長年のベンチャーキャピタリストであるHans Tung(ハン・トゥン)氏は体格が大きい。これが命を救ってきたかもしれない。
トゥン氏は1984年に米国ロサンゼルスにやって来た台湾系米国人第1世代で、14歳だった同氏にとって当時は大変な時代だった。その2年前には中国系米国人Vincent Chin(ビンセント・チン)という名の27歳の製図工がデトロイトでChrysler(クライスラー)工場の監督と、その義理の息子によって殴り殺された。自動車メーカーに解雇されたその義理の息子は、日本の自動車産業の勢いある発展に怒っていて、チンが日本人の子孫だと信じていた。チンは自身のバチェラー・パーティー(結婚前の男性が男友達と開くパーティー)の夜に殺された。
それから数十年の間、反アジア人の感情は減っていたかもしれない。しかしまだ一定残っていた。そしてトゥン氏はその反アジア人の感情を受ける側だった、と話す。「大人になり、挑発に直面しました。カリフォルニアだろうがボストンだろうが、あるいはニューヨークだろうが、人種的差別的な言葉での挑発です。私の身長が193cm、体重は90kg超あるのは幸いでした」。もしかすると身体的なことで嫌がらせを受けたことがあるかもしれない。
トゥン氏は今ほど自身の体格について注意深くなったことはない。反アジア人の感情は2020年、新型コロナウイルスに関する政治的なレトリックを元に突然悪化した。「新型コロナが中国で発生したとき、アジア系米国人が非難されるだろうとわかっていました」とトゥン氏は話した。同氏はクロスボーダーの投資会社GGV Capitalのマネージングディレクターとして仕事で定期的に米国と中国を行ったり来たりしていた。「我々は同じようなことをSARS(重症急性呼吸器症候群)のときも体験しましたが、それは大きなパンデミックではなく、アジア人は嫌がらせを受けましたが殺されはしませんでした」。
友人や家族との会話、そして特に高齢者がサンフランシスコやオークランド、ニューヨークの地下鉄、タイムズスクエアの近くで殴られるという気がかりなニュースからして、米国のアジア人にとって現在は危険な状況だとはトゥン氏は確信している。米国時間3月29日には65歳の女性がひどい暴行を受け、その様子を見物人が撮影していた事件は国民の怒りを引き起こした。
数字がトゥン氏の主張を裏づけている。最初にNBCが報じたように、2019年から2020年にかけて、全体のヘイトクライム(増悪犯罪)率は減少している一方で、アジア人を標的にしたヘイトクライムは増えている。このニュースはカリフォルニア州立大学サンバーナーディーノ校のヘイト・過激主義研究センターが発表した分析に基づいている。研究では、そうした犯罪は2020年7%減った一方、アジア人を標的にした犯罪は150%近く増えていて、ニューヨークで最も急増していることが明らかになった。ニューヨークではアジア人に対するヘイトクライムが2019年に3件だったのが、2020年は28件と833%増加した。
そうした数字は2021年に増え続けていて、トゥン氏とGGV Capitalのパートナーは2週間前に自分たちが力を発揮できるところですばやく行動を起こすことを決めた。資金力とネットワークでもって増える暴力に対応するというものだ。最初のステップはAAPI(アジア系米国人と太平洋諸国出身者)のコミュニティをサポートしている組織への10万ドル(約1110万円)の寄付先を公募するというものだった。GGVの動きに、何か手伝いたいと思っていた他の投資家や創業者らもすぐさま呼応した。ここにはLightspeed Venture PartnersのJeremy Liew(ジェレミー・リュー)氏、Goodwater CapitalのEric Kim(エリック・キム)氏とChi-Hua Chien(チフア・チエン)氏らも含まれ、彼らもまた10万ドルの寄付をマッチングしている。
話を早送りすると、GGVの事実上のTwitterキャンペーン11日間で創業者175人超、Jen Rubio(ジェン・ルビオ)氏、Stewart Butterfield(スチュワート・バターフィールド)氏、Eric Yuan(エリック・ユアン)氏を含む、と「VCコミュニティで目にするのは稀」とトゥン氏が指摘するパートナーシップのようなもので30超のベンチャーファームから約500万ドル(約5億5350万円)の寄付が集まっていると同氏は話す。
すばらしいスタートだと話すトゥン氏は、全国ベンチャーキャピタル協会の統計によると米国のベンチャーファームでパートナーを務める15%のアジア・太平洋諸島出身者の1人だ。
と同時に、トゥン氏は問題は続いており、より多くのリソースが必要だと指摘する。そのリソースとは、増大する差別とそれをほのめかすものに対処するさまざまなアジア系米国人コミュニティにみんなが直接送っているものだ。実際、寄付者の関心を正しい方向へと送り込むのをサポートするために、GGVは少なくとも影響を与える取り組みをしていると確信している5つの組織を推薦している。これらの組織はAsian Americans Advancing Justice、Red Canary Song、GoFundMe Support the AAPI Community、Stop AAPI Hate、Compassion in Oaklandだ。
トゥン氏は、GGVが投資会社や役員室に男女平等をもたらそうと取り組んでいる組織AllRaiseを含む他のキャンペーンでも積極的に動いてきたとわざわざ断った。同氏のパートナーたちは2020年春のBlack Lives Matter(黒人の命も大事だ)運動にも大きく心を動かされ、NAACP Legal Defense FundやSouthern Poverty Law Centerなどに寄付をしたと同氏は指摘する。
Redpointの投資家Ryan Sarver(ライアン・サーバー)氏が2020年、シェフが作った食事を買って病院のスタッフに提供するという寄付の方法を考案してフロントラインワーカーやレストラン従業員をサポートした取り組みを含め、先の動きから学ぶものがあったとトゥン氏は話す。
そうしたレッスンの1つが、誰かの心に通じるものがあるとき、それが針を動かすのであれば「見せびらかしているVC」として見られるリスクを冒す価値がある、というものだ。
今回の場合「こうした犯罪の多くが個人の問題として扱われていて、ヘイトクライムとして扱われていません」とトゥン氏は話す。ヘイトクライムにはより厳しい罰則がある。そして同氏はこの問題を啓発することを決めた。たとえこれが、愉快なものではなく自身を脆弱な立場に置く体験になることを意味していてもだ。
「アジア人ヘイトは、私自身の問題です」と同氏は話している。
カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:VC、差別
画像クレジット:GGV Capital
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(文:Connie Loizos、翻訳:Nariko Mizoguchi)