電子回路を印刷により製造する技術、「プリンテッド・エレクトロニクス」。コストや柔軟性の面で従来の製造方法よりも優れているとされ、今後スマートホームをはじめとしたIoTプロダクトやウェアラブル端末が普及することからも、注目を集めている技術だ。
スタートアップながらその領域に挑んでいるAgICについては、これまでもTechCrunchで何度か紹介してきた(同社は「TechCrunch Tokyo 2014」のスタートアップバトルで優勝したチームだ)。2016年の2月には接着剤メーカーとしておなじみのセメダインから出資を受け、導電性の接着材の研究に踏み込むなどユニークな動きをしていた同社だが、今回新たな製品の一般受注を始める。
AgICは5月22日、印刷技術と銅めっき技術を組み合わせた高性能のフレキシブル基板を、従来の5分の1のコストで試作できるサービス「AgICオンデマンドAP-2」を公開した。
今まで提供していた製品は、安かろう悪かろうの部分があった
同社ではこれまでインクジェット印刷技術を用いたフレキシブル基板(曲げられる電子基板)の製造技術を開発してきた。既存の一般的な基板に比べて製造プロセスが簡単なため開発サイクルを早められるメリットがある一方で、「抵抗値が高く、半田付けができない」という課題があったとAgIC代表取締役の清水信哉氏は話す。
「抵抗値が高いというのは、簡単に言うと電流が流れにくいということ。一般的な製品に比べ200〜300倍ほど抵抗値が高かったので、それを前提に設計する必要があり使い勝手に課題があった」(清水氏)
その課題を解決するため、印刷した金属パターンの上にめっき技術を用いて銅を成長させることで、配線部分を厚くした。結果として既存のフレキシブル基板と比べても遜色のない抵抗値を実現し、半田付けも可能とする技術の実現に至ったそうだ。
「今までの製品は価格や工数といったコストが抑えられるメリットがある一方で、使いやすさには課題があり、安かろう悪かろうの部分もあった。今回の製品では課題の部分が既存の製品に近いレベルになったので、一般的な設計のまま基板を置き換えれる」(清水氏)
価格は180x270mmのサイズが1枚1万円、3枚2万円となっており、AgICによるとこれは既存サービスの5分の1程度だそうだ。納期も発送までを3日とすることで、顧客メーカーは従来よりも開発サイクルを早めることができる。
2017年に入ってから、ベータ版として非公開でこの新たな基板の製造サービスを展開。自動車メーカーやアンテナメーカー、医療機器メーカーなどが試作で継続的に利用していたが、今回製造設備の拡充とともに一般受注を開始した。
「従来は1度試作するのに10万円かかり、期間も2週間くらい必要というのが普通だった。試作の段階では設計ミスなどもあり、その度に多額の費用と時間がかかっていた。そのハードルを下げて気軽に注文できる点をメリットに感じていただいている」(清水氏)
いまや家電製品で入っていないものはないというほど、普及しているフレキシブル基板。今後は特に業界を絞らず、まずは「試作」段階での利用ニーズを押さえにいくが、その後は「本製品の量産」段階での利用も視野に入れていくという。