編集部記:Dror BermanとSamantha Waiは、Crunch Networkのコントリビューターである。Dror Bermanは Innovation Endeavorsのファウンダーでマネージングパートナーである。Samantha Waiは、Innovation EndeavorsのInnovation Labs Teamに務めている。
投資家である私たちの仕事は将来を夢見るビジョナリーを見つけ出し、パートナーとして彼らの夢を現実の物とする手助けをすることだ。
農業に関しては、テクノロジーの進化を持ってすれば小型の収穫ロボット、各都市での高層ビル型の農場の建設、センサーを設置した農地をドローンで管理することができるのではないかと想像を巡らせてきた。
このような農業の将来を想像することはとても楽しいことだが、私たちは現実味のある農業の将来像を求めている。そこで、農業の本当の課題を理解するために問題を深堀りし、課題をチャンスへと変える10の方法を考えた。
コストの増加
経済的な面から見ると、農業は次第に高額なものになっている。農地への投入物(種、肥料や農薬を含め)はアイオワ州のトウモロコシ生産にかかる合計コストの38%を占めている。また、苺の生産コストの30%以上は人件費だ。除草剤耐性、種の価格変動と農地での労働力となる人材コストの増加により状況は悪化している。
経済的なコストは警戒すべき割合で上昇し続けているが、環境コストは更に急激に上昇している。水質汚染、藻の繁殖、バクテリアの耐性は、長期に渡って環境の健全性に影響を与えるだろう。農業が関係する温室効果ガスの排出は1990年から17%も上昇し、その主な原因は家畜の肥料の管理システムと土壌管理の方法にある。
農業はこのようなコストを維持することはできない。私たちは次のことを行っていくべきだろう。
- 農業における家畜や農作物の生産過程での環境への負荷(フットプリント)を減らすこと
- データを活用して生産サイクルをより良く管理すること(植え付け、農薬などの投入方法、収穫など)
- 植え付け、農薬などの投入方法、収穫のプロセスを自動化し、既存のリソースをより効果的に活用すること
コストの上昇の問題に対応する、特にタイムリーなテクノロジーの進化がいくつかある。主にセンサーの低価格化、コンピューターの処理能力の向上、そして機械学習の技術の進化だ。より多くのデータを取得したり、盤石な分析を行ったり、施策を正確に実践できる能力が高まったりすることは全て、投入物の削減や生産サイクルの効率的な管理、そしてコストのかかるプロセスの自動化につながる。
Blue River Technologyの先進的な技術は素晴らしい例だ。同社はコンピュータービジョンと機械学習を活用して「全ての植物を大切にする」未来を描いている。Blue RiverのLettuce Botは目を見張るハードウェアだ。このロボットの機械的なエンジニアリングはありふれたものではない。ロボットを農地の中に入れ、大型のトラクターで引っ張るのだ。そうすると、ロボットはリアルタイムに一つづつの作物を撮影し、データ処理を行うことで、それぞれの作物の特徴を捉えることができる。そしてアルゴリズムを活用して、その作物のどの部分を残し、どの部分が不必要で刈り取るべきかを判断する。
更にZeaのプロダクトは高い情報処理力を持ち、農作物の表現型検査を可能とする。コンピュータービジョンを利用することで、Zeaは画像から作物の数量を産出したり、作物の間隔を計測したり、農作物の高さの分布を調べたり、重要な物理的特徴を計測したりすることができる。私たち考える中でこれが最も精巧な機械学習の技術だ。
データのコンピューター処理と収集技術が発展することにより、農地はシリコンバレーのテクノロジー企業と同じように効率的に運用することができるようになる。正確なデータドリブンの意思決定と自動化が可能となるのだ。
CropX は3つのシンプルな低価格の土壌センサーでデータを収集し、アルゴリズム処理のためにクラウドで分析を行い、実用的な灌漑用の地図を作成する。この地図で農家は水が土地のどこを流れているかを把握することができる。たった3つのシンプルなセンサーが集積したデータから、このような正確な地図が作れるのは画期的なことだ。CropXのシステムは灌漑システムと連携し、農家にエンドツーエンドのソリューションを提供する。
Blue RiverとCropXは、正確な農業データの収集と管理で市場のチャンスに挑んでいる、数あるスタートアップの内の二社だ。他にはGranular、OnFarm、TerrAvionなどがあり、IoTやリモートセンサーを駆使して農業をより効率的で効果的なものにしようとしている。
生産量を保証できない
気候変動が現実に起きていることに議論の余地はない。農地の産出量の確実性は弱まるばかりで、作物は雑草や病気の影響も受けやすくなり、気候を予測することも難しくなってきている。これは、アメリカにおける農作物の多様化の問題を更に深刻なものとするだろう。アメリカの食料生産の70%以上である1000億ドルをトウモロコシと大豆だけで占めている。
さらに、米国農務省のNational Agriculture Statistics(全米農業統計)によるとアメリカにおける全農業生産の44%がセントルイスから半径500マイル内(およそ804km)に集中しているという。また、市場に卸せる形質の作物を育てるためのコストが高いという理由で、多くの種類の作物が育てられていない。(この業界は、承認される作物を育てるまで、 研究開発コストに1億3600万ドルをかけている。)「多様化」は簡単なことではないが、必要なことだ。
確実性に関するリスクヘッジを行うために私たちがすべきことは以下の通りだ。
- 広い範囲に適応することを念頭に、作物の生産量と密接に関わる土壌の健康状態と配分を理解する方法を見つけること
- どの作物をどのように育てるかという判断を最適化するために、種のパフォーマンスが明確に分かるようにすること
- 市場に浸透する、新しい種子、形質の作物、統括的なソリューションを提供するための安価で時間のかからない研究開発方法を探すこと
- 毎年無駄になる13億トンの食料を削減する方法や再利用する方法を検討すること
既存の農業における生産量の確実性を高めるためには、遺伝子と土壌が起点となる。ゲノム配列の特定コストは下がり、多くの可能性が開かれた。それにより種子の交配や植物の形質の発見、そして土壌の理解につながるだろう。
遺伝子組み替え細菌もこの確実性の問題と課題を解決するための基盤となるテクノロジーの一つだ。 Zymergen は微生物科学とコンピューター処理と自動化テクノロジーを組み合わせている。
彼らのテクノロジーは新種の微生物菌株を開発するプロセスの各工程を正確に計測し、データから学んでいる。そこから、これまでにないスケールや時間で微生物菌株を生産するプロセスを構築している。同社は微生物菌株を開発するプロセスの向上のためにデータを分析し、プロセスの各手順の自動化も行っている。今後、更に微生物菌株の生産コストが低減することが期待できる。
土壌と混ぜあわせた低価格な遺伝子組み換え細菌を実現することで、土壌の健全性と配分を劇的に改善できる可能性が見えてくる。
バイオテクノロジーを応用する画期的なスタートアップにはForrest Innovations(RNAiテクノロジーを利用)や Sample6(合成生物学を基盤とするテクノロジーを利用)などがある。
需要の変化
供給側の課題と共に、需要側も変化している。オーガニック市場は2014年に11.3%成長し、今後も成長することが予想される。遺伝子組み換え作物に関する議論は、食料生産に対するコンシューマーの関心を惹き付けた。風向きが変わってきている。安全性、トレーサビリティ、そして環境への影響に関する法規制はより厳しくなっている。(例えば、最近アイオワ州の郡政委員会に対する訴訟があった。)
コンシューマーの関心の変化と法規制の強化は、私たちに次のことを行うよう促している。
- 生産システムに負荷をかけない方法で健康志向のコンシューマー向けの食料の選択肢を増やすこと
- 雑草、病、有害生物を防ぐための化学品の量を減らす方法を検討すること(利用方法を最適化する、あるいはオーガニックな方法を開発する)
- 生産チェーンの全工程において食品の安全性とトレーサビリティを確保できる経済的な方法を提供すること
計算生物学、細胞組織の組み換え、自動化といったテクノロジーは、需要トレンドの変化に対応するのに大きな役割を担うだろう。Modern Meadowを例に取ると、彼らは、「バイオファブリケーション」と呼ばれる細胞組織の組み換え技術を活用して、動物性組織に代わるものを製作している(主に皮革)。
動物性の生体組織を取り、ペトリ皿で皮革を培養することができるようになった。細胞を30日ほどかけて培養する。奇妙に感じるだろうが、バイオファブリケーションで肉を作るということはもはや不可能ではないということだ。コンシューマーが環境に意識を向け、化学薬品に気を配るほど、これまでの肉の生産方法とは別の選択肢を見つけることが重要になるだろう。
動物性のタンパク質を代替しようとするスタートアップが複数誕生している。彼らは計算生物学や構成的生物学の領域のテクノロジーを駆使している。Impossible Foods、Clara Foods、Muufriがその一例だ。
更に食品の安全性とトレーサビリティの分野でも新しいテクノロジーが生まれている。血清型や病原体のファージ型の分類や細胞と核酸の分類といった動きがある(ゲノムの解読技術を応用している)。このような興味深い生物学の研究は、農業の分野にも応用できるようになるだろう。
そこから先は?
このような課題を検証すると、悲観的になる人もいるだろう。一方で、私たちはできることの多さにインスピレーションを受けている。他の問題を解決するために生まれたテクノロジーを再検討し、農業に応用することができるだろう。
テクノロジーが答えだ。ユビキトスなコンピューター技術の進化で、低価格のセンサーが誕生し、リアルタイムに農地から詳細なデータを取得することができるようになった。クラウドコンピューティングと機械学習により、大量のデータを用いて、その場で賢い意思決定を行い、収穫量を向上させ、コストを下げることができる。
そして遺伝子学の発展で、これまで使用していなかった種子を改善することで、既存の肥料や化学品による環境への影響を低減するような農業に適した農作物の生産につながるだろう。
センサー、データ、コンピューター処理、遺伝子学の発展は私たちを次の食料のフロンティアへと導く。米国農務省のTom Vilsackが言ったように「私たちは過去1万年で必要としていたより多くのイノベーションを次の30年で必要」としているのだ。
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