編集部注:この記事は、過去に500 Startupsの6期生として500 Startupsのアクセラレータープログラムに参加し、現在はChatCenter iOを提供している高橋雄介氏による寄稿。
米国カルフォルニア州の時間で2016年5月13日、シリコンバレーの歴史を感じるコンピューターヒストリーミュージアムにて、500 Startupsの第16期生(Batch 16)のデモデーが開催された。余談だが僕がここで6期生のデモデーに登壇した2013年からわずか3年の間に、10回もの卒業生たちが巣立っていったことになる。
これは数字を見ても納得で、これまでに世界60カ国の1500社に投資を実施してきていることからも、時間の経過以上に活発に投資および育成を行ってきていることがよく分かる。これはVCとして世界中20カ国で128人のチームが25以上の言語を話しながら投資、育成事業をしている現状から可能になっているということだ。
今回ピッチを行った53社の中から興味深かった企業について、以下に紹介したい。
Bigfinite
Bigfiniteは、長年の製薬やバイオ企業とITコンサルティングの経験をも持つファウンダーたちによって創業された製薬およびバイオテック業界のためのIoTデバイスとデータ分析ツールを提供する。CEOのPepによれば、75%のデータが利用されずに放置されており、製薬業界にはシンプルなソリューションを提供するだけで改善できるスペースがたくさんあるという。6月に予定している公開の前にすでに13万ドルを売り上げている。チームは、2社のエクジット経験のあるメンバーによって創業され、PhD保有者も2人含まれている。
https://angel.co/bigfinite
http://www.bigfinite.com
Buildcon
Buildconは、建築プロジェクトのためにSlackとGoogle Analyticsのようなサービスを提供するSaaSツールだ。建築プロジェクトのマネジメント経験のあるファウンダーが、長年の経験からエクセルや紙で管理されていた煩雑な作業をシンプルなUXで効率的に管理できるようにした。建築業界のことがよくわかっている創業メンバーが、彼らでも使い易いようにシンプルで使い易いUXのツールを提供している。米国とEUだけで100万社以上の建築会社があり、非常に大きなバーティカル市場となっている。
https://angel.co/buildcon
http://www.buildcon.org
Faception
Faceptionは、イスラエル出身の会社で、顔の画像を分析してパーソナリティを予測するという技術を提供している。フィールドテストを実施し、500のポーカーのトーナメントで3分の2の勝者を顔認識から予測したり、2015年に起こったパリのテロについて11人のテロリスト中9人を識別できたという。チームは、これまでに6社を創業し、2回のエクジットを経験している連続起業家が、複数のPhD保有者とともに創業した専門チームであり、技術水準の高さからすでに75万ドルの受注を受けている。家庭や公的な場所でのセキュリティに使われている。
https://angel.co/faception
http://www.faception.com/
Romit
Romitは、マーチャントバンク向けの決済ソリューションを提供する。もともと世界初のBitcoinのATMを世界18カ国14通貨に対して提供していたチームが新たに決済事業を始めている。すでに28万回以上のトランザクションが行われ、月次で52%成長を続けている。Bitcoinのハードウェア事業を開始し、世界展開後、詐欺行為や不正取引等で事業停止までを経験したからこそ、不正取引を防止し、支払い拒否率を150倍にする新たなプロダクトに取り組めている。
https://angel.co/romithq
http://romit.io
INGU Solutions
INGU Solutionsは、石油などパイプラインの検査のためのハードウェアを提供する。ミシガン湖で石油が漏れた事故では10億ドルもの資金が使われているが、こういった事故を防ぐためのパイプラインの調査には大規模な機材を用いた調査が不可欠だった。これを卓球のボール程度のサイズのロボット(スターウォーズのBB-8のような)がパイプライン内を移動することで調査可能にする。20年以上の科学技術分野での経験を持つ物理学でのPhD保持者2人を含むチームで創業しており、200万マイルもあるパイプラインに関する市場だ。
https://angel.co/ingu-solutions
http://www.ingu-solutions.com
InDemand
InDemandはSMB(スモールビジネス)がUberのようにオンデマンド系のビジネスに参入するのを助けるためのプラットフォームだ。アメリカだけで1500万ものスモールビジネスがあると言われており、彼らは大手小売店やECサイトに押されて売り上げが苦しくなる傾向にあるが、地域で優れた製品を扱うSMBがオンラインで見つかりやすくなり、Uberを呼ぶくらいの優れた利便性で製品販売とデリバリーまでを支援するツールであり、米国のみならず日本でも大きなチャンスがあるのではないだろうか。創業者のAlexはY Combinatorのプログラムにも参加したことのある連続起業家だ。
http://tryindemand.com
https://angel.co/indemand
WorkGeneius
WorkGeneiusは、オンデマンド系の仕事についてのプラットフォームだ。UberやAirbnbといった新しいメディアの出現により、オンデマンドによる短時間の契約労働が新しい就労形態として根付きつつある状況に際して、職業のマッチングや、仕事の検索、スケジューリング等の就労管理のためのツールを提供しようというものだ。
http://www.workgeni.us
https://angel.co/workgeni-us
No more college students? (もうこれ以上は大学生はいない?)
ここまで読んできて、意外に「渋い」会社が多いと思った方も多いかと思う。そう、僕の経験でも、シリコンバレーの優れたスタートアップには経験の豊富な渋い起業家による着実な成長戦略を描くことのできる渋い企業が想像以上に多い。スタートアップやシリコンバレー的な手法が、単に優れた「アイディア」や若さ、体力といったものだけでは太刀打ちできないような「大人」の手法として確立してきているのではないかとさえ感じられた。顧客開発やリーンUX、グロースハックといった洗練された手法が一般化し、これらを駆使する専門職が確立し、ビジネスモデルでさえも「コモディティ化しているので、ビジネスモデルが何かという質問を起業家にするのはやめるべき」と言われるほどになっているのだ。
500 StartupsのDounding PartnerであるDave McClureは「スタートアップは、もはや優秀でアイディアと技術力がある学生のためのものではなくなってきているかもしれない」と言っていた。アナログで存在してきた何かを、IT化やモバイル・ファーストで置き換えたりするだけではなく、産業ごとの長い経験と深い見識があって初めて作り出せるようなビジネスモデルをシリコンバレーのアプローチで高速で展開していくというのだ。
Daveによれば、「世界中の各地域にフォーカスした投資をしてきたが、現在では、金融やファッションといった産業別の専門家をEIRとして抱えて、専門ファンドを立ち上げて支援を開始している」。つまり、比較的若い優秀な起業家に投資をすることで知られているY Combinatorと比較して、500 Startupsが当初からグローバルな500 Familyを作るといって世界中の各地域や各産業における専門家のいるチームに対して率先して投資をしてきた戦略が功奏する時代になってきたのではないかとも言えそうだ。
シリコンバレーの優良スタートアップへの投資で知られるQuest Venture PartnersのAndrew Ogawa氏も「各産業の専門家が彼らの所属してきた大企業を去って技術力のあるチームを作っているのを見てきている。彼らが業界について熟知しているからこそ、そこで新しく破壊的なソリューションを作り出すことができる」とのことだ。