米国の保険スタートアップの2018年の資金調達は過去最高の2780億円

保険は地獄のようなややこしさだが、基本のビジネス部分は至ってシンプルだ。契約者にとっては、何か悪いことが起こった時に支払いを受ける手段であり、保険会社は災いを免れた人への課金で儲けを得る。

多くの大手保険会社が1世紀以上もビジネスを続けていることを考えれば、契約書を作成する側にとっては明らかに成功してきたビジネス手法だ。他の産業は変革の波にのまれてきたが、大手保険会社は大手として生き残り、収益をあげてきた。

しかし過去数年間、資金力のある新興スタートアップが保険にフォーカスした商品を拡大している。Crunchbaseデータによると、保険やインシュアテックの企業の2018年のベンチャー資金調達は空前の額となり、グローバルそして米国のトータル額は過去最高水準となった。かつて数億ドル規模だったベンチャー投資はいまでは数十億ドル規模となっている。

インシュアテックでもまた巨額の投資がある。既存のベンチャー企業がこの業界では活発だが、驚くことに投資の大半は、まさにスタートアップがディスラプトしようとしている保険大企業のコーポレートベンチャー部門からきている。

「私が思うに、結局、保険はグランドスラムの機会と見られている」とInsureTech Connectの会長で、ベンチャー企業QED Partnersの前設立パートナーCaribou Honig氏は語った。「ベンチャーコミュニティは、値段は安いものではないと言う。しかしチャンスを見つけられれば、そこには大きな可能性がある」。

下に、最近の投資データを参考までに示す。投資額や、どの企業が積極的に資金調達を行っているかが示されていて、そしてなぜエグジットがさほど多くみられないのかも推測できる。まず初めに保険ディールのコスト上昇について話そう。

人々は、保険額が数ドル上がると文句を言う。それは、保険スタートアップ投資家が対処せざるを得ないものに比べると何ほどのことでもない。引っ張りだこのスタートアップの評価額は右肩上がりで、ラウンドの規模も膨張する一方だ。結局、米国の保険・インシュアテックのスタートアップは2018年に25億ドル超を調達し、これは2017年の倍以上だ。一方、グローバルの投資は40億ドルに満たない。

下のチャートでは、米国におけるラウンドの回数と投資額の急増ぶりがわかる。

そして次は米国を含むグローバルマーケットの5年間のデータだ。

3、4年前にシード期の保険スタートアップの大きな波が起こったとHonig氏は指摘する。それが、平均的なラウンドの規模がかなり大きくなっている理由だ。そうした分野でホットな企業は急速に成熟していて、これまでになく大規模のレイターステージラウンドを模索している。

米国では、50社近くの保険・インシュアテックの企業が、巨額のものも含め1000億ドル超の資金を調達していた。最も大きなグローバル調達を行った企業のいくつかを下に挙げる。

コーポレート資金

立ち上げや部門拡大を図ろうとする保険会社のトレンドは数年前に始まり、加速を続けてきた。Crunchbaseのデータでは、スタートアップへの投資を行っているのは13の保険会社で、それらのほとんどは企業ベンチャー部隊を通じたものだ。全体的に、リストにある投資家はよりアクティブになっている。2018年にはわかっているだけで42の投資ラウンドに参加し、額にして計4億ドル出資した。

そうした動きを促進する要素もある。例えば先月、ドイツ大手保険会社Allianzはコーポレート・ベンチャー・キャピタル部門AllianzXの規模を当初の倍の11億ドルに拡大した。だからといって、検討の対象となる保険スタートアップが十分にあるだろうか?「必ずしもそうではない」と言うのはNew York Life Venturesを率いるJoel Albarella氏だ。というのも、New York Life Venturesや他のコーポレートVCが支援するディールの多くが保険に特化したスタートアップではないからだ。

たとえば、New York Life Venturesが最近手がけたディールのいくつかには禁煙プラットフォームのデベロッパーのCarrot、データ解析ソフトウェアスタートアップのTrifactaが含まれる。このコーポレートベンチャーファンドではまた、2年前にモバイルセキュリティのSkycureをSymantecに売却するという益の多いエグジットがあった。「こうした例はすべて、他の部門と同様にインターネットテクノロジーを保険に応用している」とAlbarella氏は語った。

Albarella氏はまた、インシュアテックが特にコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)投資家にとってホットな分野になっていて、それに伴う評価額の上昇を懸念している。それは明らかにCVCが関わっているディールでプレミアムな価格となっている、とAlbarella氏は話した。そして資金は潤沢にある。

エグジット

保険スタートアップにいく資金について、そうした金はすべて表に出てくると考える人もいるかもしれない。しかし、少なくとも米国スタートアップに限ってはそうではない。

保険業界でテクノロジーを活用している数社は手堅いエグジットを確保した。しかしこれまでのところ、かなりの資金を調達しているピュアプレイ(Oscar HealthMetromileなど)のいずれもM&AやIPOのルートを取っていない。

現実世界に勧善懲悪を適用するなら、保険スタートアップの投資家たちは本当に悪いことが起こった後に儲けを手にすることになる。それですら、膨大な書類を提出し、何時間も待たされてからだ。

少なくともHonig氏は、より現実的なシナリオとしていくつかの本当に巨大なエグジットがあるだろう、とみている。しかし、おそらくそれらはこれから数四半期のうちにはない。当面、急成長中の保険にフォーカスしたスタートアップはプライベートマーケットで簡単に資金を確保できる。多くのケースでは、企業は自社のブランド構築に時間をかけて売上を上げ、IPOをする前に態勢を整えることを好む。M&Aはどうかといえば、大手保険スタートアップの買収はこれまでさほどなかった。Honig氏は「保険会社はまだ静観モードだ」とみている。

従って、私たちは明らかに保険ディールとはみられないスタートアップが関わっている大きなディールを目にしてきた。そうしたものの一つとして、Honig氏は昨年Amazonに10億ドルで買収されたドアベルメーカーのRingを挙げた。RingのIoTテクノロジーは家所有者向けの保険に応用がきく、とHonig氏は語った。そしてRingは投資家に保険会社のAmerican Familyを抱えている。

控除額を超える

さしあたり、インシュアテックのベンチャーへの投資家はほとんどそのまま残っていて、価値がこのまま大きくなることを願っている。もちろん、そうなるかはわからない。しかし、往々にして的を射ている保険に関するマーフィーの法則を記しておく。それは、損失が控除額を超えることはめったにない、ということだ。保険会社のエグジットの自然な結果は、投資した資金をほとんど超えないリターンということになるのかもしれない。

もちろん悲観論者は通常、ベンチャーキャピタルのディールとは距離を置いている。

イメージクレジット: Brian A Jackson / Shutterstock

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(翻訳:Mizoguchi)

投稿者:

TechCrunch Japan

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