「技術力3.74、ビジネス3.56、影響力3.44」——これはAIヘッドハンティングサービス「scouty」で算出された、エンジニアのスコア評価の一例だ。
同サービスではSNSやGitHub、個人ブログなどインターネット上に公開されているエンジニアのオープンデータをシステムが収集。上述した3つのスコアをはじめ、個人のスキルや志向性、活動内容などを含めた“個人の履歴書のようなページ”をAIが自動生成する。
このデータベースから企業は自社の採用要件に合った人材を検索し、スカウトすることが可能。双方の情報を基に質の高いレコメンドを実現することで、企業とエンジニア(いずれはそれ以外の職種の人材も)のミスマッチをなくそうというのがscoutyの試みだ。
そして本日8月27日、2017年5月からのオープンβ版期間を経て同サービスの正式版がついにリリースされた。
正式版には新たにタレントプールという概念が導入。検索内容に合わせてレコメンドされたユーザーだけでなくSNSアカウントを入力することで候補者をタレントプールに追加できる機能のほか、登録した候補者の転職意欲が高まったタイミングで通知してくれる機能が加わっている。
転職潜在層にアプローチできるAIヘッドハンティングサービス
オープンβ版リリース時にも紹介した通り、scoutyのひとつの特徴が転職潜在層のエンジニアもデータベースに登録されていること。システムが自動でWeb上の情報をクローリングして個人のページを作るため、ユーザーによる登録は不要。企業側は転職サービスなどにはいないエンジニアにもアプローチできるチャンスがある。
マッチング精度を高める土台としてscoutyでは独自のスコアリングの仕組みを開発。たとえば冒頭で紹介した「技術力」「ビジネス」「影響力」という3つの指標は、以下のようなソースを基に評価している。
- 技術力 : オープンソースプロジェクトの参加経験、GitHubやQiitaなどで公開しているアウトプットの量や他者からのいいね数、質問回答サイトでのベストアンサー数、技術系イベントの参加数など
- ビジネス : 経験した職歴など(職歴ごとにスコアを付与)
- 影響力 : Twitterのフォロワー数、フォローとフォロワー数の比率など
scouty代表取締役の島田寛基氏の話では、特に技術力スコアについてはこの数値でフィルタリングする企業も少なくないため、スコア算出のアルゴリズムを常に改善し続けている。
たとえばエンジニアがプログラムを書いた際に添付するReadme(リードミー。コードの説明書のようなもの)を解析してみたところ、この内容と技術力に強い相関関係があったという。そこでReadmeの量や書き方を自然言語処理や機械学習の技術をもとに解析し、スコアに反映することを始めている。
また他者からのいいね数についてはフォロワー数に依存する部分も大きい。そこでどんな人からいいねをされているか「いいねの質」を評価したり、記事の内容からいいね数を予測するアルゴリズムを開発することで、日の目を浴びていないけれど質の高いアウトプットをしているエンジニアが評価される仕組みも実験しているようだ。
収集したデータからエンジニアのスキルや興味分野を分析することに加えて、scoutyは候補者の転職可能性も予測する。これは過去の職歴や在籍経験がある企業の継続年数分布、SNS上での行動(例えばわかりやすいものだと、Twiiterで「辞めたい」と言っているなど)を基にAIが算出したもの。
上述したような仕組みによって、自社の要件にマッチし、かつ実は転職の意欲が高まっているエンジニアをスカウトできるというわけだ。これまでこの仕組みに興味を持った約50社がscoutyを導入。同サービスを通じて20数名のエンジニアが転職をしているという。
とはいえ、法律や外部サービスの規約に基づいた形ではあるもののエンジニアにとってはある意味“勝手に”自分の情報が登録されて、ある日突然スカウトされるわけだから驚くだろう。中には抵抗がある人もいるのではないか。
この点について島田氏に聞いてみたところ「メールを返信してくれるエンジニアの7〜8割は自分のGitHubやブログを見てくれて嬉しい。御社の技術に興味があるので話を聞いて見たいというポジティブな反応を示している」という。
この辺りは実績ができてきたことによって、1年前と比べてもかなりポジティブな反応が増えてきているそうだ。ただ「抵抗がある人もいるのは事実」とのことで、そういったエンジニアの情報の提供を停止する仕組みや体制をこの1年で整備してきた。
データベースから長期に渡って使えるプロダクトへ
ここまではscoutyが当初から備えるコアの部分と、それに関するアップデートを紹介してきたわけだけれど、今回の正式版では新たに「タレントプール」という概念が加わった。
このタレントプールにはscoutyでレコメンドされた人材のほか、SNSアカウントなどを基に人材を追加することが可能。
たとえばTwitterで気になるエンジニアを見つけた場合、Google Chromeの拡張機能を使ってscouty上の詳細なプロフィールやスキルを即座にチェックし、タレントプールに加えるといった使い方ができる。
そのほか普段参照しているブログの執筆者や自社イベントの参加者などを含め、興味を持った人材の母集団を形成し継続的にウォッチしやすくなった。
もちろんタレントプールを形成できるサービスはすでに存在する。ただscoutyの場合は従来から備える転職可能性を予測する仕組みを組み合わせることで、候補者にいつアプローチをするのが良いのかを通知してくれるのがユニークなポイントだろう。
島田氏に聞いたところタレントプールに入っている候補者のSNSの情報を定期的にクロールし、プロフィール変更やSNSで転職意向が高まっているような発言があると通知が飛ぶ仕組みになっているようだ。
今までのscoutyを踏まえるとかなり大きなアップデートとも言えそうだが、島田氏によると「マッチングの部分はある程度理想通りに実現できた一方、潜在層を対象にしているため、転職意向がないとそこで止まってしまうことがひとつの課題になっていた」という。
「ベータ版リリース時の仮説として『人はたとえ転職活動をしていなくても、今よりもいい職が見つかれば転職するのではないか』と考えていたが、それは必ずしも正しくなかった。お互いがいい印象を持っているけど今すぐに転職というわけではない場合でも関係性を継続したいというケースが多く、そのニーズに応える形でプロダクトの方向性を少し変えている」(島田氏)
スカウトに適したタイミングを通知するなど、タレントプールの運用を一部自動化することで「採用に特化したCRMやMA(マーケティングオートメーション)ツールの要素を取り入れたプロダクト」をイメージしているそう。
単なるデータベースではなくツールとして長く使ってもらえるものを目指し、料金体系も従来の月額利用料+成果報酬のプランを廃止し、月額15万円のプラン1本に絞った。
今後はデザイナーなどエンジニア以外の職種以外にも広げていくことを検討しているほか、scoutyの個人ページを本人に公開し、スコアを確認したり情報の追加や削除をしたりできるような仕組みも考えているという。
「たとえばどのような企業が自分のスコアや趣向に近い人を採用しているか、同じくらいのスコアの人はだいたいどれくらいの年収で転職しているかなどがわかると、もっと情報をオープンにする人も増えるのではないか。クローリングの技術も改善していくことで、その人のさまざまな情報が溜まったライフログのようなものを自動で作り、徹底的にパーソナライズしたレコメンドの仕組みを開発したい」(島田氏)