空前の住宅ローン借換えチャンスで、モゲチェックが攻めのリアル店舗を京橋に開設

アプリやサイトを作って「さあどうぞ」じゃ、儲からないものってあるよね。B向けプロダクトなら地道な営業や、事業展開のカギになる提携が大事だし、C向けサービスでも大きな買い物なんかだと、結局のところ利用者というのは詳しい人に会って相談をしてから利用や購入を決めるもの。

そんなこともあって、2015年6月に住宅ローン借り換えアプリ「モゲチェック」をローンチしたFintech企業のMFSが、専門家による借り換えコンサルサービス「モーゲージ・ネクスト」が受けられるリアル店舗の事業に乗り出すことを今日、発表した。

まず1号店を東京・京橋に4月1日にオープンして、コンサルから複数銀行への同時ローン申請などを代行してくれるサービスを展開する。京橋に続いて丸の内に第2号店舗を出し、2016年中には都内10箇所に同様のリアル店舗をオープンしていく。最初の2箇所が都内でも似たような立地であるのは、この辺りにコンバージョン率が高そうなビジネスパーソンが密集しているからという理由だ。

モーゲージ・ネクストの各店舗には10人程度の住宅ローンの専門家がスタンバっていて、予約来店する顧客へ無料相談と借り換えサポートを展開することになる。その一方で近隣のオフィスへ勤める会社員の元へ、昼休みなどに足を運んでコンサル業務をやる展開を計画しているそうだ。忙しくて住宅ローンの借り換えにメリットがあると分かっていても、実際の一歩を踏み出せない人のためのサービスだ。

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マイナス金利で空前の借り換えチャンス「神風が吹いた」

2016-03-24 11.18.39

MFS創業業者でCEOの中山田明氏

今日3月24日に都内で会見を開いたMFSの創業者でCEOの中山田明氏によれば、マイナス金利の影響で住宅ローンの借り換えに対する関心の高まりは大きく、「マイナス金利発表の前後で、1日の(モゲチェックの)登録者数が数十件から数百件になった」という(情報開示:MFSの中山田明氏と、この記事を書いたTechCrunch Japanの西村賢は子どもを介した数年来の友人だ)。

「むかしは金利が1%以下になってすごいと騒がれていたが、今や10年固定の金利が0.5%という世界。変動金利よりも10年固定のほうが安い、つまり長短逆転が起こっていて、住宅ローン関係者のわれわれは驚いている」(中山田CEO)という。どういうことかというと、金利を5年や10年で固定する場合は、貸す側に金利上昇で損をする金利リスクがある。このため、長期固定は変動金利に比べて金利が高いのがふつうだ。逆に借りる側は長期固定だと、ちょっと多めに返す代わりに金利上昇のリスクを避けられる。

ところが、である。

今や長期固定ですら金利が低い。いま借入や借り換えをしない手はないという状態になっているのだ。すでに住宅ローン比較サイトはいくつかあるが、モバイル・アプリや、リアル店舗展開と攻めの先陣を切っているMFSとしては、いまは「最高のタイミングで、神風が吹いたと思っている」(中山田CEO)という。

市場の10%、年間10万件の借り換えを狙う

2015年8月にMSFが住宅ローン比較借り換え検討アプリの「モゲチェック」をローンチした時にも詳しくお伝えしたが、住宅ローンというのは、ほとんどコスト負担なく借り換えができる特殊なローンだ。金利がどんどん下がって行く中で、すでに払いすぎている人がたくさんいる。MFSによれば、これまでモゲチェックで登録した1万人のユーザーのうち6割の6000人くらいが、1.5%以上の金利でローンを組んでいて、いま借り換えをすると100万円以上のメリットがあるそうだ。

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住宅ローンの借入件数は1年間で100万件程度。金額にして20兆円ほど。このうち85万件は新規借入で、借り換えは15万件ほどしかないという。住宅ローンの残高は180兆円(1200万件)もあるのに、みんな借り換えをしていないのだ。薄々メリットが数百万円になるかもしれないと思いつつ、仕事が忙しかったり、ローン審査の書類を揃えるのが面倒だったりするのが理由ではないかとMFSでは考えているという。

すでに組まれている住宅ローン1200万件のうち600万件程度が「モーゲージ・ネクスト」のターゲット利用層。MFSでは向こう3年でリアル店舗を全国の政令指定都市へと100店舗ほどに拡大して、住宅ローンの10%(年間10万件)のシェアを狙うという。店舗展開と同時に、遠隔での動画チャットコンサルや、借り換えだけでなく新規借入サポートなど住宅ローン専門の会社としての施策を打っていく計画だという。

コンサルフィーは一律20万円、高いか、安いか?

モーゲージ・ネクストによるコンサル、申請代行は、実際に借り換えをした顧客ごとに一律20万円のコンサルフィーをMFSへ支払うモデルとなっている。借り換えメリットとしてコミットした金額を下回った場合や、そもそもローン審査に通らなかった場合などは無償となる。だが、20万円という価格は高くないだろうか? MFSは「どのローンを選ぶかで支払いが数百万円変わってくるので20万円以上のメリットがあると考えている」と説明する。

今回MFSは「モゲチェックプロ」という複数ローンの比較分析ツールを新たに作って、これを住宅ローンの専門家が顧客とともに操作しながら最適なローンを提案をするようになっている。これは、すでにアプリとして出しているモゲチェックと比べて、「住宅ローンの専門家が使うので詳細な情報を入れて分析ができる」(中山田CEO)そうだ。複数ローンの比較、分析結果は表形式とグラフで表示され、返済総額やメリット額のほかに、時系列での月々の返済額の推移、返済額に占める利息の絶対額などが把握できる。金利上昇のシミュレーションもアプリ版より詳しく行える。

住宅ローンが難しいのは広告表示にある各行の金利だけを見ても、自分にとって損か得か全く分からないところ、と中山田CEOはいう。これにはいくつか理由がある。1つは「優遇幅」と言われる引き下げ幅と、その適用期間を考慮に入れた総返済額を計算しないといけないこと。広告などにデカデカと表示されている「0.35%」とか「0.5%」といった数字は、最初の5年や10年の金利でしかなく、その後の20年とか25年の金利はサイト上を探したり、パンフレットの細かい文字を読み込まないと分からないし、総返済額は実際に計算して比較しないと分からない。

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MFSが示した比較例。条件によっては0.35%より0.5%と表示されている住宅ローンのほうが総支払額が少なくなる

もう1つ、住宅ローンの比較を難しくしているのは、「どこの銀行も再優遇のケースだけを出している」(中山田CEO)という現状があるからだ。例えば楽天銀行の特約固定付き住宅ローンだと「0.590%〜」などと「〜」が小さく表示されているが、この「から」というのがクセモノ。実際には借り手の条件によって0.590%〜1.24%の間になるが、それは審査結果によって決まる数字だという。例えば5000万円のローンだと、これだけで100万〜400万円ほどの幅があるということになる。どうするかというと、複数の銀行のローンに同時に申請してその結果を比較するしかない。でも、1本だけでも申請書類の準備や検討に時間がかかる住宅ローンで個々人がそれやるのは至難の業だ、というのがMFSの言い分だ。そこでモーゲージ・ネクストでは、複数ローン申請を代行する。そのために顧客データをクラウド上に一元管理してダッシュボードで進捗や必要書類の提出具合を見える化する、ということをやるのだという。

rakuten

送客はしても、銀行から対価を受け取らないユーザー第一主義

MFSはSBIモーゲージやモルガン・スタンレー証券などで、住宅ローン証券化に取り組んできた創業者らが創設。2015年9月にはマネックスベンチャーズ、電通デジタル・ホールディングス、電通国際情報サービス(ISID)の3社から総額で約9000万円の資金調達をしている。

従来、不動産デベロッパーや銀行といった貸す側、もしくは仲介者からしかなかったローンの提案や情報提供という市場に対して、ユーザーの代理人となってユーザー利益のためだけに動くというのが、MFSの新しいところだ。20万円というのは比較的高額に思えるコンサルフィーだが、これを成果報酬として顧客から受け取り、金融機関からは金銭を受け取らないとしているのは理に適っている。ネットが証明したのはユーザー第一主義がいちばん強いということ。少しの企業からのキックバックのために本当はユーザー利益にならない銀行ローンを推奨するなんてことをしたら利用者にそっぽを向かれるだけだ。

「住宅ローンに、正解はある」をスローガンに、ユーザー側のメリットだけにフォーカスしたビジネスを展開するMFSは、既存プレイヤーが取りたくても取れないポジションを目指しているように見える。これは金融業界に限った話ではないけど、大手企業が情報の非対称性や複雑さを隠れ蓑にして過剰に利益を得ている部分をふっ飛ばせるのは、既存事業という失うものがなくて攻められるスタートアップ企業ならではだと思うのだよね。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。