空気中の湿度変化で発電する「湿度変動電池」を産総研が開発

産総研が空気中の湿度変化で発電する「湿度変動電池」を開発

産業技術総合研究所(産総研)センシングシステム研究センターと、同センターが兼務する人間拡張研究センターは6月2日、空気中の湿度変化を利用して発電を行える「湿度変動電池」を開発したと発表した。「潮解性材料と塩分濃度差発電を組み合わせた新しい原理」により実用的な電流を連続的に取り出すことが可能となった。

原理はこうだ。

湿度変動電池は、大気に開放された開放槽と密閉された閉鎖槽からなり、2つの槽には水と潮解性を有するリチウム塩からなる電解液が封入されている。この電池が低湿度環境にさらされると、開放槽からは水分が蒸発して濃度が上昇する一方、閉鎖槽は密閉されているため濃度変化は生じない。これによって開放槽と閉鎖槽間で濃度差が生じ、電極間に電圧が発生する。高湿度環境にさらされた場合は、逆に開放槽内の水溶液が空気中の水分を吸収して濃度が減少する。これにより先程とは逆向きの濃度差が発生し、逆向きの電圧が発生する。

潮解性とは、化合物が空気中の水分を吸収して水溶液になる性質のこと。湿度の変化が繰り返される限り、理論的には半永久的に電気エネルギーを取り出せるという。

これまでも、熱電素子、太陽光発電、振動発電など環境中の微小なエネルギーを利用した「環境発電」の研究が進んでいるが、熱・光・振動が存在する場所は限られており、どこでも使えるものではなかった。それに対して空気中の水分の利用する発電方法なら、地球上のほぼすべての場所で使うことができる。ただし、これまで研究が行われてきた吸湿時に電圧を発生する酸化グラフェンなどを利用した発電素子では、取り出せる電流はナノアンペア(nA)からマイクロアンペア(μA)程度と小さく実用性に欠けていた。

一方、産総研が開発した湿度変動電池はmA(ミリアンペア)レベルの電流が得られるため、昼夜の湿度差にさらされるIoT機器などへの極低電力電源としての応用が期待される。

産総研では、実際に湿度変動電池を作り、湿度30%と90%の環境に2時間ごとに繰り返し置く実験を行ったところ、湿度30%時の電圧は22〜25mV(ミリボルト)程度、90%時には-17mV(マイナス17ミリボルト)程度が得られた。最大電圧時に負荷を接続して出力測定を行うと、最大で30μW(マイクロワット)が得られた。短絡電流は5mA。「1mA以上の電流を1時間以上継続して出力することもできた。湿度を用いたこれまでの発電技術では、これほど大きな電流を長時間継続して出力できるものは報告されておらず、同素子は非常に高い電流供給能力を有していると言える」と産総研は話している。

湿度を20〜30%に保った密閉容器に湿度変動電池を入れ、微小な電力で回転する特別なモーターを回す実験では、モーターを2時間半にわたり回転させることができた。

今後は、出力と長時間使用時の耐久性を向上させ、実用化に向けた研究を行ってゆくとのこと。この技術の詳細は、英国王立化学会の学術誌「Sustainable Energy & Fuels」に2021年6月2日付で掲載される予定。

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