ドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」に登場した、靴を愛する主人公キャリー・ブラッドショーが、フットウェア(履物)のベンチャーキャピタリストでなかったことは喜ぶべきことだ。このテレビの登場人物が愛した、価格も高く、きわめて歩きにくい、ハイヒールという代物は、現在の靴スタートアップの世界ではもっとも資金を集めにくいコンセプトだからだ。
フットウェアの世界に少しでも触れてみると分かるが、ベンチャー投資家たちが重きを置いているのは快適さである。
少なくとも、それが最近の資金調達事情が示すものだ。Crunchbaseのデータ分析によれば、過去1年半の間に投資家たちは、靴関連のスタートアップに約1億7000万ドルをつぎ込んでいる。その大部分が、人びとが実際に歩くために使いたいと思うフットウェアの、売り手やデザイナーたちに向かっている。
多くの資金を集める企業のスタイルは様々だ。中古スニーカーの取引市場からハイエンドデザイナー、そして幼児用のプレイシューズまであらゆるものが揃っている。スタートアップたちはまた、あまり使われていない素材を使った実験も行っている。使用済みペットボトルや、メリノーウールやその他の材料を、品の良い履物へと仕上げるのだ。
以下では、スタートアップたちが市場に入り込むために、マーケットトレンドをどのように活用しているのかを見ていこう。
成長するマーケット
最近のフットウェア業界の資金調達活動は、業界におけるいくつかの前向きな展開の結果であることに留意すべきだ。
まず何よりも、これは巨大で成長している業界だ。最近のある報告によれば、世界のフットウェアマーケットは2017年に2460億ドルに達し、年間成長率は約4.5%となっている。
第2に、株式市場が強い。世界で最も評価額の高いフットウェア会社ナイキの株式は、過去9ヶ月間に50%以上値上がりし、時価総額は1300億ドルに達している。アディダスを含む、より小さいライバルたちの株式も好調だった。
第3に、男性たちがフットウェアに費やす金額が増えている。彼らは長い間、靴購入に関しては消極的なジェンダーであると分類されてきたが、男性たちはより多くの金をフットウェアにつぎ込むようになり、女性との支出ギャップは埋まりつつある。
スニーカーの隆盛
男性ならびに女性の両者が、スニーカーへより多くのお金を使うようになっていて、ベンチャーキャピタリストたちの注目を集めている。スニーカーやスニーカー関連のビジネスは、よりカジュアルでスポーティなスタイルを求める消費者が増える中、フットウェアスタートアップ資金の大半を占めている。
そのイノベーションの大部分は、高価で高性能な靴の販売とデザインに由来する。例えば、最近の数ヶ月で最大のフットウェア中心のラウンドは、GOATを対象にしたものだ。GOATはレアでハイエンドな靴に特化した、オンラインスニーカー市場の運営業者である。創業3年目を迎えたロサンゼルスを拠点とする同社は、この2月にシリーズCで6000万ドルを調達した。
最近資金調達を行った他のスニーカー企業には、オークションスタイルをとるGOATの競合相手のStockX、ストリートウェアの小売業者Stadium Goods、そして子供向けの高性能運動靴を作るSuper Heroicなどがある。
スニーカーの資金調達のスパイクが、業界の成長傾向のど真ん中に出現している。前述したように、その多くは男性によってドライブされている。しかし、アナリストの指摘する、また別の強気なスニーカートレンドの1つは、女性の購買習慣の変化だ。おそらく、痛みを伴わずに数ブロック以上を歩きたいという希望から、私たちはハイヒールをやめて、より多くのスニーカーを買うようになっているのだ。
スタイリッシュで環境にやさしく
より快適なフットウェアへの需要は、より多くのスニーカー販売につながっているだけではない。ベンチャー投資家は、他の快適な靴のスタートアップ、中でも特に環境にやさしいオプションを持つ企業にも、潜在的な可能性を見出している。
この領域に属するのがAllbirdsだ。メリノーウールによるカジュアルなスタイルの靴を作るこの企業は、これまでに2700万ドル以上を調達している。その一方で、リサイクルされたペットボトルから靴を作り出し、それを約125ドルで販売するRothy’sは、700万ドルを調達した。
スリッパもまた、資金の集まる場所だ。昨年の秋に行われたBirdiesに対する200万ドルのシードラウンドがその証拠である。この企業は、家の中はスリッパで歩き回りたいが、ダサいスリッパはごめんだ、という人たちのためのフットウェアメーカーである。
そして前述したように、最近はハイヒールにフォーカスしたスタートアップが多くの資金を調達しているようには見えない。しかし、様々な高さのヒールを提供するデザイナーたちは、それでもまだ大きなラウンドを獲得できているようだ。このカテゴリに含まれる企業の例がTamara Mellonだ、この創業2年のブランドは、フラットからスパイクヒールまでの全範囲をカバーするシューズデザインポートフォリオへ拡大するために、4000万ドル以上を調達した。
しかし、それで儲かるのだろうか?
最近の事例をみる限り、靴のスタートアップでよいエグジットを行うことは可能のようだ。だがもちろん、倒産したり停滞することもあり得る。
近年みられた顕著な倒産劇は、バンクーバーを拠点としていたShoes.comだ。昨年閉鎖されたこのオンライン靴小売業者は、残念な販売実績のために倒産に追い込まれたのだ。
現代の消費者たちが望むようなものを、提供できないことに気付いたものたちもいる。ごく最近では、これまでに2500万ドル以上を調達した、女性向けオーダーメイドシューズのスタートアップShoes of Preyが、事業継続のためにつなぎの資金調達を行った。数年前には、有名人たちの支援を受け、6000万ドル以上を調達した靴サブスクリプションサービスのShoeDazzleが、急激な値下がりと共に売却された。
一方3Dプリンティングとスキャニング技術の開発者たちは、M&Aのペースをさらに高めている。この 4月にはナイキは、3Dフットスキャンに特化したシードレベルスタートアップのInvertexを買収した。また昨年、治療用フットウェアでのリーディングカンパニーであるAetrex Worldwideは、3Dプリントによるカスタム医療装具と靴の中敷きのメーカーであるSols(ベンチャー資金を受けている)を買収した。
確かに、キャリー・ブラッドショーがカスタム医療装具に大金を払うエピソードを想像するのは難しい。しかしスタートアップ資金調達における、エグジット駆動の世界では、マノロ・ブラニク(高級シューズブランド)が退場し、スニーカーと中敷きが持ち上げられることは明らかなようだ。
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(翻訳:sako)