サービス終了したゲームのキャラクターを、ブロックチェーン上のトークンとして永続的に留め、いつでも呼び出せるサービス「HL-Report」がリリースされた。対象となるゲームは2018年9月19日に終了したゲーム「レキシコネクト」。背景には、ゲーム分野でブロックチェーン上のDApps(分散アプリケーション)の普及推進を狙うビットファクトリー(モバイルファクトリー子会社、関連記事)の戦略がある。
ブロックチェーン関連の話は後ほど詳しく説明するが、まずHL-Reportとは何なのかを説明しておきたい。位置情報連動ゲーム「レキシコネクト」は2018年9月19日に終了したが、ゲーム終了に合わせてブロックチェーン上にプレイ記録を残す施策を取った。利用者には、各自のゲームのプレイの成果がトークンに記録されて残ることや、トークンを利用するにはウォレットアドレスの取得が必要なことなどの告知が出されていた。このような移行手続きを取ったプレイヤーの「レキシコネクト」上のプレイ記録は、Ethereumブロックチェーン上のERC721 NFT(ノンファンジブルトークン、非代替トークン)としてブロックチェーンに記録されている。
ブロックチェーン上に記録されたトークンから、ゲームのキャラクター画像やステータスなどのデータを呼び出せるサービスとして作られたのが「HL-Report」である。HL-Reportそのものはゲームではないが、ビットファクトリーとしてほぼ最初に公開するDAppsとの位置づけとなる。
ここまでの話でお察しの読者もいることと思うが、HL-Reportは、終了したゲームの作り手たちが、ゲームのプレイヤーに多少なりとも「お返し」をしたいという気持ちが詰まったサービスだ。「今までのゲームでは、我々ゲーム会社がデータを管理していた。ゲームは終了するが、ユーザーが持っていたものは残したいと考えた。ユーザーへの『恩返し』に近いサービスだ」と、ビットファクトリーの中山政樹氏(シニアディレクター、ゲームデザイナー)は話す。終了したゲームの画像などを記録できるようにする取り組みはゲーム業界でも出始めているとのことだが、ブロックチェーン上に永続的に記録する取り組みは世界的にも珍しい。中山氏によれば「まだ公式に決まった話ではないが、別のゲームタイトルの中でトークン保有者に同じキャラクターを付与することも、やろうと思えばできる」とのことだ。
ただし、HL-Reportはただ「恩返し」のために作られたサービスではない。ゲームユーザーのDApps利用を普及させていきたい同社の目的に沿って作られたサービスでもある。
DAppsの利用者拡大と開発環境整備を「健全に」進めたい
DApps、つまりブロックチェーン上の分散アプリケーションは、新たなゲームプラットフォームとして注目を浴びている。最初に大きなバズを引き起こしたDAppsである「CryptoKitties」は、ブロックチェーンに記録された多種多様な「猫」を集めるゲームだった。従来のゲームとの違いは「猫」がEthereumブロックチェーン上のノンファンジブルトークン(NFT、非代替トークン)として記録されていたことだ。ブロックチェーンの特性により集めた「猫」の偽造や複製がほぼ不可能となり、またそのような希少性を保ったまま譲渡することもできる。いわばトレーディングカードのデジタル版である。
HL-Reportが扱う「レキシコネクト」のユーザーデータは、技術的にはユーザーどうしで交換可能なトークン(ERC721 NFTトークン)となる。その法的な扱いについて、ビットファクトリーは検討を重ねた。その検討の中間報告にあたるBlogエントリも公開している。
トークンが市場価値を持つ場合、トークン(キャラクターやアイテムなど)をランダムに引き当てる「ガチャ」が賭博にあたると判断されるリスクや、資金決済法が定める仮想通貨交換業でなければトークンを取り扱えなくなるリスクが出てくる。そこで、「ガチャ終了後に、トークン化の施策を告知する」ことで賭博の要素を排除し、またトークンの交換市場はHL-Reportではサポートしない形としている。
今回のDAppsは、同社にとってはゲーム利用者にトークン、ウォレット、DAppsといった基本的な概念を普及させるための第一歩となる取り組みだ。そのほか、同社はDApps普及の取り組みとして「Uniqysプロジェクト」を推進し、DAppsにアクセスしやすいスマートフォン上のウォレットアプリ「Quragé」や、DApps開発者向けの「Uniqys Kit」をリリースしている。利用者数、法整備、開発環境などの観点から、現在はDAppsのゲームを作るよりも、まず利用者を増やす施策を打ち出し、開発者向けプラットフォームの整備を進める時期だと同社は判断している。「ブロックチェーン業界が健全に成長していくための取り組みを進めていきたい」と中山氏は語っている。