毎年開催されるAdobe MAXカンファレンスの目玉の1つは「スニーク」セッションだ。このセッションで同社は最先端の研究をしているプロジェクトをいくつかお披露目する。研究成果は主力製品であるCreative Cloudのアプリに組み込まれることもあれば、クールなデモだけのこともある。2021年のAdobe MAXのスニークで興味深かったものといえば、Project Strike a Poseだ。
こんな課題を解決したいとしよう。使いたいモデルの写真はあるのだが、そのモデルがあなたの希望するポーズをとっている写真がない。こんなときにProject Strike a Poseは、別のモデルがあなたの希望するポーズをとっている写真をサンプルにして、AIプラットフォームのAdobe Senseiの活用により、使いたいモデルがそのポーズをとっている写真を自動で生成する。基本的にはモデルのポーズに関するStyle Transferのようなものだ。
サンプルのポーズと大まかに似せただけでもなく、顔を入れ替えただけでもない結果になるのが印象的だ。少なくとも、このプロジェクトに関わるAdobeのリサーチサイエンティストであるKrishna Kumar Singh(クリシュナ・クマール・シン)氏が見せたデモでは、Project Strike a Poseのニューラルネットワークは、例えばモデルが着ている服、モデルの頭の角度、靴までも適切に再現できているようだった。
しかも、モデルが背を向けた写真が欲しいときにもこのツールを使える。ただし下の写真の通り、髪は若干ずれている。
Adobeはこのプロジェクトで使われているアルゴリズムのトレーニングについては説明していない。しかしこのようなニューラルネットワークをトレーニングするには、モデルがさまざまなポーズをとっているサンプルをたくさん使う必要があるのは明らかだ。シン氏はこれまで敵対的生成ネットワークに関する多くの研究をしてきたので、この新しいプロジェクトはすでにその技術をベースにしている可能性がある。
現時点では実験的な研究プロジェクトで、Maxのスニークで披露されるものはたいていそうだが、これがPhotoshopなどのツールに組み込まれれるかどうかはわからない。もしこれがデモと同じように動作するなら(Adobeは人種の異なるモデルを使ってもソフトウェアに問題はないと言っている)、Photoshopなどのアプリ、さらには画像を操作するスキルがさほど高くない人々がすでに広く使い始めているAdobe Sparkなどでも、この機能は間違いなく多くのユーザーに歓迎されるだろう。
残念なことだが、このようなシステムを悪用する方法も容易に想像できる。ディープフェイクや写真の操作が問題となる現在、技術に明るくない人が有名人、あるいは他の誰かの名誉を傷つけるような画像を簡単に作れてしまう。もちろん今でもそうしたことは可能だが、うまくやろうとすればある程度のスキルは要る。Project Strike a Poseなら数回のクリックでできてしまうのだ。
画像クレジット:Adobe
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(文:Frederic Lardinois、翻訳:Kaori Koyama)