George Floyd(ジョージ・フロイド)氏の死と世界中の抗議運動は、米国における警察の役割を巡る大きな議論を呼び覚ました。米国時間6月7日、フロイド氏の地元ミネアポリス市は、市議会の拒否権に対抗できる過半数決議によって市警察の解体計画を発表した。
さまざまな要素が警察の行動に対する一部市民の懸念を高めさせている中、全米の都市で軍隊的存在が映し出された画像が絶え間なく流れてくる。抗議運動中ののミネアポリスやシアトルなどの都市では、MRAP(耐地雷・伏撃防護車両)が主役の座を占めている。
MRAPは、軽量の戦闘用車両でIED(簡易爆破装置)による攻撃に対処するために作られた。イラク戦争向けに設計されたこの車両は、装甲型ハンビー(高機動多目的装輪車)に似ていて、米国の道路で警察が抗議する人々衝突する前を、揃って走行していた様子は記憶に残る映像だ。
このMRAPは、1033プログラムを通じて警察の所有となった数あるお下がり軍用備品のひとつにすぎない。1997年にクリントン政権下で可決された国防権限法の一部として制定された同プログラムは(法案の第1033項に掲載されていた)、戦闘用軍装備品が警察機関の手に渡る主要な手段となっている。
プログラムはその目的に対して大成功を収め、大都市から小さな町にいたるまでが利用した。著書「Rise of the Warrior Cop : The Militarization of America’s Police Forces(警官戦士の誕生:米警察の軍隊化)」の中でRadley Balko(ラドリー・バルコ)氏は、同プログラムによって340万件の注文が、全50州で1万1000カ所の警察機関に届けられた。バルコ氏の本が出版された1年後、警察官だったDarren Wilson(ダレル・ウィルソン)氏がMichael Brown Jr. (マイケル・ブラウン・ジュニア)氏を銃撃した後、ミズーリ州ファーガソン市は国民の注目の的となり、1033プログラムは国中の監視にさらされることとなった。
「それらの軍装備品に、国の薬物監視予算と財産没収予算が加わったことで、SWATチームが欲しい警察署長は誰でも手に入れて予算をつけられるようになった」とバルコ氏は書いた。「トレンドはもっと小さな町にも広がった。2000年代中頃までに、SWATはペンシルベニア州ミドルバーグ(人口1363人)、フロリダ州リースバーグ(人口1万7000人)、オハイオ州マウント・オラブ(人口2701人)、ウィスコンシン州ニーナー(人口2万4507人)、マサチューセッツ州ハーウィッチ(人口1万1000人)、ミズーリ州バトラー(人口4201人)などの街にもやってきた。
数カ月前、ACLU(米国自由人権協会)は警察の軍事化に関する膨大なレポートである「War Comes Home(戦争が街にやってくる)」を出した。26州およびワシントンDCの警察機関に請求した公文書に基づくこのレポートで、1033は調査の中心的役割を果たした。ACLUはアリゾナ州だけで対爆スーツ32着、銃1034丁、多目的トラック120台、装甲車64台、ヘリコプター3機などを格納した倉庫を見つけた。
1990年代末以降、同プログラムによって74億ドル(約8000億円)の武器その他ペンタゴン備品が警察の手に渡った(WIRED記事)。プログラムは当然のことながら政治家たちの監視にされた。6月3日抗議運動の最中、少数派院内総務のChuck Schumer(チャック・シューマー)上院議員宛てに書かれた書簡でBernie Sanders(バーニー・サンダース)上院議員は、「攻撃用軍事物資の警察署への移管」禁止を訴えた(Twitter投稿)。
実は、同プログラムに対する批判は超党派的行動だ。2014年にTime誌の論説記事で、ケンタッキー州選出のRand Paul(ランド・ポール)上院議員は「この警察の軍事化と市民権の崩壊が組み合わさったとき、【略】私たちは極めて深刻な問題を抱えることになる」と書いている(TIME記事)。
2020年6月8日、下院民主党議員らは警察の不法行為の透明性を高めることを目的とした法案を提出した。ニューヨーク州議会は別に独自の法案を発表した。いずれもミネアポリスほど踏み込んではいないものの、多くの人々が米国警察の劇的な改革に関心をもっていることは明らかだ。25年近く前に制定された1033に対する長年の注目を踏まえると、このプログラムがこうした変革の格好の標的になることは間違いない。
[原文へ]
(翻訳:Nob Takahashi / facebook )