2年ごしでコア再構築、プライベートブロックチェーンmijin v.2開発者向けプレビューを開始

テックビューロは、プライベートブロックチェーン製品mijinのコア部分を再構築した新バージョンmijin v.2の開発者向けプレビュー版をリリースした。大幅な設計変更により性能向上と機能追加を果たした。またコア部分は将来は仮想通貨NEMに取り入れる計画である。

公共分野を含め検証事例は多い

mijinは、テックビューロが開発し2015年9月に発表した。登場時期が早かったこともあり事例が多い。実証実験ではなく実稼働の事例としては日本ジビエ協会のジビエ食肉トレーサビリティ管理システムがある。電子マネーのサービスを提供するアララは、電子マネー分野での応用を想定した実証実験を行い、結果を報告書の形で公開している。公共分野ではベルギー アントワープ市で電子行政へ適用する実証実験があり、金融機関での事例としてはジャパンネット銀行での契約文書管理システム適用の実証実験がある。公表されていない取り組みも多数ある模様だ。

再設計で用途を広げる

mijin v.2(Catapult)では開発言語をJava言語からC++言語ヘ変更し、アーキテクチャも見直した。大幅な変更の設計理由として性能向上やIoT分野への適用可能性などを挙げている。

新たなコア機能のCatapultは2016年5月に発表している。この時点では「2016年夏に公開」としていたが、当初見通しより1年半後のプレビュー版公開となった。後述のように2016年12月にはCatapultによる性能評価結果を公開しているので、この時点では性能評価に耐えるだけの実装はすでに存在していたと考えられる。テックビューロは、完成度向上やテストに多くの時間を使ったと説明している。

mijin v.2の特徴は大きく3つ。(1)性能向上、(2) 新機能Multi-Level Multisignature、(3)新機能Aggregate Transactionsとなる。

mijin v.2の性能については具体的な数字は公表されていないが、その水準を推し量る材料はある。2016年12月20日、開発途上のCatapultを使い「平均3000件/秒、最高4142件/秒」との処理性能を実証したと発表している(プレスリリース)。今回の発表では具体的な性能評価の数字は挙げていないが、当時に比べさらに性能、完成度は向上しているとしている。

ブロックチェーンの性能評価は難しい課題だ。まずブロックチェーン技術は性能をトレードオフに耐改ざん性や可用性を追求した技術なので、遅いことも仕様の一つとの見方もできる。また稼働環境やアプリケーションを横並びに揃えたベンチマーク結果にはなかなかお目にかかれない。そのような前提付きではあるが、Catapultコアを搭載したmijinが2016年12月に記録した「秒間4000取引以上」の数字は良い数字といえる。例えば日本取引所グループが2016年8月に公表した報告書では、証券取引を想定した実証実験をHyperledger Fabric v0.6とEthereumを使って行った結果、スマートコントラクトの実行時間がボトルネックとなったこともあり毎秒数十~百件程度が上限だったとの結果を報告している(JPXワーキングペーパー)。2016年11月にデロイトトーマツグループが発表した報告書によれば、全銀システムの業務を想定してbitFlyerのプライベートブロックチェーン技術Miyabiを用いた実証実験で秒間1500取引の能力を確認している(関連記事報告書)。2017年3月のHyperledger Fabric v1.0の発表時に米IBMが挙げた性能の目安は「秒間1000取引以上」である(プレスリリース)。Catapult搭載のmijinが記録した数字は悪くない。

開発効率の良さをアピール

mijin v.2の新機能の一つMulti-Level Multisignatureとは、従来からあった機能を拡張し「複数の暗号鍵所有者が許可しない限り決済を実行しない」というマルチシグの決済機能を複数の階層(レベル)に分けて定義できる。例えば「不正検知システムによる審査を通過しなければ決済しない」階層を追加するなどの使い方が可能になる。

もう一つの新機能であるAggregate Transactionsでは、複数種類のトークン/デジタルアセット、複数の取引をまとめて処理できる。パブリックブロックチェーン分野で実装が進むアトミックスワップのmijin版ともいうべき内容だ。例えば「お互いを信用していない2者が安全に取引を実行する」エクスロー機能や、3者以上の当事者が第三者機関への信頼抜きに複数種類トークンの価値交換を同時に実行する機能を実現できる。ブロックチェーンの本来の機能といえる「第三者への信用を必要としない価値移転」を、より多様な組み合わせで実現する。

このような、Multi-Level Multisignature、Aggregate Transactions、それにマルチアセット(複数種類のトークンを定義する機能)を組み合わせた使い方をテックビューロは「スマートサイニングコントラクト」と呼んでいる。「メリットはシステムの開発効率が非常に良いこと。ほとんどの企業の意思決定プロセスを、スマートサイニングコントラクトにより実現できる」(テックビューロCEOの朝山貴生氏)。

独特のポジションの製品が共通の土俵に

ざっくり要約すると、mijinの設計は他のプライベートブロックチェーン製品とはかなり性格が異なる。オンチェーン、つまりブロックチェーン管理下のプログラム構築機能を特徴とするEthereumやHyperledger Fabricなどとは異なり、mijinは基本機能(マルチアセット、マルチシグ、Aggregate Transactions)をオフチェーンのプログラムと組み合わせる「スマートサイニングコントラクト」による開発効率の良さを特徴とする。コンセンサスアルゴリズムはPoS(Proof of Stake)を推奨しノード数が大きなシステムへの拡張可能性を手にしている(その分、ファイナリティを確保するにはZero Confirmationの活用のような工夫が必要ともいえる)。これに加えて仮想通貨NEMのパブリックブロックチェーンと共通の技術を使えることにより、プライベートブロックチェーンとパブリックブロックチェーンを連携したシステムへの発展可能性を持たせている。

プライベートブロックチェーン製品、あるいはDLT(分散型台帳技術)製品として話題になることが多いHyperledger Fabric、Corda、Quorumなどはいずれもオープンソースソフトウェアとして内容が公開されている。mijinは2015年9月発表とこれらの製品群より早い時期に登場しているが、オープンソースではなく商用製品として一部のユーザーだけがアクセスできた。そのため実際に試したことがある利用者と、それ以外の人々との間に情報格差があったことは否めない。

今回のmijin v.2は3月26日からアーリーアクセスプログラム参加者がSDKとAPIを試すことができ、4月には5月には誰でもアクセスできるオープンソース版が公開される予定である。mijinが他の製品群と共通の土俵に立つことで、プライベートブロックチェーン製品分野の知識の共有が進むことを期待したい。

最後に、気になっている読者もいることと思うがテックビューロは仮想通貨取引所Zaifの運営元でもある。この2018年1月26に発生したコインチェックからのNEM(XEM)大量盗難事件を受けて金融庁は仮想通貨取引所の監督を強化。この3月8日にはZaifのシステム障害や不正出金事案・不正取引事案への対処が不十分として同社も行政処分を受けた。同社は「深く反省」とのコメントを出している。ただし、Zaifとmijinは事業ドメインが異なりチームも顧客も違う点には注意したい。またNEM盗難事件に関してはテックビューロやNEM財団は警察の捜査協力などを理由に最近は発言を控えており今回の取材でも「コメントできない」とのことだった。盗難事件や規制強化は仮想通貨ビジネスにとって逆風に見えるかもしれないが、NEMの知名度を高めたこと、仮想通貨分野の健全化を促進する可能性があることは付け加えておきたい。そしてブロックチェーンのビジネスは、まだまだ始まったばかりだ。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。