3Dプリンティングは医療産業をディスラプトする――補装具カスタマイズから再生医療まで

〔編集部〕この記事の筆者はXponentialWorksのファウンダー、CEOのAvi Reichentalで、Dプリンティング・テクノロジーとその影響についてのエキスパート。

1983年に3Dプリンティングの父、Chuck Hallはきわめてシンプルでありながらきわめて革命的なものを作り出した。彼は世界で最初に目の洗浄用コップを3Dプリンターでプリントアウトした。

それは見たところごく平凡な小さい黒いカップに過ぎなかったが、このカップこそ来るべき革命を予告していた。今や3Dプリンターは医療とヘルスケアを根本的にディスラプトしつつある。

アメリカのヘルスケアのコストは天井知らずで高騰を続けている。政治による解決は望み薄だ。テクノロジーの革新以外に意味ある結果をもたらす可能性はない。ここでは3Dプリンティングがすでに起こしつつある革命の一端を紹介したい。

カスタム化補装具

私はよくAmanda Boxtelの例を話す。Amandaは下半身に麻痺があり、Ekso Bionicsのロボット・スーツを利用していた。Amandaは私に相談に来て「装着感が悪く困っている」と訴えた。このスーツは優れたデザインでAmandaにある程度の運動の自由を与えたものの、誰もが当然望むような自然な動作は不可能だった。

ソース:Scott Summit, Charles Engelbert Photography

通常の補装具は各種の現行デバイスと同様、大量生産品だ。これに対して3Dプリンティングによる補装具は個別のユーザーに合わせたカスタムメイドだ。われわれはAmandaの身体をデジタルスキャンし、カスタム化したロボットスーツの製作を目指した。これはテーラーメイドで背広を仕立てるのに似ている。これによりAmandの身体にミリ単位でフィットした軽量で装着感がいいロボットスーツを作ることができた。今ではAmandaはすっかりのスーツに慣れ、ハイヒールを履いて歩く練習をしている。

これと同様のテクノロジーが空気が流通し着用が快適な脊柱側彎用コルセットや義足、義手その他の補装具の製作に用いられている。

バイオプリンティング、ティシューエンジニアリング

外科医の Jason Chuenはオーストラリアの医学誌、Medical Journal of Australiaに掲載された記事で、再生医療においてブレークスルーが起きており、人から人への臓器移植を不要とする時代が近づいていると述べている。これがどのようなテクノロジーなのか簡単に説明しよう。

本質的にみれば、 3Dプリンティングはコンピューターによって薄膜を積層していくテクノロジーだ。現在プリンティングに用いられる素材はプラステイックや金属粉が多い。薄膜を積み重ねて最終的に、おもちゃ、サングラス、医療用コルセット等、所望の形状を得るわけだ。この3Dプリンティング・テクノロジーは医療プロパーの分野に応用されつつある。つまりプラステイックや金属粉の代わりに生体材料を用いることで「オーガノイド」と呼ぶ小さい臓器をプリントアウトできるようになってきた。これには幹細胞を用いて増殖された生体材料が用いられる。こうしたオーガノイドを人体に移植し、時間をかけて成長させることにより、たとえば本来の肝臓や腎臓の機能が失われたときに、その代替とすることができるようなるだろう。

3Dプリンティングによる火傷治療

メアリー・シェリーのSFの古典、『フランケンシュタイン』めいて聞こえるかもしれないが、皮膚の再生医療は、効果はもとより、コスト節約の面を考えてもきわめて大きなインパクトを与えるだろう。過去何世紀にもわたって、火傷によって損傷した皮膚に対する処置はきわめて限られた選択肢しかなかった。皮膚片移植は苦痛がひどく、審美的にも満足のいく結果は得られない。水治療法の効果は限定的だ。しかしスペインの研究者チームは3Dプリンティングによる治療法を開発している。コンピューターにより精密にコントロールして薄膜を積層していくテクノロジーは事実上あらゆる分野に適用可能だ。まだプロトタイプだが、3Dパイオプリンターは人間の皮膚を作出できると示されている。研究チームはヒト血漿と皮膚から抽出された各種物質を生体インクとしてわずか30分程度で100平方センチメートルの人工皮膚を作ることに成功した。このテクノロジーが患者にもたらす利益は計り知れない。

製薬産業

最後に3Dプリンティングは製薬産業にもディスラプトをもたらす可能性があることに触れておきたい。多種類の薬を処方されれば多数の錠剤、カプセルを毎日飲まなければならない。われわれの多くは毎日、毎週、何十錠もの薬を飲んでいる。しかも薬を飲む時間、回数はそれぞれ異なる。赤い錠剤を朝食後に2錠、夕食前に白いカプセルを1つ、といった具合だ。しかも薬を指示どおりにきちんと服用しているかどうかもチェックしなければならない。これらは非常に手間がかかり、患者に負担をかけるだけなく医療機関側のコストも膨大だ。

しかし3Dプリンティングで製造されるカプセルなら、その患者に合わせた複数の薬剤を含有するだけでなく、溶解して身体に吸収される時間も自由にコントロールできる。この「ポリピル」というコンセプトはすでに糖尿病患者に対して治験段階を迎えており、大きな成果が期待されている。

結論

The 医療産業における治療法、用いられるデバイス、作出される臓器は全体として3Dプリンティングの応用による革命前夜にあるといっていい。正確性、柔軟性、信頼性のアップに加えてコストの大幅削減が機体できる。われわれの健康を守り、回復するテクノロジーはまったく新しい段階へと進歩しつつある。これは万人にとって歓迎すべきトレンドだろう。

画像:belekekin / Getty Images

〔日本版〕Amanda BoxtelのTED講演。9分あたりからロボットスーツを着用してデモ。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

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TechCrunch Japan

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