編集部注:本稿を執筆したRyan PetersenはFlexportのCEOである。
先日、自動運転トラックの輸送団がヨーロッパを横断し、ロッテルダムの港にたどり着いた。自動運転トラックほど自動化によって職を減らすもの、または経済を効率化させるものはない。
トラック1台分の積み荷をロサンゼルスからニューヨークまで輸送するのは、現在4500ドルのコストがかかる。その75%が人件費だ。だが、自動運転トラックを導入することによる恩恵は、人件費の削減だけではない。
人間のドライバーは、8時間の休憩を取ることなしに1日あたり11時間以上運転してはならないと法律で定められている一方で、自動運転トラックは1日24時間近く稼働することができる。これは、米国の輸送ネットワークにこのテクノロジーを導入すれば、現状の25%のコストで2倍のアウトプットを生み出せることを意味する。
そして、燃料効率の向上も考慮に入れれば、自動化によるコストの節約は大きくなる。燃料効率の観点から言えば、もっとも効率的なのは時速約45マイル(およそ時速72km)で走行することだ。だが、走行距離に応じて報酬を受け取るドライバーたちは、それよりも速いスピードで運転している。自動走行トラック隊に、「プラトーン走行」の技術を取り入れれば、燃料効率はさらに良くなる。これは、Peloton Technologyのシステムに代表される、複数の車両が短い車間距離を保ってあたかも列車のように連なって走行する技術の事だ。
私たちが購入するあらゆる製品のコストにおいて、トラックによる輸送コストはその相当な割合を占める。そのため、各地の消費者はこの変革によって、より低いコストでより高い生活水準を得ることができる。
自動運転トラックによる効率化という恩恵は、無視するにはあまりにも現実味を帯びたものである。だが、このテクノロジーには恐ろしい副作用もある。
これらに加えて、いったんこのテクノロジーが商業用に利用されるまでに成熟すれば、それがもたらす安全面での恩恵にも相当に期待することができる。今年1年間だけでも、過去45年間の国内線の航空事故による死亡者よりも、多くの数の人々が交通事故で命を落とすだろう。それと同時に、米国において勤務中に命を落としたトラック運転手の死亡者数である、835人という数字は、その他のどの職業における死亡者数より多い。
直接的な安全面でのリスクはさておくとしても、トラックの運転手という仕事はとても体力のいる仕事で、若者が就きたがらない仕事だ。トラック運転手の平均年齢は55歳であり(そしてこれは毎年上昇している)、将来想定されるトラック運転手不足は、今後数年のうちに自動運転トラックを導入するインセンティブとなっている。
自動運転トラックによる効率化という恩恵は、無視するにはあまりにも現実味を帯びたものである。だが、このテクノロジーには恐ろしい副作用もある。現在、米国には160万人ものトラック運転手が存在しており、29の州ではそれは最も一般的な職業なのだ。
米国の労働人口の1%が職を失うことは、同国の経済にとって破壊的な打撃となる。しかも、その副作用はそこで終わらない。ガソリンスタンド、幹線道路沿いのレストラン、運転手の休憩施設、モーテルなどのビジネスは、トラック運転手なしで生き残るのは難しいだろう。
ヨーロッパにおけるデモンストレーションは、自動運転トラックの実用化が目前に迫っていることを示した。残るおもな障壁は法的規制だ。高速道路で自動運転に切り替えるにしても、いまだ人間の運転よって乗り入れることができる高速道路の出入り口が必要だ。ゆっくりと走行する自動運転トラックは人間の運転手にとっては障害物になり得るので、それ専用のレーンが必要かもしれない。これらの大きなプロジェクトには政府の協力が必要不可欠である。しかし、数多くの職を消し去る可能性のある自動運転技術のための法整備に、行政機関が及び腰になるのも無理はない。
それでもなお、自動運転トラックを導入することによる恩恵は、このテクノロジーを単に禁止するには大きすぎる。陸上輸送の対費用効果が400%向上することは、人類の幸福が途方もなく向上することを意味する。大多数のアメリカ人が農地に足を着けて働いていた20世紀初頭に、トラクターや刈り取り機が生まれた。その時、もしも私たちがその機械式の農業を禁止していたら、世界はどうなっていただろうか?
私たちは人工知能やロボットによって人間の仕事が奪われることを、遠い将来に私たちがやがて直面する抽象的な問題としてよく取り上げる。だが、ごく最近に自動運転トラックのデモンストレーションが成功したことは、この新しい現実に私たちがどのように適応すべきなのかという議論を、もはや先延ばしには出来ないことを示しているのだ。
[原文]
(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Twitter /Facebook)