チャレンジャー銀行、既存の銀行、そしてあらゆる銀行サービスに参入してくる多くの企業には共通点がある。それは、クレジットラインや預金、当座預金などの新商品を立ち上げる際に、最近ではそうした多くの企業が一から作り上げるのではなく、サードパーティーのテクノロジーを利用してサービスを提供していることだ。米国時間1月7日、そのようなテクノロジーを提供する大手企業の1つが、事業拡大のための大規模な資金調達を発表し、この市場の成長を裏付けた。
Mambu(マンブー)は、ベルリンを拠点とするスタートアップで、SaaSバンキングプラットフォームを自称していて、銀行などにAPIを介して融資や預金などの銀行商品を強化するテクノロジーを提供している。マンブーは、1億1000万ユーロ(1月7日時点のレートで約1億3500万ドル、約140億円)のラウンドを終了し、この資金調達により、調達後の評価額は17億ユーロ(同20億ドル強、約2160億円)になることが確認された。
CEO兼共同創業者のEugene Danilkis(ユジーン・ダニルキス)氏は、この資金を利用して、すでに事業を展開している50の市場をより手厚く拡充し、南米やアジアなどの特定の地域にも力を入れていく予定だと述べている(「シリコンバレーは死んだのか?」という話題に注目している方へ。同社は、マイアミに米国オフィスを構える数多くのテック企業の1つだ)。
マンブーは前年比100%の成長を遂げているが、注目すべきは、同社が前回2019年に3000万ユーロ(当時のレートで約37億6000万円)を調達したときには50の市場をカバーしていたことだ。マンブーはそうした市場に投資し、事業を拡大していく予定だ。
今回のラウンドはTCV(ティーシーブイ)が主導しており、Tiger Global(タイガーグローバル)とArena Holdings(アリーナホールディングス)に加え、以前の出資者であるBessemer Venture Partners(ベッセマー・ベンチャー・パートナーズ)、Runa Capital(ルナキャピタル)、Acton Capital Partners(アクトン・キャピタル・パートナーズ)も参加している。Netflix(ネットフリックス)、Facebook(フェイスブック)、Spotify(スポティファイ)などに投資を行ってきたTCVは、大規模な成長ラウンドへの投資を行うことで知られ、最近ではRevolut(レボリュート)、Spryker(スプライカー)、Mollie(モリー)、Relex(リレックス)などへの投資を行い、ヨーロッパのフィンテックやeコマースの大手企業を支援することでも名を馳せている。
マンブーが注力する市場では、スマートフォンやウェブの利用増加を活用する銀行や金融機関のサービスの新勢力に大きなチャンスがある。
預金の入出金、ローン申請書の記入、個人やビジネスへの融資を最終的に判断する審査役との面会のために銀行のリアル店舗に行く必要がある時代は遠い過去の話だ。実際、そのような従来型の店舗の多くはもはや存在さえしていない。その役割は、アプリやウェブサイト、オンデマンドサービスが取って代わり、人々が時間とお金を費やすオンライン上に存在している。
ダニルキス氏によると、マンブーのプラットフォームは現在、約7000種類の銀行商品をカバーしている。これらの商品は、融資、当座預金口座、普通預金口座の3つの主要なカテゴリーに大別されるが、商品の数の多さは、今日の銀行サービスがいかに多くの方法や形態で提供されているかを如実に物語っている(例えばクレジットを例にとると、さまざまな種類のカード、店頭販売のペイレイター商品、ストレートローンなどを介してサービスを利用できる)。また、独自の商品に加え、TransferWise(トランスファーワイズ)のようなサードパーティーの金融サービスへのリンク、セキュリティなどの追加サービス(銀行のプラットフォームとしては当然のことだろうが)、「プロセスオーケストレーション」(ビジネスプロセス管理ツールの提供に等しい)のためのプラットフォームも提供している。
Gartner(ガートナー)の推計(マンブーが引用)によると、銀行系ソフトウェア市場の規模は1000億ドル(約10兆4000億円)を超え、2桁台の成長率で拡大している。マンブーの顧客リストを見ると、最近そのシェアの一部を争っている企業の顔ぶれが見えてくる。N26やOakNorth(オークノース)のようなチャレンジャー銀行だけでなく、Santander(サンタンデール)やABN Amro(エービーエヌアムロ)のような大手の既存銀行、Orange(オレンジ)のような通信事業者も含まれており、これらを合わせて約2000万人の顧客と約120億ドル(1兆2500億円)が管理下にあるとマンブーは述べている。
そして当然のことながら、大きな好機があるということは、マンブーのような企業にとって競合他社の数も増加していることを意味している。Rapyd(ラピッド)やUnit(ユニット)のような新しい企業だけでなく、昨年大規模な資金調達を行ったThought Machine(ソートマシン)、Temenos(テメノス)、イタリアのEdera(エデラ)などがそうだ。SaaS銀行プラットフォームの分野に新規参入した企業が、事実上「既存」となった企業とどのように対峙していくのか、興味深いところだ。2011年に創立したマンブーは設立から10年を迎えようとしている。こうした動きは統合につながる可能性もある。
顧客リストに立ち戻ると、通信会社やネオバンクのような実際には金融サービス事業を行っていない企業が、APIベースのサービスを銀行業務に活用するというロジックが理解できる。そうした企業は金融サービス自体を提供する代わりに、金融サービスを提供するための質の高いアルゴリズムと、金融サービスを使いやすくするための高速なインターフェースを構築することに重点を置いている。この顧客リストに大手銀行も載っていたことは興味深い。その理由は、大手銀行も新興勢力に対して対抗策を練っているということだ。
「確かに、銀行は機能と能力を持っているが、新しいことを立ち上げるには、スピードやコストが問題となることが多い」とダニルキス氏は言う。「第2世代のシステムを持っている銀行もあるかもしれないが、多くはもっと古いシステムだろう。そして、金融商品の動作を変更することは、小さな変更でも問題が起きる可能性があるため、非常に困難でありリスクが高い。また、APIを使って動作するように設計されていないシステムを、他のシステムに接続することは不可能ではないにしても非常に困難であり、リアルタイムでの接続などは到底無理だ。特定のソリューションやサービスを、独自に構築することは不可能であるか、現実的ではない」。
TCVのパートナーであるJohn Doran(ジョン・ドラン)氏は、今回のラウンドでマンブーの取締役会に参加している。またマンブーは、一部の人からは既存の企業と見られているかもしれないが、その早期参入者としての立場を活かしてマーケットシェアを獲得しただけでなく、投資家の間でも持続力のある企業の1つとして注目を集めている。
「マンブーは、銀行のソフトウェアをクラウドに移行する機会をいち早く活用した企業の1つだ」とドラン氏は声明の中で述べ、次のように続けている。「従来、市場は大規模で動きの鈍いオンプレミスのベンダーに支配されてきたが、マンブーのチームは、数十億ドル規模で急速に成長しているこの市場において、高度に構成可能で完全にクラウドネイティブな製品を構築した。長年にわたってマンブーの発展を見守ってきたが、ユジーン氏とマンブーのチーム全員が世界中の顧客にサービスを拡大するための過程でパートナーを組むことができたことを本当に嬉しく思っている」。
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カテゴリー:フィンテック
タグ:SaaS 資金調達
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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Dragonfly)