90億円の新規投資でCommonwealth Fusionの2025年核融合実証炉稼働に道筋

Commonwealth Fusion Systems(コモンウェルス・フュージョン・システムズ、CFS)は、2週間前に8400万ドル(約90億円)という投資を獲得した。米国は今も厳しいロックダウンの状況にあるが、投資を獲得できたこと、とくに数十年間誇大宣伝が続いてきたこの新技術に数百万ドル規模で調達できたことは、CFSの最高責任者Bob Mumgaard(ボブ・マンガード)氏の言葉を借りれば「面白いこと」だった。

CFSが克服しようとしている技術的難関と最初の試験技術に向けた同社の長期的な展望は、確かにある時点で、障害どころか利益だったとマンガード氏は言う。「私たちは、いかなる回復モデルも根底にあるニーズに影響を与えない、世界がまだ深刻な気候問題を抱えている遠い未来という、ユニークな立ち位置にあります」と彼は話す。

CFSは、その問題に対応するひとつのソリューションになることを目的としている。同社は、マサチューセッツ工科大学で開発された技術を利用し、現在開発が進んでいる他の現世代型核融合炉(実際に今、いくつかの核融合炉の開発が進められている)をひと足飛びに追い越し、廃棄物の出ないエネルギー源を10年以内に産業界の顧客に届けようと考えている。

CFSの中核をなすイノベーションは、理論的には核融合反応を持続させるために必要な状態を生み出せる高出力の超伝導磁石を開発したことだ。この核融合炉は、核融合を持続させ、発生したエネルギーを閉じ込める超電導磁石で生み出される超高圧下に保存される水素同位元素を使用する。核融合炉は、エネルギー源となる水素を数千万度にまで加熱できなければならない。

CFSが追求する設計は、もう何十年間も研究が進められ、現在フランスで建設が完了した巨大な国際熱核融合実験炉(ITER)プロジェクトのものに近い。ITERは1980年代にレーガン米大統領の政権下で、米国、ソ連、ヨーロッパの数カ国、日本の共同で始まったプロジェクトだ。現在までに、インド、韓国、中国などの国々も加わった。

ITERプロジェクトも2025年の稼働を目指しているが、費用は桁違いに大きい。トータルで140億ドル(約1兆5000万円)を優に超える。建造は2013年に始まった。CFSのスケジュールと比較すると、長大な計画だ。

2013年1月17日、南フランスのサン・ポール・レ・デュランスで撮影された未来の国際熱核融合実験炉(ITER)。サン・ポール・レ・デュランスにあるフランスの原子力代替エネルギー庁(CEA)カダラッシュ原子力研究センターを拠点として、EU主導でITER機構は発足した。費用の45パーセントを負担しているEUの他、中国、インド、韓国、日本、ロシア、そして米国が、枯渇しつつある化石燃料に代わるこのクリーンで無限のエネルギーの研究に参加している(AFP PHOTO / GERARD JULIEN、画像クレジット:GERARD JULIEN/AFP via Getty Images)

「私たちは、これまで長い間、大きな目標としてきたで建造に着手しました。実際の大きさの実証用磁石です。その建造に取りかかっています。来年には稼働します」とマンガード氏。「

完成すれば、CFSの磁石は10トンもの重量となり、MRI20基分に相当する磁力を生み出すとマンガード氏は言う。「磁石が稼働すれば、次に稼働に必要なエネルギーを上回るエネルギーを発生するマシンの建造に入ります。そのとき、私たちはそれを(核融合の)キティーホークの瞬間と考えています」と彼は話していた。

2025年に技術を市場に投入しよう競っているスタートアップは他にもある。カナダのGeneral Fusion(ジェネラル・フュージョン)と英国のTokamak Energy(トカマク・エナジー)だ。今後6カ月から8カ月の間に、CFSは最初の核融合実証炉の建設場所を決めたいと考えている。

2018年に正式に設立された同社に最新の投資を行ったのは、新旧の投資家陣だ。彼らは総額で2億ドル(約215億円)以上を出資している。今回のラウンドは、Temasek(テマセク)が主導し、多国籍エネルギー企業のEquinor,(エクイノール)が新規に参加している。また、Fidelity Investments(フィデリティー・インベストメンツ)の親会社FMR LLC系列のDevonshire Investors(デボンシャー・インベスターズ)も加わった。

現在の投資企業には、Bill Gates(ビル・ゲイツ)氏が支援するBreakthrough Energy Ventures(ブレークスルー・エナジー・ベンチャーズ)、MIT傘下の投資ファンドThe Engine(ジ・エンジン)、イタリアのエネルギー企業ENI Next LLC(エニ・ネクスト)、さらに、Future Ventures(フューチャー・ベンチャーズ)、Khosla Ventures(コースラ・ベンチャーズ)、Moore Strategic Ventures(ムーア・ストラテジック・ベンチャーズ)、Safar Partners LLC(サファーー・パートナーズ)、Schooner Capital(スクーナー・キャピタル)、Starlight Ventures(スターライト・ベンチャーズ)といったベンチャー投資企業も参加している。

「私たちが核融合とCFSに投資する理由は、その技術と会社を信頼しているからです。私たちは今も、そして低炭素な未来においても、世界にエネルギーを供給する責務を果たし続けます」とEquinorの最高技術責任者であり、研究およびテクノロジー上級副社長のSophie Hildebrand(ソフィー・ヒルデブランド)氏は声明の中で述べた。

CFSは、この新しい資金で核融合発電所、核融合エンジニアリング・サービス、高温超伝導磁石の供給の基礎となる技術の開発を継続する。さらにこの資金は、同社独自の高温超伝導磁石の他の応用のための事業開発活動にも使われる。高温超伝導磁石は、同社のSPARC核融合炉の要となる技術であり、さまざまな商用展開が考えられると同社は話している。

その努力を支援するための、また数々の核融合開発企業のタイムラインを加速させることが期待される、米連邦政府の取り組みがある。新施設の建設を資金援助するというものだ。米エネルギー省は、先日、米国内で核融合炉を共同開発した場合の費用を調査するための情報依頼書(RFI)を発行した。

SpaceX(スペースエックス)やBlue Origin(ブルー・オリジン)、その他の米国の民間宇宙企業に道を開いた商用軌道輸送サービス(COTS)計画に続いて企画された、核融合炉を資金分担して共同開発するというこの計画には、低価格で汚染物質を出さない核融合炉の開発と米全土での設置を加速させる可能性がある。「COTS計画は、政府の独断で指示される宇宙部門を、活気溢れる民間打ち上げ産業に移行させました」とマンガード氏。

商業的イノベーションを刺激する官民パートナーシップの価値を見続けてきた投資家に、Future Venturesの創設者でありCFSの支援者でもあるSteve Jurvetson(スティーブ・ジャーベットソン)氏がいる。ジャーベットソン氏は、エネルギー産業の未来のためには核融合への投資は不可欠だと理解している。

「核融合エネルギーは、私たちの未来への投資です。それは、気候変動と戦うための重要な道筋を示してくれます。CFSへの継続的な投資は、世界のエネルギー問題に対処できる長期的ソリューションを探し求める私たちのミッションに、しっかりと合致しています」と、Future Venturesの創設者でありマネージングディレクターであるジャーベットソン氏は話していた。

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(翻訳:金井哲夫)

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TechCrunch Japan

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