ホワイトハウスはAIの今後について記した10月のレポートの続編を公開した。今回のものも、アメリカが人工知能にどのように取り組むべきなのか、そして人々や組織にどのような影響を与えるのかについて分析を行なったものだ。今回とくに力を入れているのは、AIの経済面への影響に関する分析だ。将来を暗いものとして描いてはいないが、取り扱い方を間違えてしまうと、すでに広がっている不平等がさらに拡大していくことになると警告している。
「ここ20年ほどの間で、社会には不平等が広がってしまいました」と、大統領経済諮問委員会(Council of Economic Advisers)のチェアマンであるJason Furmanはレポートの発表説明の場で述べた。「原因のひとつはテクノロジーにあると考えています。テクノロジーの世界で生まれるイノベーションは、より高いスキルをもつ人に役立つものとなる傾向があります。そうして一部の人の利便性にのみ寄与することで、テクノロジーが不平等の拡大を進めてしまったという面もあるのです」。
さらにレポートでは、AIがこのトレンドをますます推し進めるものとなる可能性についても言及している。インターネットないし携帯電話(スマートフォン)の普及に力を注いだように、AIが普及する社会にも、きちんと適応できるようにするための施策が必要であると主張している。
そして、数多くの仕事にもたらされるオートメーションの波が、労働者にとっての不利益に繋がらないために必要な3つの施策について論じている。
AIへの投資。この点については10月のレポートの方に詳しく記されていた。簡単にまとめるなら、アメリカは、発展していくAI分野において他国ないし私企業の後塵を拝するようなことになってはならないということだ。そして問題解決やプランニングを担うことになるAIに多様性をもたせることが大事だとしている。人工知能に偏見などのバイアスを持たせないように注意しなければならないとも言及している。この点につき、オフィシャルなベスト・プラクティスが存在するのか、あるいはガイドラインの策定などを行うつもりなのかを問うてみた。
「データサイエンスおよびコンピューターサイエンス教育の分野に『倫理』を導入すべきと考えています。そうすることで、AIの決定ロジックを考慮する際にも、それが社会にどのように影響するのかを意識するようになるでしょうし、またそうした『倫理』を実装するためのツールなども育ってくると思うのです」とアメリカ合衆国科学技術政策局(Office of Science and Technology Policy)のEd Feltonが答えてくれた。「ただし、現段階で政府が具体的な方策をもって現場に介入していく予定はありません」とのこと。
将来の職に関する教育とトレーニング。レポートには、今後のアメリカ合衆国のことを考えるにあたり、現在の教育システムについて厳しい意見も記されている。
AIドリブンな社会に適応する教育を、子供にはもちろん大人にも提供していく必要がある。この教育を疎かにすれば、100万単位のアメリカ人がグローバルエコノミー社会において、その立場を失うことに繋がるだろう。
実のところ、これまでに成し遂げた(それなりの)成果を認めて、学校運営やカリキュラムについては肯定的な評価も下している。しかし確立した優位性をさらに伸ばしていかなければ、せっかく獲得した立場を失っていくことになるだろうともしている。
失業者に対する復帰支援トレーニングプログラムも重要であるが、しかしアメリカ国内における対応は後手に回っているとのこと。
現在の予算規模を6倍にまで拡大すべきだと、レポートは主張している。失業者に再トレーニングの機会を与えて職場復帰させることができれば、生産性の拡大は十分見合う規模になるはずだとのこと。再トレーニングの機会がなければ、失業してしまった人はずっと再雇用の機会を失うことに繋がる。そうして国力を低下させることに繋がっていくのだ。
セイフティーネットの拡充。テクノロジーの進化が、失業者の増大に繋がってしまうという面もある。社会はそうした状況に対応するために、失業対策ならびにヘルスケアの拡充を行うべきだとしている。そうした施策が充実していれば、次の仕事をみつけたり、あるいは新しい仕事のためのトレーニングをする際にも安心していることができる。
グローバル社会にあっても、個々人を守るための政策を機能させ続けることが大切だ。また、失業者に対しては新しい職につくためのトレーニングプログラムを充実させることも大いに重要になってくる。さらに、消えてしまう職についていたエキスパートに対して、新たな職につく場合に給与保証を行うという政策も有効となるだろうとしている。
すなわち、労働というものの意味を改めて見直すことが必要な時代になりつつある。AIの台頭のみならず、不平等の拡大に対しても対処していく必要がある。最低賃金を引き上げ、時間外労働に対する正当な扱いや、労働組合の役割などに対しても見なおしていく必要があるだろう。
具体策については触れられていないが、レポートには以下のような提言も記されていた。
勝者がほとんどすべての果実をとっていく傾向の強い情報技術社会においては、成功をおさめるプレイヤーはごくわずかということにもなる。生産性の向上が給与の増加にも繋がらず、AIによりもたらされる新しい世界の豊かさは、ごく一部の人のものとなる可能性もある。
AIがすべての人のために働くようにしていかなければ、結局、ごく一部のひとのみが恩恵をうけるような社会になってしまう。そのような未来を招かないために、動き出す時期がやってきているようだ。
レポートの全文はこちら(PDF)で読むことができる。
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(翻訳:Maeda, H)