買うのではなく、必要な時だけお金を払って利用する権利を得る。近年サブスクリプションやシェアリングエコノミーといった概念がさまざまな分野に広がり、モノやサービスに対する人々の価値観や行動を変えつつある。
その中で今回着目したいのは、比較的まだ“買うもの”というイメージが強い「家具」だ。つい先日もオフィス家具の月額レンタルサービス「Kaggレンタル」を紹介したばかりだけど、この記事で取り上げたいのは個人を主な対象とした月額500円からの家具レンタルサービス「CLAS」。
運営元のクラスでは8月29日より東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県(離島など一部地域は対象外)にて同サービスをスタートした。
家具は自社生産、修理して複数回シェアを前提に安く提供
上述したようにCLASはチェアやベッド、ソファ、テーブルなどの家具が月額500円から利用できるサービスだ。レンタル料金には配送料や保険料が全て含まれているので追加費用は不要。家具の交換や返却も自由にできる(ただし最低利用期間が半年となっていて、半年以内での交換や返品には送料などの負担がかかる)。
繊細な人だと「レンタルだと汚れやキズを気にしてしまう」とプレッシャーを感じてしまうかもしれないけれど、通常の使用内の汚損や破損ならば修理費用は発生しない。またユーザーの過失により家具を全損 / 半損した場合も、返品送料実費は負担しなければならないが、修繕費は取らない方針なのだそうだ。
レンタル料金がかなり安く設定されている上に配送料や保険料も含まれていて、かつ通常範囲の汚れや破損は追加必要も不要と聞くと、正直これでビジネスとして成立するのかが気になる。
その点についてクラス代表取締役社長の久保裕丈氏に話を聞いたところ、CLASでは修理(リペア)して複数人に同じ家具をシェアすることを想定しているそう。耐用年数も長めに考えているため、月額の料金もその分だけ安く抑えることができるという。
「既存のサービスはレンタルではなくローンに近い印象を持っている。つまり買い切る前提で元の金額を複数回に分けて払うようなもの。2年で定価に達するくらいの金額感で、実際購入に切り替えられるサービスもある。一方でCLASはリペアをして次に回すのを前提に考えていて、耐用年数も5年など長めに想定している。その期間にぐるぐる回って最終的に利益が生み出せればいい」(久保氏)
CLASの家具は中国の工場にて自社生産したもの。現地のネットワークなども駆使して極力原価率を抑えるような仕組みを構築している。またテーブルやチェアは木材を使用することで、表面をヤスリなどで削れば新品に近い形まで綺麗になり、再度別のユーザーにシェアしやすいのだという。
これが実現できるのは、クラス取締役COOの白河衛氏がもともとインテリア家具の輸入や販売事業を手がける会社を10年以上やっていることも大きい。
「短期間で元の値段を回収しようとすると、どうしてもユーザーが手軽に使いづらい価格になる。それを変えるためには回収期間を長くできるようなリペアの設計も含め工夫が必要。原価率や配送効率、在庫効率などは当初からかなり綿密に設計している。チームにネットリテラシーと家具リテラシーが高いメンバーがそれぞれいるのも強みだ」(久保氏)
家具を持たずに利用する選択肢を作る
久保氏はいわゆる連続起業家だ。外資系コンサルティングファームのATカーニーに勤めた後、2012年に女性向けファッションコマースサービスを運営するミューズコーを創業。2015年には同社を約17.6億円でミクシィへ売却している。
CLASは元値分を一度回収できさえすればその先はひたすら利益を生むエンジンとなるが、とにかくイニシャルコストがかかる事業だ。7月にはANRI、佐藤裕介氏、光本勇介氏、中川綾太郎氏から資金調達を実施(金額は非公開)。久保氏は「結構な回数の増資が必要だと覚悟している」そうで、「起業1周目だったら絶対やりたくないような商売」とも話す。
なぜ新たなチャレンジの場にこのようなビジネスを選んだのか。その理由は久保氏自身が引越しをする度に間取りの問題などでインテリアを買い直す経験をし、その手間や費用を削減できないかと考えていたから。そして現在のマーケットや同業のプレイヤーの状況などを踏まえ、このビジネスに可能性を感じたからだ。
「家は賃貸でも気にしない人が多いのだから、同じように家具も持たずに利用するという選択肢があってもいいはず。まだ直接的に競合となるようなプレイヤーは日本でいないと思っているが、『家具は買うのが当たり前』という考え方を変えていく、新しい文化を作っていくのが大きなチャレンジになる」(久保氏)
事前にアンケートで好きな家具のブランドを聞いてみたところ、約6割が無回答だったそう。「洋服などに比べると、家具に関してはブランドに対して強いこだわりある人は少ないのではないか」というのが久保氏の見解で、だからこそ自社ブランドでもしっかりとした物を作れればチャンスはあるという。
CLASは5月にティザーサイトを公開し事前登録を受け付けていたが、これまでに5000件近くの登録があった。メインのユーザー層は20〜30代で人生で2度目の引越しをしようとしている層だが、個人だけでなくコワーキングスペースの運営会社やホームステージング事業者など法人からの引き合いも強い。
今後は自社ブランドに加えて家具好きのユーザー向けに既存ブランドの家具をラインナップに加えることも計画しているそう。また家具に限らず「暮らしを軽やかにするもの」を同じようにレンタルで展開することを考えていて、たとえば家電のレンタルなどは今年度中の提供も検討しているという。