良い頃合いに声がけ―、ネット接客のAI化でSprocketが新機能

声がけはアートだ。雑貨店やアパレルショップで店員が声がけしてくるとき、早すぎると客にうとまれる。かといって顧客が相談したいタイミングで視線が合わないようなところにボケっと立っているようでは失格。正しいタイミングで声がけできる売り子の売上成績は良いだろう。

これはウェブサイトも同様だ。ポップアップや画面の下からニュルッと出てくるチャットウィジェットで来訪者に「声がけ」するタイミングには、早すぎることも、遅すぎるということもある。これを機械学習で最適化しようというのがSprocketが本日リリースした「Autosegment」だ。すでにピザハットなど従来からのSprocketの顧客が導入を開始しているという。

購入を迷っている人に返品のFAQをすっと見せる

ウェブ接客のSaaSを提供するSprocketについては2015年5月にTechCrunch Japanでお伝えした。法人向けのモバイルEC制作の受託事業を行っていた「ゆめみ」から分離独立して深田浩嗣氏が創業したスタートアップ企業だ。Sprocketは2015年に1億2000万円の資金調達を行い、2017年1月にもシリーズAとして1億6000万円の資金調達をD4Vアコード・ベンチャーズなどから行っている。深田氏はゆめみの共同創業者だったが、特定事業を切り出す形で再び別企業としてスタートアップを始めた形だ。

Sprocket創業者で代表取締役社長の深田浩嗣氏

Sprocketが提供しているウェブ接客(ここに事例集がある)は、なかなか面白い。いくつか例を出そう。

ワコールの女性向けの下着販売であれば、通常のアイテム一覧リストをスクロールダウンしたタイミングで、画面下部に女子キャラを表示。顧客に対して「谷間をキレイに見せるブラ」「大きい胸を小さく見せるブラ」など4つの選択肢を示して「何をお探しですか?」とやるわけだ。画面でいうと以下のような感じ。

特に効果があるのは購入直前で逡巡しているような人に出す情報だという。「返品に関するFAQは通常サイトのどこかに眠っています。これを購入ボタンを押そうか迷っている人に提示することで不安が解消されてコンバージョンは上がります」(深田氏)

ログイン失敗時には、パスワードリマインダーに誘導するメッセージを出したり、ゲスト購入も可能であるむねメッセージを出したりする。

ピザの購入直前の画面ではシズル感のある動画で、チーズがニューッと伸びるのを見せるとコンバージョンが上がるそうだ。さらにトッピングのおすすめもランキングで見せる。これは、電話での受付で顧客の注文を聞いた後にオペレーターがやる追加提案のようなものだ。

野菜の定額配送サービスであれば、初めてサイトを訪れる人に対して野菜の安全性などを説明し、続いて料金のシミュレーションができるコンテンツへ誘導する。

 

「SprocketはUI改善というよりも、導線を動的に作ってるということなんです。すっと情報を提示して来訪から購入までの体験を一直線にする」(深田氏)

すでにこうしたウェブ接客は成果をあげている。深田氏によれば、顧客1社あたりのSprocketへの支払い額は月額20万円前後で、それによって支払額の10倍程度の収益増に繋がるというのが一番多い事例だそう。中には投資額に対して50倍程度の収益増となっているケースもあるという。リターンが大きいのは生命保険やクレジットカードの申し込みなどの「説明系商材」。価格の高い化粧品などもSprocketの導入効果が大きいという。

Sprocketでは顧客に導入提案をするときに、達成するROIを保証しているという。導入後に調整が必要なケースもあるが、2、3カ月程度で提示したリターンが出るケースが9割程度という。「ツールとして売れることは分かったので、今の課題は組織としてどうスケールするか」(深田氏)

今回リリースした機械学習のAutosegmentは、ユーザーの行動を観察して、Sprocketが持っている接客パターンのどれを誰に当てるべきかを考えて実行する部分を機械化するという。

・購入を悩んでいそうなら不安を解消するような話をする
・自分を納得させるプッシュがほしそうならプラスアルファの説得材料を提示する
・まだ他の商品も見たそうなら関連する他の商品を紹介する

といったことを判断して接客の仕方をリアルタイムに変える。まだどの程度実際の収益増に繋がるかという具体的な数字は出ていないものの、複数実施しているトライアルからすると20%程度の収益向上は見込めるのではないかという。

AIによる接客の結果は再び機械学習の教師データとしてSprocketのシステムにフィードバックすることができる。「自分の接客の結果から学習し、自ら接客の仕方をブラッシュアップするAIです。やればやるほど接客の精度が上がる」(深田氏)。今後は流入経路や天気・ニュースなど外部の情報も接客判断に使えるように拡張することも考えているとか。

現在Sprocketの顧客は約100社。年商は2〜3億円のレンジで成長している。海外に目を向ければMarketoやEloquaなどマーケティングオートメーション領域では競合大手も少なくないし、Walkmeという同コンセプトのサービスもある。ただ、SaaSといってもSI的要因も強い商習慣の違いなどから日本のEC市場では国産サービスが伸びそうだ。国内競合サービスには、プレイドの「KARTE」やSocketの「Flipdesk」、NTTドコモの「ecコンシェル」などがあるほか、クーポン配布ということだとEmotion Intelligenceの「ZenClerk」もある。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。