深層学習という技術を軸にサービス開発するスタートアップ企業のAlpacaが、汎用の画像認識プラットフォームからトレーディングへとピボットして100万ドルを新規調達したことは昨年10月に本誌でお伝えした。それから数カ月の開発期間とベータテストを経て、Alpacaは今日「キャピタリコ」を正式リリースした。
テスト期間中のユーザーの声を反映し、当初ウェブで作っていたサービスはiOSアプリの完全モバイルとしていて、取引のアルゴリズムの作成まで含めてモバイルで完結するという(Android対応は年内の予定)。テクニカル分析やシステムトレードといえば、大型ディスプレイを3枚も4枚も縦横に複数並べる印象があるのでモバイルアプリのみというのは時代を反映しているとはいえ、珍しいのかもしれない。
キャピタリコは利用者が投資アルゴリズムを作成し、それを検証することができる分析ツールだ。リリース当初は主要通貨7ペアのFXのみ対応だが、数カ月のうちに米国株に対応するほか、日本株やそれらの先物などを入れていく予定で、さまざまな資産クラスに対応していくという。
投資アルゴリズムを作るためのUIは、具体的には上下左右に分割された画面上で4つのコンポーネントの内容を決めていくというもの。例えば、チャートで「ダブルトップ」「波状」などといった値動きのパターンや移動平均線といった時系列データのパターンをみて、どの部分でエントリーする(買う)のかといった条件定義をしていくといった具合。従来こうしたことは人間が画面に張り付いてタイミングを監視するか、プログラミングが必要だった。キャピタリコは、そうしたトレーダーの負荷を取り除くためのツールだ。キャピタリコのアプリで定義したアルゴリズムは、実際にはクラウド上のCPU+GPUのクラスター上で稼働することになる。
儲かるならツール作りじゃなくて自分でやれ、という批判
値動きや各種指標パターンを見て儲かるのなら、そもそもキャピタリコなんていうツールを作っている時間が無駄で、自分で投資すればいいだけなのでは? と、思う人もいるかもしれない。Alpaca創業者の横川CEOによれば、ここにはちょっと違う事情があるらしい。
まず、あるアルゴリズムによる投資を考えたとき、それに対する許容度は人によって異なるということ。自己資金で売り買いするのと、機械化するのとでは全然違ってくる。自己資金の運用だと、せいぜい数千万円程度の元手で、利回りも稼げて数十%程度。これだと稼げて年に数百万円にとどまる。つまりアルゴリズムを使って儲けられるといっても、たかが知れているのだ。
一方、人から資金を集めてアルゴリズムを使った投資ができるのは、規制や登記の問題があるので、今のところ法人内にいるトレーダーだけに限られている。ここを民主化するのだというのが横川CEOの中長期の狙いという。
金融商品やサービスが作れるのは法人内にいる金融のプロだけ。しかし、実はそうしたファンドマネージャーのパフォーマンスを上回っている市井のデイトレーダーというのがいる。そうした人々は有名ではないし、表に出てこない。こうしたトレーダーたちが作るアルゴリズムを投資助言業の「助言」として載せていくプラットフォームを目指す―、それがキャピタリコの目指してる姿で、「金融商品を作る人たちを法人から自由にしたい」と横川CEOはTechCrunch Japanに話している。「投資商品を作る個人と、それを買う個人の2者が直接繋がるオンラインの投資商品のマーケットプレイスになることを目指しています」。
当初のアプリはアルゴリズムを作るような玄人向け。当初は為替のみ対応なのでダウンロード数も10万程度が目標というから控えめだ。ただ、2017年初頭にリリースを目指しているマーケットプレースはアルゴリズムに対する投資家(運用したい人)が入ってきて一般向けに近づくという。ちなみにキャピタリコのユーザーはベータ期間中は6割が海外ユーザーだったという。
起業家には多くの人に見えていない何かが見えていて、それが本当に未来の姿なのだとしたら大きな可能性を秘めているものだろう。ぼくには正直良く分からないのだけど、次のような横川CEOの比喩による説明は興味深い。
「ロボアドバイザーは国際分散するだけで、それほどの価値はないと思っています。しかし技術の進化によって新しい機会を捉えようとするアルゴリズムがどんどんできてきます。個々のアルゴリズムは流行り廃りのあるデータになっていくのではないかと思うのです。ちょうど音楽のようなフローメディアです。一昔前ならば高価な機材を使って音源を録音していたのが、今や個人がiPhoneで安価に簡単に音楽を作れますよね。その音楽をiTunesに出して簡単に他人に流通させることもできます」
「音楽産業では途中に入っていた法人が消えて行っています。この比喩で言ったとき、投資で何が残るのかといえば、金融商品を作る人たちと、それをキュレーションする人たち。キュレーションというのは、音楽業界で言えばハイパーメディアクリエイター高城剛のような人です。彼が作るプレイリストというのは、くまなくインディーズも含めてあらゆる音楽を見て推薦してくれるものです。でも、誰もが膨大に存在する全ての音楽をくまなく見るなんてできないのでキュレーションに価値がある。金融商品も、あらゆる金融商品をくまなく見て評価した上で投資家に推薦する役割の人たちが残っていくのではないかと思っています」
そうそう、キャピタリコは国内Fintech系イベントでは有数の「金融イノベーションビジネスカンファレンス」(FIBC)」で2月25日に大賞を受賞していることを加えておこう。