異色の投資家アーラン・ハミルトン氏はスタートアップの雇用ルートを変えようとしている

ベンチャーキャピタルのBackstage Capital(バックステージ・キャンピタル)を2015年に設立して以来、Arlan Hamilton(アーラン・ハミルトン)氏は、自動車保険に挑戦する2人組からバーチャル学習のやり方を見直しているチームまで、数百万ドル(数億円)の資金を過小評価されたファウンダー率いる195の会社に投資してきた。業種の多様さにもかかわらず、ハミルトン氏は常に2つの質問を投資先企業から受けてきた。

「資金調達を手伝ってくれますか?」「雇用を手伝ってくれますか?」。

ハミルトン氏のファンドは、最初の質問への答えだが、彼女が今賭けているのは、後者を探求する(ハミルトン氏自身が作った)スタートアップだ。Runner(ランナー)は、スタートアップをパートタイムで働く人を探している人たちとをつなぐ労働マーケットプレイスだ。目的はアーリーステージスタートアップ構築における最大の不安のいくつかと戦うこと、最初の人事責任者をいつ雇うか、何を外注して何を内製すべきかといった人材配置などだ。Runnerは事業運営の職種に明確に特化してスタートする。

「コードの書き方を習いたかったり、技術色の強い職を探したければ、いくらでも行く場所はあります」とハミルトン氏はいう。「しかし、誰かの右腕、たとえばCOOになりたい人は今どこへ行けばいいでしょう。これは多くの会社が見落としてきた部分です」。

概念上、Runnerは逆張り投資家ではない。Upwork(アップワーク)とFiverr(ファイバー)はフリーランス経済の上で堅調なビジネスを構築した。この会社の違うところは、そのターゲットがテック業界の事業運営者であり、彼らをどう雇うかである点だ。”runner”、すなわちギグワークを求めているパートタイムプロフェッショナルは、W-2雇用者としてRunnerに雇われる。現在、同プラットフォームには200人前後の runnerがおり、その中には幹部経験者や、新たな収入源を求める元企業家もいる。

同社の現在の幹部の多くは、かつてrunnerとして入った人たちだ。例えばカスタマーサクセス(顧客を成功に導く)を率いるMelanie Jones(メラニー・ジョーンズ)氏は、歯科医ネットワークのプロダクトマネージャーを経て同プラットフォームに加わった。1カ月以内に彼女は幹部として雇用され、runnerから企業の意思決定者へと転じた人々に仲間入りした。それとは別に、Boeing(ボーイング)の幹部、Diana Moore(ダイアナ・ムーア)氏が4カ月前にCOOとして加わった。

runnerを請負人ではなく従業員に分類することによって、彼らは基本的な保護とより安定した雇用を得ることができる。Y Combinator(ワイ・コンビネーター)出身のBluecrew(ブルークルー)もオンデマンドワーカーを派遣する類似の組織をつくり、バーテンダー、イベントスタッフ、警備員、データ入力、カスタマーサポートなどの職種でも福利厚生のある従業員として労働者を雇用した。

ハミルトン氏にとって、Runnerは彼女がベンチャー業界に入る前から温めていたアイデアに立ち返るものだ。Backstage Capitalを始める前、ハミルトン氏は4人のミュージシャンの制作コーディネーターとツアーマネージャーだった(今も彼女は投資家としての仕事の中で音楽を引き合いに出す)。その仕事をする中で、彼女は多くのrunnerたち、すなわち遠征先で右腕として役に立ってくれる地元のエキスパートたちと仕事をした。Backstageを立ち上げる中で、彼女は自身の生活でrunnerを使い始め、国を横断してファウンダーらと合う際に1日だけ手伝ってくれる人を雇った。

音楽制作の世界におけるこの役割と、テック業界の柔軟性への愛との間にシナジーを見出した彼女は、Runnerを、ロゴを含め1から立ち上げた。

「Backstageを作っている時、私たちにリソースはありませんでした。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が発生して以来、人々はこのアイデアに困惑しました」と彼女はいう。「だから当時は机上のアイデアの1つにすぎませんでした」。そして2年近くパンデミックが続く今、機は熟した。

同社のビジネスモデルでは、runnerの時給の25%を受け取る。また、runnerが顧客にフルタイムとして採用された場合、顧客企業はrunnerの初年報酬の10%を斡旋料として支払う。

Backstage Ventureがベンチャーキャピタルの配り方と行き先を一変させようとしているのに対して、Runnerは企業が過小評価された人材を採用する手助けをする、という立場では作られていない。それはハミルトン氏がこの会社を固定概念化したくなかったからだという。

「私たちをDEI(多様性、公平性、インクルーシブ)な採用会社として位置づけるのは実に簡単なことでしたが、その責任を私たちがとることはしたくありませんでした。これは全員の責任であるべきことです」と彼女はいう。そういいながらも、現在Runnerの幹部は全員が、歴史的に見過ごされてきた経歴の持ち主だ。

需要にうまく応えるためにウェイティングリストモデルを採用する前、Runnerは約120社のパイロット顧客を確保し、年間50万ドル(約5700万円)の収益を見込んでいる。アプリは2022年3月15日の公開を予定している。

資金調達に関して、ハミルトン氏は同社を自己資金で立ち上げ、設立100日以内に50万ドル(約5700万円)のエンジェルラウンドを完了した。直近では、RunnerはSAFE(将来株式取得略式契約スキーム)によるプレシード・ラウンドで150万ドル(約1億7000万ドル)を評価額非公開で調達した。

ラウンドの出資者は、Precursor、Lunar Startups、Kabor CapitalのFreada Klein(フリーダ・クライン)氏、360 Venture Collective、およびGaingels。Backstage Capitalのクラウド・シンジケートであるBackstage Flex Fund IIおよびBackstage Opportunity Fund IもRunnerに投資した。

投資家が自身のファンドの資金を、自分が立ち上げた企業に投入することは稀だが、ハミルトン氏がいうように皆無ではなく、Guy Oseary(ガイ・オゼアリー)氏のSound Venturesが自身の会社のBrightに投資したり、David Sacks(デビッド・サックス)氏のCraft Ventuesが彼のオーディオ会社に投資した例はある。それでも、GP(ゼネラルパートナー)の会社に投資する時、意思決定者たちがプレッシャーを感じることがあれば利益の衝突が起きかねない。なんといってもGPなのだから。

ハミルトン氏は、Runnerへの出資を決定した投資委員会の一員だったが、各委員には自主決定する権限を与えたと彼女はいう。さらに、8ページにわたる契約概要(課題、機会、ギャップなどが書かれている)をまとめたのはBackstageのパートナーであるBrittany Davis(ブリタニー・デービス)氏とアソシエートのKelly Lei(ケリー・リー)氏であり、彼女は手を加えていないことを付け加えた。Runnerチームはプレゼン資料を提供してくれた。

「会社が利益をもたらすことは私の信託義務であり、RunnerのCEOとしての私の義務は、最良の投資パートナーを連れてくることです。私は両方をやりました」とハミルトン氏はTwitterのDMで付け加えた。Backstageの投資先でRunnerを利用している企業は25%のサービス手数料や収益の一部を支払わなくてよいこともバランスを保つ一因だ。

「私たちのゴールは2022年中に1000人以上の参加者を集め、平均4万ドル(約458万円)を達成することです」とハミルトン氏は言った。「そうすれば、私たちは5億ドル(約573億4000万円)企業になります」。

画像クレジット:Blake Little / Getty Images

原文へ

(文:Natasha Mascarenhas、翻訳:Nob Takahashi / facebook

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。