最近、日本のスタートアップの資金調達の金額感がぐっと上がっている。「10億円の調達でも驚かないよね」というのが最近の業界関係者の共通する声だ。実際、ジャパンベンチャーリサーチ(JVR)によれば、2013年の1社あたりの調達額(中央値)は5000万円で、前年の2000万円から2.5倍に拡大している。2013年から2014年前半に設立されたファンドが本数、規模ともに大幅に増えていることも、投資の大型化傾向を下支えしている。この夏に20億円規模の調達を予定しているスタートアップの噂も聞こえてきたりする。
そんな状況下、プレIPOであっても100億円規模の調達をするような例が出てくることが必要なのではないか。そんな問題意識を声にしたのがクラウドワークス代表の吉田浩一郎氏だ。
5月24日、北海道・札幌で開催中の「Infinity Venture Summit 2014 Spring」で「スタートアップのファイナンス戦略」と題したセッションが行われ、gumi、スマートエデュケーション、freee、メルカリの代表、取締役らが登壇し、自社の資金調達事情や今後の展望について語った。このセッションの中では、各社のこれまでの調達の苦労話や裏話、どういうタイミングで投資家向けに調達のストーリーを組み上げていくのか、何に資金を使うのかといったことが語られた。
この中で、上場前でも(あるいは上場で)100億円規模の調達を日本でも当たり前にしたいと語ったのが吉田氏だ。モデレーターを務めたUBS証券エグゼクティブディレクターの武田純人氏の問いかけ「もっとお金がほしいですか?」に答えた形だが、そこには自社の30年に及ぶビジョンと、社会のインフラとなり得るようなサービスを作ろうというケースで、日本にも長期的視点に立った大型の資金調達がもっと行われてしかるべきではないかという思いがあったようだ。
クラウドワークスは、すでにサイバーエージェント、DGインキュベーション、電通デジタル・ファンド、ITVなどから合計14億円を調達しているが、今後まだ調達したいかという問いに対して吉田氏は「100億円は最低と思っている」と即答。これは単に数字の桁が多いという話ではなく、むしろビジネスモデルを何年スパンで見るかという話だという。クラウドワークスというスタートアップで取り組むのは「人がオンラインで働くのが当たり前になる」というビジョン。個々の仕事の実績が可視化され、個人の能力に応じて仕事が回る世界だ。こうした時代がやって来るのに「まだ5年とか10年はかかるだろう」という。たとえば派遣業が定着するのに20年かかっていて、人の働き方が変わるのには長い時間がかかるからだ。
こうした中期的ビジョンを支えるのに100億円規模の資金を上場前に調達するようなことができれば、「日本のベンチャーは変わってくるだろう」。30年という中期スパンで世界を変えるようなベンチャー企業にガッツリ投資するという風に日本のスタートアップシーンはなっていない。吉田氏は「年内に30年計画を発表できればと思う」といい、「5年前まで10億円の調達なんてムリと言われたけど普通になった。日本市場で100億円を当たり前にしていかないといけない。率先して事例を作っていきたい」と話した。