米国土安全保障省が不法移民の特定にアプリの位置情報を利用、自由人権協会が反発

商業的に利用可能な携帯電話の位置情報を、不法移民容疑者の新しい捜査方法として米国国土安全保障省(DHS)が利用していることに対して、米国自由人権協会(ACLU)は抗議する計画を立てている。

「国土安全保障省は、有償、無償の区別なく、令状なくして私たちの位置情報にアクセスするべきではありません。令状を取らないということは、最も機密性の高い個人情報、特に携帯電話の位置情報の履歴などを取得する際、政府は相当の理由を裁判所に示す必要があるという最高裁判所の判例を軽視するものです」と、自由人権協会の言論、プライバシー、テクノロジー・プロジェクト専属弁護士であるNathan Freed Wessler(ネイサン・フリード・ウェスラー)氏は言う。

米国時間2月7日早朝、ウォール・ストリート・ジャーナルは、国土安全保障省が配下の移民税関捜査局と税関国境警備局を通じて、民間企業から地理的位置情報を購入し、移民法違反が疑われる人物の捜査に利用していると報じた。

コンテンツ収集サイトが、ゲーム、天気、買い物、検索などの携帯電話アプリから集めた位置情報が、国土安全保障省による不法滞在中の移民や米国に不法入国した人物のあぶり出しに使われていると、同紙は伝えている。

ウォール・ストリート・ジャーナルがインタビューしたプライバシーの専門家によれば、位置情報は一般に購入可能であるため、米政府が国民から収集したデータで史上最大の包囲網を張るとしても、政府の行為は法律違反には見えないと指摘している。

民主的な国で民間企業が構築した商用の監視システムが、同様の監視ネットワークを構築するために合法的にアクセスされ、中国やインドやロシアといった権威主義的な国で使われるという例もある。

「民間セクターにひっそり導入された商用の監視システムが、いつの間にか政府に直接入り込んでいるというのは古典的な話です」と、強力なプライバシー法を求めるシンクタンクであるElectronic Privacy Information Center(電子プライバシー情報センター)で法務顧問を務めるAlan Butler(アラン・バトラー)氏はウォール・ストリート・ジャーナルに話していた。

政府による商用データ使用の背景には、Venntel(ベンテル)という企業の存在がある。バージニア州ハーンドンに本社を置く同社は、政府請負業者として活動し、同じ幹部スタッフがモバイル広告マーケティング分析企業であるGravy Analytics(グレイビー・アナリティクス)にも在籍している。移民税関捜査局と税関国境警備局は、携帯電話の位置情報を抽出できるソフトウェアのライセンス料として、合計で130万ドル(約1億4300万円)近くを支出している。国土安全保障省は、それらの商用的に利用可能な記録から得たデータを、越境や人身売買の捜査のための一般的な手がかりとして利用されると話している。

自由人権協会のウェスラー氏は、こうした訴訟で過去に勝訴した経験を持つ。カーペンター氏と米政府との裁判では、携帯電話の地理的な位置情報は保護されるべき情報であり、法執行機関は令状なしに取得できないと彼は最高裁判所で主張し、認められた。

税関国境警備局は、Venntelから収集した携帯電話基地局の情報は明示的に除外していると、同局広報担当者はウォール・ストリート・ジャーナルに伝えた。法律に触れることが理由のひとつだ。同局はまた、限られた位置情報にのみアクセスしており、そのデータは匿名化されていると話している。

だが、暗号化されたデータは、その匿名の携帯電話情報と特定の人物の現実社会での移動状況とを関連付けることで、特定個人に結びつけることができる。また、他のタイプの公的記録と一般に開放されているソーシャルメディアを使えば、推論や特定も簡単にできてしまう。

移民税関捜査局は、すでに自由人権協会から別のプライバシー侵害の疑いで訴訟を起こされている。昨年末、自由人権協会は、国土安全保障省の業務が、携帯電話基地局になりすまして個人の位置を特定する、いわゆる「スティングレイ」技術を使ったことで米政府を法廷に引き出そうと考えた。

関連記事:スティングレイでの携帯通信傍受で人権団体ACLUが米当局を提訴

そのとき、自由人権協会は、2016年の政府監視報告書が、移民税関捜査局と税関国境警備局が合わせて1300万ドル(約14億3000万円)でスティングレイを大量に購入し「逮捕および起訴のために人々の位置の特定」に使用したことを示していると指摘している。

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(翻訳:金井哲夫)

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