専門情報誌の日経FinTechが6月23日、全日イベント「Nikkei FinTech Conference 2017#2」を東京・神田で開催した。イベントには官公庁や金融機関、Fintechスタートアップなどが集まったが、ここでは主にスタートアップ企業が登壇したNikkei FinTech Startups Awards 2017の参加企業を紹介しよう。
登壇7企業は既存企業の子会社も含まれるため「スタートアップ企業」の枠に入れて良いのかどうかという議論はあるが、Fintechに関連する新サービスに取り組みはじめたばかりのところだ。
優勝したのはマネーフォワード子会社の「MF KESSAI」。2位は「Studio Ousia」、3位は「Smart Trade」だった(これを書いているTechCrunch Japan編集長の西村賢は審査員の1人として審査に参加している)。
・MF KESSAI(優勝)
今回見事に優勝を勝ち取ったのはマネーフォワードが100%出資する子会社として設立したMF KESSAIだ。すでにTechCrunch Japanでも発表時に記事にしているが、MF KESSAIは企業間の売上代金の回収を代行してくれるサービスを提供する。売掛債権を現金化する、いわゆる「ファクタリング」にも見えるが、むしろ狙いは請求業務のアウトソーシングという部分だと代表の冨山直道氏はいう。与信審査、請求内容の入力など一連の売掛金回収のフローをクラウドで提供する。親会社のMFクラウドで得た知見と日々動いている支払い実績のデータから精度の高い与信審査ができることがキモで、98%という高い審査通過率と、1.5〜3.5%という低い料率を実現できたカギだという。例えば業種ごとの未入金率なども常時データを更新しているそうだ。ネットやECの興隆によって一次産業の直販化という流れがあるが、農家や漁師が直接飲食店に食材を卸すといっても、小規模な事業者は回収リスクを取れなかったり、請求業務になれていなかったりする。冨山氏はそうした地方企業にこそ、MF KESSAIを使って欲しいと話した。
・Studio Ousia(2位)
TechCrunch Japanでも何度か紹介したこのあるStudio Ousiaは自然言語処理による質問応答システム「QA Engine」を開発している。特徴はディープラニングやエンティティリンキングといった自然言語処理の中でも最先端の成果を取り入れていること。Studio Ousiaは国際学会における人工知能クイズコンテストで優勝した実績もある。ディープラニングは表現・表記の揺れに強く、通常の質問応答システムでは1つの回答に対応する質問文を10個ほど用意しなければならないところ、もっと少ない質問文で十分な精度を出せるという。すでに導入しているクラウド会計「freee」の例だと、例えば「家事按分」について説明する回答というのは、この用語を知っている人にとっては未知語。直接このキーワードを含まない質問文でこの回答が引き出せるのが強みだという。QA Engineの差別化要因は、日本語で精度が出ること、学習データが少なくても精度が出ること、質問文を入れるためのツールが揃っていて業務が分かっている担当者であれば、1日数千の質問文を作れるとのこと。
・Smart Trade(3位)
システムトレードのアルゴリズムを売買できるマーケットを提供するのが「Smart Trade」だ。米国ではアルゴリズムによる売買が証券市場の30%程度、3.2兆ドルにも膨らんでいて「クオンツトレード」と呼ばれている。一方の日本を始めとするアジア市場は、まだこれから。海外にはQuontopianという似たサービスがすでに存在しているが、Smart Tradeの差別化は日本株を扱うことと、開発したアルゴリズムを過去データに適用した場合にどの程度のパフォーマンスとなるのかを検証する「バックテスト」が高速である点。Smart Tradeは公開2週間後ですでに70個程度のアルゴリズムを集めているそう。2つのアルゴリズムが合成可能な場合には、機械的にアルゴリズムを生成することで自動化と最適化を進めていくという。
・enigma
ネオキャリアの子会社であるenigmaが取り組むのは、非正規労働者向けの前払い給与サービス「enigma pay」だ。勤怠打刻データや給与データを参照して、アルバイトの給与データを前払い申請に基づいて企業に代わって振り込むサービスを展開する。enigma代表取締役COOの小口淳士氏によれば求職者の検索キーワードの上位には「日払い」が常時入っているほど若年層非正規労働者は自由に使えるお金が減っているという。こうした層には給料日にまとめて1カ月ぶんの支払いをするよりも、いつでも引き出せるということのほうが歓迎される。現在バブル期を超える求人難となっていることもあり、導入企業にはアルバイト人材確保という面でメリットがある、という。現在20社、10万ユーザーで導入企業しており、今後2000万人いるとされる非正規労働者の25%をユーザーとして獲得していく、という。親会社のネオキャリアが持つ勤怠管理システム「jinger」の20万社という導入基盤があるからできるサービス展開とも言えそうだ。
・App Socially
接客チャットサービス「ChatCenter iO」を展開し、日米双方に顧客のを持つ。App Socially自体は2013年の設立で日本人起業家としては数少ないシリコンバレーのアクセラレター、500 Startupsの参加企業でもある。AI、チャット、というと導入して失望した人も多いのではないか、とApp Sociallyの高橋雄介CEO。ChatCenter iOではAIによる接客の代替ではなく「会話の50%を自動化」するような半自動化の部分をユースケースごとに増やしていく取り組みを大手企業と組んで行なっているという。ホテル予約で日時を調整するとき、空き部屋の提示や支払い方法の提示を半自動化するといったことや、タクシーであれば配車時の位置情報の提示で機械学習の支援を接客担当者が活かせる仕組みを作っているそう。現在はむしろ大手企業との取り組みの中で受託コンサル的にユースケースから自動化する部分を増やしているフェーズ。そうした半自動化や自動化のユースケースは同一業界内であれば比較的容易に横展開できるだろうという。
・Emotion Tech
「感情xテクノロジー」を掲げるEmotion Techは、接客業におけるサービス品質改善のためのデータ分析プラットフォームを提供している。創業者の今西良光氏はユニクロでフロアマネージャーを務めたことがある。それは組織マネジメントを学ぶためだったが、結果としてスタッフ各人が顧客からどう評価されているのかは管理者には分からないことがある、ということを苦い体験から学ぶこととなった。そこで仕組みで解決しようと創業しようと設立したのがEmotion Techだそうだ。現在は説明時間がある窓口業務でのアンケート調査の分析を中心に200社ほどで導入されているという。今後は顧客の感情的変化をさまざな形で集めていくそうだ。
・atone
ネットプロテクションズの「atone」(アトネ)は個人向け審査不要のスマホ活用後払いサービスだ。現在スマホの普及で個人間取引や小規模事業者と個人との間での決済が増えているが、同時に売手には未回収リスクがある。そこで独自の与信データ・アルゴリズムにより数万円から数十万円のクレジットを買い手に与えるのがatoneの狙い。具体的にはスマホのケータイ番号とパスワードで会員登録をして利用を開始する。スマホで買えば、翌月にコンビニ払いができる。売り手の料率は1.9%+30円とカード決済などと比較すると安く、売上代金も100%保証する。未払い顧客の利用を停止するほか、継続利用客の与信枠を実績に応じて拡大することで、利用者全体の7割をリピーターとすることで実現できる数字だという。ネットプロテクションズは15年に渡って法人向けのコンビニ後払い決済サービス「NP後払い」を展開していて、累計1億人のユーザー基盤と取引データーを持つ。非会員であるにもかかわらず流通総額は1500億円となっている。こうしたデータと知見を生かす。