東京大学大学院工学系研究科は11月22日、未分化(特定の機能を持つ細胞に分化する前)の状態でiPS細胞を超高密度に培養する独自のシステムを開発し、培養コストを1/8に低減できたことを発表した。増殖因子(増殖を促すタンパク質)の量を変えずに8倍の増殖を可能にしたということで、その密度は1mlあたり細胞3200万個と、世界最高となった。
東京大学大学院工学系研究科の酒井康行教授らからなる研究グループは、カネカ、日産化学との共同で、ヒトiPS細胞の未分化増殖のコストを1/8に低減する小規模培養システムを開発した。透析膜で仕切られた上下2つの空間を持ち、その上部で細胞を培養する。そこに増殖因子を溜めておくが、栄養素や老廃物は下部と行き来できる。ここに多糖を添加することで、増殖を従来の8倍に高密度化できた。再生医療で大いに期待されているiPS細胞だが、増殖因子の高い価格が、その未分化細胞の大量増殖のネックになっている。増殖因子を低分子化合物に置き換える研究も進んでいるが、コストを下げるまでに至っていない。透析膜を使った培養工学的手法も研究されているものの、増殖密度が低かったり、コストの削減は実現されていなかった。
同研究グループのシステムは、高価な増殖因子をフルに使える構造になっている。さらに、実験の結果、iPS細胞から「自己組織化能の現れ」として、iPS細胞自らが分泌する増殖因子「Nordal」の濃度が培養につれて増加するという現象が認められた。これが大量の細胞培養につながったと考えられている。
今回のシステムは細胞培養部の容量が約2mlと小さいため、スケールアップが必要だと研究グループは考えているが、増殖密度が8倍になったことで、システムのサイズは1/10程度に小型化することが可能となる。今後はより高密度化を進め、さらに、未分化細胞の増殖に比べて数十倍のコストがかかる臓器細胞への分化誘導にこの方式が有効に働くかの検討を行うとしている。すでに、未発表ながら、肝臓や膵島分化の第一段階(内胚葉分化)で、増殖因子の使用量を1/8程度に低減させることに成功しているとのことだ。