(編集部注:筆者Kriti Sharmaは英国拠点のSage GroupでAIと倫理に関するVPを務める。2017年に30才以下を対象とするForbes 30に選ばれ、テクノロジー・ビジネス・メディアにおけるインフルエンサー100人の1人)
つい最近の土曜日の朝、私は学童期の子供たちに人工知能について話す機会があった。子供たちの多くはコーディングをしたことがなく、AIという言葉を聞いたこともなかった。セッションでは、彼らがつくるAIが現実世界でどのように使用されるかを考えるエクササイズがあった。私は、人々を二分するのではなく人を助けることにつながるAIソリューションを生み出すことに向けられた子供たちの素晴らしい好奇心に感動した。将来のイノベーション、特に業界がテクノロジーを専門とする職業に就く機会を、さまざまなバックグラウンドや斬新な視点を持つ人にも広げることの意義をあらためて痛感して教室を後にした。
レトリックから行動へのシフト
Googleの軍用関連プロジェクトMavenへのGoogle従業員や社会の反応が示すように、世界中で倫理的AIの需要は実際にあり、しかも急を要するものだ。そして、テクノロジーを伴うやりとりが実際にリスクの可能性を軽減し、人々を助け、仕事の効率を改善するものであることを確認するのに不可欠なものでもある。業界にとっての主要な課題は、仕事や安全という点で人にとってAIが脅威となるというような、世界でみられるAIに対する考え方をいかになくすか、その方法を見つけ出すことだ。そして人間の賢明さを倫理的に補うものとAIを位置付ける方向に持っていくことだ。つまり、企業はテクノロジーについての社会の懸念を目に見える形で解決しながら、世界経済に与えるAIの影響について正直でなければならない。
今日のデジタルリテラシーの機会は、通常受ける教育以外のところに存在している。いくつかのプログラムが、子供やテクノロジーに興味を持っている経験の浅い労働者向けに課外の機会として登場している。ここでは、新たなスキルを習得するのにお金を払うことになる。こうしたオプトインのコースでは、若い世代が必要不可欠な計算思考と幅広い問題解決、AIと働くのに必要な分析的でクリエイティブなスキル、他の先端テクノロジーを受け入れるのをサポートする。これこそが、なぜそうしたコースがより多くの人に開かれるべきなのかという理由だ。
企業はまた、デジタルスキルのギャップを埋め、テクノロジー開発の人材を多様化し、倫理的AIリテラシーを押し上げるために、テクノロジー分野やデベロッパー分野の従業員の再訓練に投資する必要がある。特に企業のリーダーは、倫理的な方法でAIを活用する必要がある新手のスキルセットを理解するために幹部や人事にそうしたツールやデータを使う権限を与えるべきだろう。
企業は、AIとともに働く大きな可能性やエキサイティングな機会を、現在いる従業員や将来の従業員にいかに届けられるか、真剣に考えるべきだ。そして最も重要なことは、AIのリーダーたちが倫理プラクティスをあらゆるランクの従業員トレーニングにも盛り込むために、各国の業界や行政と意見を交わすことだ。そして一度コミットメントが得られたら、責任もって維持しなければならない。
人々のAI理解における業界の役割の定義
短期的には企業は公共部門のパートナーと仕事の関係を築くことを優先し、デジタル教育をサポートするコミュニティスクールプログラムに投資すべきだろう。結局、業界は若い世代の良い教育に大きな責任を持っている。ここでいう若い世代というのは、デジタルが当たり前の時代に生まれ、今後10年のうちに労働力となる人たちのことだ。
一方、若い人たちは、専門家やデベロッパー、テクノロジーとAI業界で現在働いているボランティアによる面と向かったメンターシップから新たなスキルを得ることができる立場にある。さまざまな人たちにコードの仕方を教えたり、彼らにAIを紹介したりするのは業界にとって差し迫った人材難を解決するのに役立つかもしれない。しかし、社会はまた人々に広く入手可能なデータを提供し、AIと共にする未来に向けて訓練するためのスキルの素養をつけさせる必要がある。
実際、従来のオフィスワークスキルは(ソフトウェアプログラミングスキルすらも)、人々がうまく、そして継続的にAIと共存する職場にするためにレベルアップする必要がある。Infosysのような企業はオートメーションの過程で、さまざまな分野の何百という労働者の再トレーニングをすでに行なっている。LinkedInはデベロッパー、エンジニア、テック部門の新入社員が、将来の自動化に備えて自らを適応させるための内部向けAIアカデミーを立ち上げた。一般的に、企業は倫理AIについてのテクノロジーキャリアを追求することに関心を持つ新世代への教育に投資すべきだ。そして、その輪に他の人も連れてくるよう彼らに促すべきだ。
私が働く会社では、若い世代にAIについて教えるという取り組みが2018年に始まった。そして初期の活動で、2つの主要事項が明らかになった。若い人々はAIのポジティブなアプリケーションを構築するのにフォーカスするということと、そしてオープンマインドで倫理AIについて学ぼうとすることだ。業界の人々にデジタルスキルを施すための最近の動きはコーディングに集中している。これはコーディングをしない人や、絶えず学び、そしてゆくゆくはAIのように自らコーディングするテクノロジーを発展させるために必要なクリエイティブさを完全に除外している。なぜプログラムのカリキュラムがAIをつくるのに必要なデジタルスキルをいかに発展させるかを超えて“ソフト・スキル”を中心に据えているか、ここにその理由が示されている。
未来の世代にスキルと包括性を身につけさせる
コアな部分では、AIリテラシープログラムでは、いかに人と関わり合うかを示す感情移入のような特性をどのように発達させるか、AIのように自動化されたテクノロジーと将来いかに働くか、ということを若い人々に教えるべきだ。しかしながら、さまざまなバックグラウンドを持つ人にコンピューターとAIトレーニングの機会を真に広く提供するためには、業界はより多くの人にAIによって生み出される最先端のイノベーションを紹介し、キャリア追求に必要なスキルを人々に提供する道を模索しなければならない。結局、ビジネスの多様化を達成し、テクノロジー主導の未来に従業員を備えさせ、さらにはイノベーションに倫理を注入するには、可能な限り多くの人がかかわることが求められる。これら3つの点で進歩がみられれば社会は広く恩恵を受けることになる。
イメージクレジット: kentoh / Getty Images
(原文へ 翻訳:Mizoguchi)