【編集部注】Christoph Auer-Welsbachは、人工知能、ブロックチェーン、IoT、そしてWeb/モバイルの分野で活躍する、経験豊富な創業者、投資家、プロダクトマネージャーである。彼はグローバル応用AIコミュニティであるCity.AIの共同設立者である。
今年、人工知能は私たちの仕事の仕方を変え、デジタル資産を保護し、コラボレーションを増し、AIによるイノベーションの新しい時代を導くことによって、企業をさらに高い次元へと連れて行くだろう。エンタープライズAIは、誇大宣言の段階を超えて急速に現実的なものに移行しつつあり、最も重要な技術分野の1つになっている。既にスタートアップたちは、業界を再定義するAIのパワーに気が付いているが、従来企業の幹部たちはいまだに、AIが全社を横断してどのようにビジネスを転換し、チームを変容させていくのかを理解しようとしている最中だ。
過去1年間に、早期の適用を行ってきた、あらゆる規模のビジネスと業界は、徐々にその恩恵を享受し始めている。AI機能を備えたアプリケーションは、企業たちに、顧客やセグメント化された市場、見込み客たち、そして影響力のあるインフルエンサーたちとの関わり方を変える機会を提供しているのだ。企業たちはいまや更なるステップを踏み出そうとしているところだ、なぜなら、これまで蓄積された知識とツールが、その組織全体の中におけるAIの可能性を活用させるからだ。
「新しいハードウェアアーキテクチャによって実現された、AIの新たなブレークスルーによって、企業向けの新しいインテリジェントなビジネスモデルが生み出されています」と語るのは、英国のGraphcoreの共同創業者兼CEOであるNigel Toonだ。「最初の知識モデルを構築して、最初のインテリジェントなサービスや製品を立ち上げた企業は、その最初のプロダクトを利用して新しいデータを獲得することで、知識モデルを継続的に改善していくことが可能となり、競合他社が追いつくことに苦労するような、業界最高のプロダクトやサービスを素早く構築していくことでしょう」。
このカテゴリは進化しており、大企業たちは、イノベーションに向けた独自の方法を模索している最中だ。彼らは何十年にも及ぶ業界経験を活用することにより、それぞれの業界に特化した汎用AIを開発することができる。例えばヘルスケア、金融サービス、自動車、小売などといった分野がその対象だ。しかし、これらを実装するためには、グローバル組織の重要なIT要件を満たすための、業界に対する深い経験と、業界特有のデザイン、トレーニング、モニタリング、セキュリティなどが必要となる。
「2018年のうちには、AIは企業に入り込んでくるでしょう。私は、多くの企業がAI技術を採用すると考えていますが、企業の戦略的ビジネスゴールにAIを合わせることのできる経営者はほとんど存在していません」と語るのは、ボストン・コンサルティング・グループのGamma Artificial Intelligence部門の副社長のRonny Fehlingである。
2018:AIによる勝者と敗者の分離が明確化し始める
初期の産業的な成功(および失敗)は、AIへと向かう必然性を証明した。しかしまた同時に広範な採用は、徐々に進行する形でしか行われないという事実も明らかになった。今年私たちが目にするものは、AIが製品やビジネスの機能に影響を与える段階から、組織全体のAI戦略に移り変わっていく様子となる。そこでは勝者たちが、既存のあるいは独自のAIを使った構築を行うために、速やかに行動し、機敏性を発揮することになる。
AIタレント戦争で勝利した企業は、その分野での急成長を遂げることで、指数関数的に優位性を獲得するだろう。
ドイツを拠点とするAragoの創業者兼CEOであるHans-Christian Boosは、次のように付け加える「全体として見れば、2018年は、企業ならびに既存の経済全体にわたって、明暗の分かれる年になるでしょう。私はAIだけが、従来から存在してきた企業たちが、イノベーション、新しいビジネスモデル、デジタルディスラプションへ向かうための唯一の道だと考えています。汎用AIは、こうした企業たちが持つ唯一の強み(経験の蓄積)を活かすための力になってくれるでしょう。戦う相手は新しいビジネスモデルや、シリコンバレーの巨人たち、あるいは知識ベースのビジネスモデルをもつ新しい世代の巨人たちなのです」。
AIタレント獲得競争
エンタープライズAIの流行は、タレントのさらなる不足を招くことになる。電気通信、金融サービス、製造業などが特に、タレントの逼迫を感じている業界だ。AIタレント戦争で勝利した企業は、その分野での急成長を遂げることで、指数関数的に優位性を獲得するだろう。
このため企業たちは、強力なビジョン、製品の成功実績、初期のクライアントの実験実装、大衆に影響を与える可能性などを示すことで、タレントを引き付けようとしている。それは、顧客たちのための新しい基盤となる、高機能で信頼性の高いソリューションを開発することに他ならない。
しかし、開発者やサイエンティストたちの採用は、単なる始まりに過ぎない。勝ち抜く企業は、AIを理解する新世代の製品管理者、販売、マーケティング、コミュニケーション、およびその他のチームを引き付けるような組織構造を採用する必要がある。このためには、情報と熱意に満ちた先見的な専門家グループが必要となる。これらの専門家は、AIによって強化される将来の仕事と顧客との関わり方を、顧客が理解することを助ける。
AIの採用と従業員教育
大部分が新しいAI機能によって強化されることになるデジタルトランスフォーメーションは、企業に対して、どのようにデータを抽出し、データ駆動の情報を活用すれば良いかを理解することを迫る。データは、AIアプリケーションの価値を最大化するための最大の資産であり、必要不可欠な要素の1つだが、それにも関わらずデータはしばしば十分に活用されず誤解されている。経営幹部たちは、組織を横断してチームを確立し個人を確保して、既存の内部そして外部のデータから最大の価値を抽出するデジタルツールに対する、確実な結果と継続的実装に、責任を持たせるようにしなければならない。
AIネイティブの組織に変身するためには、すべてのレベルで、従業員を雇用し、訓練し、再スキル化を行う必要がある。そして個々人に対して、そのパフォーマンスを強化するためのAI活用センスを身につけるための、リソースを提供しなければならない。上から下までのほとんどの従業員たちに、新しいデジタルツール(しばしばAIによって強化されている)を取り込むことによって、自身の役割を再考させ進化させるように奨励すべきである。
AIならびにその他のデジタルテクノロジーは、アプリケーションレイヤーだけではなく、全てのビジネス分野により浸透していくだろう。英国を拠点とするProwler.ioの共同創業者兼CEOであるVishal Chatrathは以下のように強調する。「企業における意思決定は、時代遅れのエキスパートシステムによって支配されています。一方現在手に入るAIツールは、ディープニューラルネットワークに依存しています。これは分類問題(猫、犬、単語などの同定)を解くには素晴らしいものですが、大規模で、複雑で、動的な環境における意思決定にはあまり向いていないのです。なぜならニューラルネットワークはデータ効率が悪く(数百万ものデータが必要)、実質的にブラックボックスとして動作するからです。2018年には私たちは、エンタープライズAIが分類問題を超えて、意思決定問題に向かうところをみることになるでしょう」。
次は何か?
しかし、企業がデータを中心に部門やワークフロー全体を調整するにつれて、データガバナンスに注目が集まりつつある。企業が顧客のデータをどのように使用しているかについて、消費者と企業がより深く関心を深めていく中で、データ管理と整合性は成功のための必須要素となる。これにより、多くのチャンスが開かれるが、信頼性を担保するためには、企業たちが顧客のデータをどのように使い、共有し、アプリケーションを構築しているのかに対する透明性も求められる。
「いずれの業界も数年のうちにAIによって強化されることになるでしょう。ここ数年、標準化されたデータを収集するための多くの基盤研究が行われました。そしていまや、企業に大いなる効率性と品質向上をもたらす、先進的なAI技術を使い始められるところに来たのです」と語るのは、ドイツの研究所でありベンチャー支援機関でもあるMetantixの、共同創業者兼CTOであるRasmus Rotheである。「よって企業は、AIはがどのように自分たちを改善してくれるのかを理解するために、自身のビジネス単位を徹底的に分析する必要があります。自分ですべてを構築しようとするのではなく、外部のAI専門家と提携することは、しばしばよりコストパフォーマンスが良く、より優れた成果をもたらします」。
AIネイティブ企業への移行は、決定的な段階にある。AI対応市場のパイは成長し続け、誰もがその一切れを手にする機会が与えられている。データが商品価値をもつときには、AIアルゴリズム自身の価値が大きくなる。そのとき企業たちは、素早く自分たちの資産を活用し、そのデータから価値を抽出しなければならない。疑問は、誰が最初に動くのか、そして最も貪欲なのは誰なのかということだ。
[原文へ]
(翻訳:sako)
画像クレジット:NicoElNino / Getty Images