興味あるのは「SNS」、一番怖いのは「固定化すること」——取締役・舛田氏が語るLINEのこれから

B Dash Ventures代表取締役社長の渡辺洋行氏(左)、LINE取締役CSMOの舛田淳氏(右)

B Dash Ventures代表取締役社長の渡辺洋行氏(左)、LINE取締役CSMOの舛田淳氏(右)

10月17日から18日にかけて北海道・札幌で開催中の招待制イベント「B Dash Camp 2016 Fall in Sapporo」。初日最初のセッションにはLINE取締役CSMOの舛田淳氏が登壇。B Dash Ventures代表取締役社長の渡辺洋行氏とのセッションを繰り広げた。

日本、NY同時上場の意味

2016年7月に日本(東証1部)、ニューヨーク(ニューヨーク証券取引所:NYSE)に同時上場したLINE。渡邊氏は舛田氏に改めて同時上場の意図を尋ねた。

「2016年の年頭までは悩みに悩みまくっていた。東証とNYSE両方なのか、東証だけに上場するのか。テクニカルなこと(株価上昇など)をしたかったという観測もあったが、全然そんなことはない」

「仮に今の経営陣がくたばったとしても——呪詛のように『LINEという会社は世界を意識しないといけない。10年後20年後にもそういう意識を持たさないといけない』と考えた。普通に考えたら『日本だけでいいんじゃないか』と(今後)我々以外の経営者が言うかも知れない。それでは困るのでニューヨークとの同時上場をした。これまで無茶をしてきたので、(上場も)無茶をするのがLINEらしいところもある。海外の投資家の理解度も高い。Twitter、Facebookと同じようなポテンシャルで見てもらっている」(舛田氏)

同時上場については、決定しなければいけない期限まで話し合ったのだという。「明日決めるという日の前日も、仕事の帰り際に出澤(LINE代表取締役社長CEOの出澤剛氏)と『どうする』と話していた。全ての選択肢は持ち続けた」(舛田氏)

そして迎えた7月15日の日米同時上場。ニューヨークで上場を迎えた舛田氏は、その様子を振り返る。

「同時上場ではなく、アメリカで上場するのもアリだと思う。文化の違いというのもあるが、チャレンジする人がサクセスするということ対して、『ウェルカム』と言ってくれる国だ。上場日、マーケットの前で車を下りた瞬間から、ある種のショーが始まっている。映画のように掃除をする人や警備をする人から『今日はいい日になるといいね』言われたり、ハイタッチされたりする」

「(取引所も)もう全てシステム化されているので、本来はディールの場に人が必要ない。ただ初値が付くまでは、(スタッフが)『40ドルだ。(LINEの株価は)そんな価値ではない』と言ってくれる。我々がしびれを切らすと『大丈夫だ。水を飲め』と語りかけるなど、エンターテインメントとして演出してくれる。TIMES SQUAREのショーなども決して我々が仕込んだのではない。セレモニーをやってもらった」(舛田氏)

一方で東証での上場については、出澤氏はじめとして参加者から「少し寂しかった」という声が出たそうだ。舛田氏は「ちょっとした演出でチャレンジする人(のモチベーションが)上がる。その日1日誇れれば、継続して成長するプライドも持てるのではないか」と提案する。

LINEは上場して何を目指す?

LINEは上場以降、「スマートポータル」という構想を掲げてサービスを展開している。渡辺氏はその進捗について舛田氏に尋ねる。舛田氏は次のスライドをもとに現状を語る。

LINEの「スマートポータル」構想

LINEの「スマートポータル」構想

「コンテンツやメディアの領域で1番成長著しいのはLINE NEWS。10代、20代はYahoo! ニュースに迫る勢い。MAUは4100万人で、スマートポータルのメディア戦略の中核中の中核。LINE LIVEは動画プラットフォーム。よく比較されるのはAbema TVだが、全然違うことを考えている。我々はスマホらしいプラットフォームを考えた時に、縦(縦向き動画のUI)だろうと考え、縦向きでコミュニケーションしやすいプラットフォームとして舵を切った。LINEのプッシュ通知などもあるので視聴も配信も増えてきた」

「(サブスクリプション型音楽配信サービスの)LINE MUSICも着実に伸びている。通常のサブスクリプションだとなかなか厳しいところがあったので、LINEの呼び出し音などに(利用できるように)力を入れたところ、サブスクライバーの数も売上も伸びてきた」(舛田氏)

このほか、インフラの面でも、LINE Payやメッセージング、BOT APIなどの提供も進めている。舛田氏は、LINEの本質は「カンバーセション」の会社だと続ける。「日本もタイも台湾もだが、そこで(メッセージングサービスの)リーディングカンパニーは間違いなくLINE。そこにUI、データ、カンバセーションといったものをOSのようにしてさまざまに展開しようとしている」(舛田氏)

スマートポータル構想について語る舛田氏。だが、渡辺氏からはより具体的な戦略について知りたいという質問が飛ぶ。

「さっきニュース(LINE NEWS)の話をしたが、ポータルサイトで必要なコンテンツというのはいろいろある。だが(ポータルと)スマートフォンを掛け合わせた時に必要なバーティカルなコンテンツやサービスはまだLINEにはない」(舛田氏)

LINEにまだ欠けているコンテンツやサービス、その1つの答えが先日発表された「出前館」運営の夢の街創造委員会の株式取得だろうか。舛田氏は「(コンテンツと比較して)サービスに近いところだがそうだ」と語る。

さらに、「コンテンツやメディアはまだ(LINEに)ない」として、他社との提携、株式の取得、協業などに力を入れていくとした。同時に、内製して開発していた内容についても、テクノロジー系のスタートアップと組んで補完していくと語った。「出資もするし、必要であれば100%(LINEの)中に入ってもらうものもある」(舛田氏)

舛田氏はLINEの戦略は分かりやすいと語る。「引いたところから見ると、光が強い(注目しており、サービスを提供しているという意味)ところ、弱いところがある」(舛田氏)。そしてまだ光が当たっていない領域については、すでに外部と連携に関する話をしていたりするとした。ビジネスとしては広告事業にも注力していくが、さらにLINEらしい非連続のチャレンジも続けていくという。

「例えば『NEXT LINE』というところにも張っていこうとしている」(舛田氏)

一番怖いのは「固定化すること」

その「NEXT LINE」としてチャレンジする領域の1つが「SNS」だという。LINEは現在、動画SNSのSNOWに出資したり、写真SNSの「B612」を提供したりしている。舛田氏は「LINEは基本的な連絡をすべてやっているのでアクティブ率は落ちない」とした上で、InstagramやSnapchatを例に挙げつつ、「ただ、(LINEが)みんなにリーチしてるからこそ、逃げたくなるようなもの(コミュニケーション)もある。そういうニーズをどうくみ取るかが大事」と語る。今後もこの領域でのチャレンジがあるということだろうか。

「社内で言っているが、一番怖いことは固くなること、固定化すること」——舛田氏はこう続ける。LINEは1兆円規模の会社になったが、ここまでのプロセスでの強みが、今後は弱点になることはある。そうやって終わっていく企業は多い。なのでどこまで固くならず、変な前提を持たず、新しいことにチャレンジできるのか(が大事)。IPOしたからこそ、きちんとやるべきだと思う。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。