャピタリストと18人の起業家は半日かけた「総当り」で、事業計画やブロダクトについて話し合った

シード資金ではなく、シリーズA調達の場に

Incubate Campのポイントは、駆け出したばかりのシード期の起業家に対してベンチャーキャピタリストらが資金のみならず事業のアドバイスを積極的に与えて議論するというところにある。ただ、18社のピッチを見終わったときに少なからぬベンチャーキャピタリストたちが苦笑いとともに、こぼしていた感想は「足りないものは資金ですか? という感じですよね」というものだった。

すでに事業シーズとして十分に投資検討に値するスタートアップが多く、半日程度の短時間のハンズオンでは付加価値を出しづらいという意味だ。あるベンチャーキャピタリストは18社のうちほとんどが採点結果が5点満点中4点だったとも言っていた。5点は「投資しても良い」で、4点は「問題点は残っているが克服可能。議論を通して投資を検討したい」という採点基準。

かつては数百万円のシード資金獲得を目指すのがIncubate Campという場だった。それが今はエンジェル投資家やアクセラレーターの増加などシードマネーが増えた結果、MVPを作ってトラクションも出始めたサービスの起業家がシリーズA調達を求めて参加する場になっているようにみえる。実際、昨年の第9回参加スタートアップ企業のその後をみると、12社中9社が資金調達を実施して、その総額は約7.2億円となっているという。

Incubate Campスタート時の2010年と今とでは資金調達環境の違いがある。だから単純な比較はできない。それでも、ここ数年での日本のスタートアップのレベル向上には著しいものがあるとは言えるだろう。

ベンチャーキャピタリストに向かってプレゼンする起業家

植物工場や、がん早期検知のスタートアップまで

参加する起業家の多様性も増している。

例えば植物工場のIoTスタートアップだとか、現役医師たちによる「内視鏡検査+AI」、アパレル業界のベテランによるファブリックのB2Bマーケットプレイスのスタートアップというように、各業界のベテランや専門家が起業しているケースが増えている。

これまで主にネット上で完結していたソフトウェアやネットワークによるイノベーションだが、その波がいよいよ現実社会の深いところへ波及する段階となってきている。あるベンチャーキャピタリストは、「インターネットを持ってきてマーケットプレイスを作るだけで大きな利益を生み出す業界というのは、まだまだあるということを思い出した」とコメントしていた。

さて、イベント全体のレポートはここまでにして、さっそくIncubate Camp 10thに参加した18社を一挙に紹介しよう。総合順位とベストグロース賞の順位は以下の通り。

【総合順位】
1位 HADO(meleap):AR活用で身体を動かす「テクノスポーツ」
2位 One Visa(Residence):ビザ申請・管理のSaaSサービス
3位 AIメディカルサービス:AIによる内視鏡画像診断で胃がんを発見

【ベストグロース賞】
1位 AIメディカルサービス:AIによる内視鏡画像診断で胃がんを発見
2位 DroneAgent:ドローン販売サービス
2位 Co-LABO MAKER:実験機器のAirbnb
※「ベストグロース賞」とは起業家が持ってきた事業プランや初日のピッチに対して、ペアを汲んだベンチャーキャピタリストが助言をした結果として、2日目の最終ピッチで「差分」が大きかったチームに送られる賞だ。

優勝したmeleapの福田浩士氏と握手をして投資を約束するインキュベイトファンドの和田圭祐氏

 

すでに記事がだいぶ長くなっているので、18のスタートアップ企業については、別記事2本に分けて掲載する。

盛り上がるARスポーツ、内視鏡+AIスタートアップなど:Incubate Camp 10th登壇企業紹介(前編)

自動アートネイル機、アパレル法人向けフリマなど:Incubate Camp 10th登壇企業紹介(後編)

投稿者:

TechCrunch Japan

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