映画「Search/サーチ」の制作者が語る、コンピューター画面映画の苦労と情熱

最初から最後まで視点がコンピューターやスマートフォンの画面に限定された映画など見たくない、と考える人はあなただけではない。映画「Search/サーチ」の監督と脚本を担当したアニーズ・チャガンティーとセブ・オハニアンも、まったく同じような不安を抱えていたと、私に話してくれた。

2人が初めてティムール・ベクマンベトフ率いるBazelevs(映画「アンフレンデッド」をプロデュースした制作会社)から声をかけられたとき、そのアイデアは、コンピューター画面の中で展開されるショートフィルム・アンソロジーの一部という想定だったと、チャガンティーは話している。ティーンエイジャーの女の子が行方不明となり、ジョン・チョー演じる父親が、娘が残していったノートパソコンを使って彼女を探し出そうと試みる、という「Search/サーチ」のプロットの基本形は、そのときに彼らが思いついた。

ところが、スタジオの側から、チャガンティー監督、オハニアン・プロデュースで、それを長編映画にしないかと持ちかけられた。そして2人は、脚本を書き始めた。

「こんな素晴らしいチャンスに巡り会えるなんて、どんな映像作家にもあるというものではありません」とチャガンティーは話す。「しかしその瞬間、私はノーと答えました」

彼らはその形式を、小手先の仕掛け以上のものにできると考えていたようだ。ただし、あくまでショートフィルムとして。長編映画にした場合、「引き伸ばすことで、単なる90分の仕掛けに戻ってしまう」と彼は心配していたのだ。

チャガンティーとオハニアンは、アイデアについて話し合いを続けたが、オープニングのシーケンスを思いついたことで、ようやく先に進むことができた。そのシーケンスは、実際に完成した映画のオープニングに使われている。デスクトップ・パソコンに保存された動画による7分間のモンタージュだ。それには、キム一家の(きわめて感情的な)歴史を凝縮した映像としての意味もある。

「その瞬間、何かがはじけた。電球が灯ったんです。この形式を、この話に使えるという可能性を感じました」とチャガンティーは言う。「そしてこう悟ったのです。これまでいろいろな映画があったけど、ただ新鮮なだけでなく、ときに感情的で、人を惹きつけ、映画らしい感覚を作る方法がまだあると」

「Search/サーチ」は、8月31日から全米で公開されるのに先立ち、今週末に限定公開される(日本公開は10月26日)。チャガンティーとオハニアンは、実際にどのようにして映画を作り上げたのか、2人のインタビューをお伝えしよう(編集が加えられています)。

監督/脚本家のアニーズ・チャガンティーとデブラ・メッシング。「Search/サーチ」の撮影セットにて。

TechCrunch(以降TC):形式から始まっのか、誘拐のプロットから始まったのか、その割合はどれくらいですか?

オハニアン:正直言って、ほとんど、そのどちらでもありません。アニーズと私は一緒に脚本を書いています。彼は監督で、私はプロデューサーですが。私たちは南カリフォルニア大学Cinematic Arts大学院で出会っています。私たちはそこで、Google Glass用の2分間のショートフィルムを制作しました。Google Glass、憶えてます? それが大当たりしたんです。「Seeds」という作品でした。そのお陰で、彼はグーグルに雇われて、こっちに出て来て、1年か2年、コマーシャルを作っていました。

私はこれまで数年間、インディー系のプロデューサーをしていたので、ティムール・ベクマンベトフの制作会社Bazelevsと縁がありました。彼の映画「アンフレンデッド」がちょうど公開されたときで、それが大成功を収めていました。そこで彼は私に、一緒に仕事をしたい映像作家はいるかと聞いたんです。もちろん即座に、アニーズのことを思いましたよ。

チャガンティー:私が加わってミーティングをしたとき、彼らはこう切り出しました。「アンフレンデッドの続編を作りたいのだが、普通の続編の形にはしたくない。アンソロジーとしての続編にしたいんだ。基本的に、ショートフィルムを詰め込んだものだが、すべてはコンピューターの画面の中で展開する」

私はすぐに、長編映画よりもずっと面白いと感じました。コンピューター画面上で展開される映画は数多く見てきましたが、この方向へ進もうと確信させる作品は、これまでひとつもなかったからです。ショートフィルムなら、長編映画で見てきた小手先の仕掛けとしてではなく、ちゃんと作れると思ったのです。(少し間を置いて)失礼な言い方かもしれませんが、そういうことです。

その1カ月半後、私たちは「Search/サーチ」のアイデアをメールでやりとりしていました。最初はショートフィルムのつもりでスタートしています。プロットは同じです。基本的に、父親が娘のノートパソコンに侵入して、彼女の行方の手掛かりを探すという。

私たちは、小手先の仕掛けではなく、本当に内容があり、魅力的で、観客が飽きる前に完結する作品にするには、長さは8分間だと考えていました。そして私たちは、制作会社に数ページの原稿を送りました。その数週間後、私はたまたまグーグルの写真撮影のためにロサンゼルスに来ることになりました。そのとき、彼らの役員会議室に呼び出されたのです。気がつくとセブと私は、役員会議室の大きな机の前で、重役やら投資家やら、そうした連中と対面していました。

彼らは私たちにこう言いました。「ちょっと短すぎる」と。そして私は「それは残念」と答えました。すると彼らはこう来ました。「これを長編にしたいんだ。セブとアニーズ、キミたちなら書ける。脚本台は払う。セブ、キミは制作を担当する。アニーズ、我々はキミに初の長編映画の監督としてギャラを支払う。予算はすべて我々が持つ。どうだね?」

こんな素晴らしいチャンスに巡り会えるなんて、どんな映像作家にもあるというものではありません。しかしその瞬間、私はノーと答えました。

オハニアン:やつは断ったんだよ!

チャガンティー:私の左側では、彼が「何言ってんだよ!」とばかりに、私のことを蹴ってきました。そんな感じでしたね。そのとき私はこう思ったんです。彼らは、小手先の仕掛けにならないよう私たちが考案したコンセプトを奪って、それを引き伸ばして、90分の仕掛けに戻してしまうんだと。さらに気に入らないのは、私たちの芸術性が認められたからではなく、別の映画がヒットしたからという理由で映画を作るという点です。私たちのアイデアに存在意味があったわけではないのです。

そうした正当な理由から、私は断ったのです。そして、その正当な理由によって、セブは「また連絡します」と答えました。私たちは部屋を出た後も、このチャンスの大きさや、私たちが何を依頼されたのか、その評価は別として、こんな機会はまたとないぞ、ということをずっと話し合いました。そしてこう決めたのです。「壁にぶち当たれば、それまで。でも、話し合うことで、敬意を払うべきだ」と。

それから2カ月間、私たちは物語をまとめる方法を考えましたが、できませんでした。ところがある日、私は当時、ニューヨーク州ウィリアムズバーグに住んでいたのですが、セブにメッセージを送っているとき、こう書いたんです。「なあ、オープニングのシーケンスだけど、すごくランダムなアイデアがあるんだ」と。するとセブは、「ボクにもオープニングのアイデアがある」と返してきました。そして私たちは電話に切り替え、お互いのアイデアを話したのですが、それはまったく同じオープニングのシーンでした。この日から、それが映画のオープニング・シーケンスになりました。デスクトップ・コンピューターに保存されていた、ある家族の16年の間に起こった人生の、独立した、非常にユニークな7分間のモンタージュです。

その瞬間、何かがはじけた。電球が灯ったんです。この形式が、この話に使えるという可能性を感じました。そしてこう悟ったのです。これまでいろいろな映画があったけど、ただ新鮮なだけでなく、ときに感情的で、人を惹きつけ、映画らしい感覚を作る方法がまだあると。

監督/脚本家のアニーズ・チャガンティーとジョン・チョー。「Search/サーチ」の撮影セットにて。

オハニアン:オープニングのシーンには、観客が一度見て忘れてしまったものが、画面の中に展開され、物語に引きずり込まれるという何かを、5分間で作るという考えがありました。うまくいったと思ってます。

チャガンティー:そうして私たちは、長い話をまとめました。オープニングのシーンのアイデアが決まるや、「次のシーンはこうなるね。その次のシーンはこうなる」となり、即座にそれをプロットにまとめました。だから、全体の構成はすぐに完成しました。

その構成を制作会社に送ると、彼らはそれを気に入り、「金を出すから、これでいこう」と言ってくれました。私はグーグルを退職して、飛行機に乗って、ロサンゼルスに引っ越し、映画を作ったんです。

TC:コンピューターの画面上で展開するたくさんの物事を最初に作っておいて、その後から、ジョンやデブラ(メッシング)やその他の俳優が、それをある程度ベースにして、ウェブカメラの前で演じたわけですか。

チャガンティー:この映画を作り方を、私たちよくこう説明しています。まずアニメーションを作り、それから実写映像を撮影して、それをアニメーションにはめ込み、何度も何度も洗練させる。

先にアニメーショを作るという方法は、セブのアイデアです。元になったのは「スカイキャプテン ワールド・オブ・トゥモロー」という映画です。撮影する前にシーンが作られていたという点で、よく似ています。

私たちは、この映画には2つのカメラがあると気が付きました。まずは、スクリーンに映し出される場面があります。そして、この映画ではカメラは常に動き回っているので、それをフレーム分けする方法があります。これらが互いに絡み合い、情報を交換するのだということに、私たちは気がついたんです。最終的な作品がどのような形になるかは、セットに入る前にわかっていないといけません。

そこで、俳優を雇う7週間も前から、エディターを呼んできて、このくらいの部屋にiMacを2台置いて、「お帰りなさい」と。率直に「やれ」と言いました。

彼らは、メッセージやボイスメールなど、インターネットのあらゆるものの画面キャプチャーを開始しました。ズームインしたり、カットをつなげたり。7週間が終わるころには、映画全体に相当する1時間40分のカットが出来上がりました。おやじ、娘、兄弟、母、父、すべてを私が演じました。私に話しかけてくる、すべての友だちも。そうして、カメラの動きなど、いろいろなことがわかりました。この映画の作り方もね。

撮影開始の前夜に、そのカットをクルーに見せたところ、「ああ、これがこれから撮影する映画か」と彼らは言いました。その時点まで、この映画を口で説明することができなかったのです。今は、予告編もポスターもあって、「これが私たちが作った映画です」と簡単に見せることができますが、それまでは「スリラーなんだけど、コンピューターの画面の中で展開する。でもすごくいいんだ」と言うしかありませんでした。なので、クルーに私たちの考えを伝えることができて、本当に助かりました。

そしてセットでは、映画の中で実際にコンピューターを操作するジョンが演じるキャラクターは、目線を……、つまり、どこにどのボタンがあるか、カーソルはどう動くか、何がどこに表示されるか、どこにビデオメッセージが現れるか、それらに従って目線を完璧に合わせる必要があるため、何が起きるかを知っておかないといけません。なので彼は、実際に大きな画面のどこに、なんの映像が配置されるかを理解していました。

「Search/サーチ」のデブラ・メッシングとジョン・チョー。

 

オハニアン:この映画をプリビズ(事前映像化)するという考えには、完成した映画が洗練され、映画らしく、観客の注目を集めるものにしたいという思いがありました。これは、今や全世界に配給されている、映画制作会社によって作られた映画です。しかし、元はインディーズ映画でした。見ていただいたとおり、この映画には空撮、カーアクション、群衆のシーン、水中や渓谷のシーンなどがありますが、すべて13日間で撮影しました。

プリビズ・バージョンを作るという考えの中には、撮影の1日1日をできる限り有効に使い、首尾一貫した、画面構成も演出しっかりしていて、すべてのものが素晴らしい作品に仕上がるようにという気持ちがありました。だから、偶然の産物ではなく、しっかり磨き上げられた作品だという感じがするのです。

TC:俳優と仕事をしたとき、彼らは何をすべきか、どれくらい本能的に理解していましたか? これまでの映画とは形式が異なるため、彼らを特別な訓練する必要は、どれほどありましたか?

チャガンティー:出演者もクルーも、この映画を実現させるために、それぞれの仕事を学び直す必要があったと思います。ミッチェル(ラ:娘マーゴット役)は、コンピューター画面の前での演技は、ジョンよりも自分のほうがずっと楽だと話していました。たぶん、世代の違いでしょう。しかし私たちにとって、すべてのルールが目に見えて新しいものでした。このような映画は、私たちの中では誰も作ったことがありません。これをまたやろうという人も、いないと断言できます。これが初めての体験であり、私たちはみんなで学びながら来たのです。

この映画は、出演者とクルーがみんなで手をつないで、真っ暗な洞窟の中を歩くようなものでした。みんなが、自分の右にいる人は、自分よりもう少しわかってるはず、と思っていましたが、わかっている人など、いませんでした。そのいちばん右にいた私ですら、「えー、わかんないよー」といった感じでしたから。しかし、そこへ飛び込んでみると、洞窟の中のすべての地点の真っ暗の中で、次にどうしたらよいかに気づくクルーや役者が1人はいたのです。

TC:話を聞く限りでは、「Search/サーチ2」は期待できないということですね。実際、もう新しいプロジェクトが決まっていますね。

今、この映画の最終段階に来て、どこまでなら、(コンピューター画面映画がひとつのジャンルになったとして)ほかの監督が参入して何か面白いことをするのを許せますか? また、この形であと4、5本の映画を作って、もう可能性が出尽くしたと感じるのは、どのあたりでしょうか?

 

 

チャガンティー:結論として、私はいつもこう言っています。クリストファー・ノーランに、時系列を遡る形の映画を(「メメント」に続いて)あと何本作れるかと聞いてみてください。その時間逆行映画のサブジャンルを作るのかとね。私は、彼がイエスと答えるとは思えません。

この映画も同じだと、私たちは考えています。つまるところ、この映画も仕掛けです。これは物語を伝えるための、スタイルのひとつです。思うに私たちは、仕掛けよりも、物語を先に伝える方法を考えたのです。しかし同時に、コンピューターの画面は、いつも同じ映像です。従来式の映画では、シンガポールでも香港でもニューヨークでも、自由に舞台を設定できることを考えると、制約はもっと多くなります。コンピューター画面の映画では、いつでもノートパソコンの画面の中です。

私たちから学ぶことがあるとすれば、それは私たちが学んだことと同じでしょう。これまでの映像で、これまでの映画のやり方を使って、技術を正確に正直に表現する方法は、まだあるということです。ハリウッドがそれをやり尽くしたとは、私は思っていません。自分のトーンやスタイル、それが何であれ、作ろうとしている映画が属する大きなジャンルと一貫性があると感じるなら、実写映像と組み合わせることも、まだ可能です。

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(翻訳:金井哲夫)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。