「窓辺から宇宙を背景に写真を撮りましょう」と映画WALL-Eに登場するスレンダーなWALL-Eのガールフレンド、EVEに似たロボットに話しかけた。インターネットでつながったTechCrunchのサンフランシスコ本部にはEric Romoがいる。彼はこのAltspaceという仮想空間上のチャットルームを製作したスタートアップのCEOだ。Romoもチャットルームに現れ、私が気に入った宇宙船の窓辺までテレポートしてきた。
コンピューターのカメラとヘッドセットに内蔵されたLeap Motionのトラッカーにより、ユーザーの動きや身振りが仮想空間上に再現される。私はちょっと首を傾げ、勝ち誇ったように拳を上げ、実際の世界でセルフィーを撮るのと同じポーズで写真を撮った。仮想空間上で撮った自分の写真は、想像以上に正確だった。
私は初めて、仮想空間上でインタビューを行った。ワイヤーを通して仮想世界にいる自分がしっくりしてきた。近い内に、仮想の宇宙船の中で頻繁にミーティングを行うようになるのではないかと思っている。
1994年、最先端デジタル世界の勇猛な探検者は、グループを作ったり、コミュニケーションを図ったりするために集まっていた。彼らより以前にもそのような人たちは多くいたが、自分たちでそういった場を作らなくても良くなったことにより、より多くの人がデジタルの新しい媒体に集まるようになった。プログラミングの専門家だけでなく、パソコンに新しく触れる人も参加することができた。
彼らはAmerica Onlineのチャットルームに集まったのだ。
同様のことが現在Altspaceで起きている。Google Venturesの支援を受ける彼らは、仮想空間でのコミュニケーションプラットフォームを製作している。ここでは世界中のどこにいるユーザーとでも、複数名で同時に仮想空間を共有することができる。
ホロデッキ、最初のバージョン
数週間に及ぶ検証を経て、Altspaceは仮想チャートルームの門戸を開け放った。自宅の寝室からでも地下室からでも24時間365日、ヘッドセットの装着者が集まれる場所が誕生した。友人とも、全く知らない人とも会話を楽しむことができる。宇宙空間に点在するヴィラにテレポートして、NetflixやYouTubeを巨大スクリーンで鑑賞したり、自分の身長ほどあるチェスで遊んだり、セルフィーだって撮影できる。自分の目線で今までの生活とは全く異なる体験ができるのだ。
「人は集団を作るものです」とRomoは話す。「交流が起きる場の物理を正しく設計すれば、人は実際の世界と同じように動きます」。両耳性の指向オーディオを用いることで、背後で話をしている人がいればそれに気がつくことができ、そこから歩き去れば、彼らの声が徐々に小さくなっていくようなことまで再現できる。また、彼らがSensoMotoric Instrumentsとパートナーシップを結んだことで、ユーザーの目の動きも感知できるようになる。誰かと話を聞いて怪しく思っている時の目を細める所作も、子犬のようにうるうるした目で誰かを見つめることもAltspaceVR上で再現できるということだ。
Mark ZuckerbergがOculusに飛びついた時、そのポテンシャルはゲーム、映画、コンピューティングに留まらず、ソーシャルな関係性の構築にも活用できると話した。Facebookは、友人や家族の近くにいる気分にさせてくれるものだ。しかし仮想現実では、彼らのすぐ隣に座っているかのように感じることができる。Altspaceは、そのような世界に近づく大きな一歩だ。
AltspaceVRは2013年に創業し、Google Ventures、Formation 8、Dolby、Tencent、Rothenberg Ventures、Haystack、Promous、Maven、Startcaps、Lux、Promus、Foundation、SV Angelといった投資家からこれまでに総額520万ドルを調達した。前職はSpaceXでジェットエンジン推進のリードアナリストだったRomoが率いる15名のチームは、分散したVRのヘッドセットメーカーをつなげるソーシャルなソフトウェアを作ろうとしている。 AltspaceVRは、改良したグラフィックチップを搭載したMacBook Proから体験することができる。つまり本格的なゲーム用のパソコンを持っていなくても良いということだ。
多少荒削りな部分もあり、機能も限定されているが、ベータ版のユーザーはAltspaceVRに滞在することを望んでいるようだ。一時点では、ユーザーグループが仮想空間で、映画ターミネーター2を全編視聴していたという。また、週末に開催されたチャットルームのテストでは、ユーザーは平均25分間滞在していた。これは「驚くべき、良い結果です」とRomoは話した。Netflixのセッションの平均時間さえ、およそ20分間なのだ。直近に行った検証に参加したユーザーの20%は、実際には存在しないこの空間に2時間以上滞在していたという。
そしてそれは今後の目標につながる。実世界の限界が適用されない世界でユーザーがクリエイティビティを発揮できるようになることだ。Romoはさらに、仮想空間のドラッグ体験としか言い表せないデモを見せた。Romoがボタンを押すと、幻覚、あるいはSF小説の「銀河ヒッチハイク・ガイド」の一コマのように魚の集団が私たちの周辺を泳ぎだした。「これは、ウェブサイトと同じです。JavaScriptで書かれています」と彼は私たちと同じくらいのサイズのチェスの駒を動かしながら説明した。
いくつかのシンプルなコードと3Dモデルで、誰でもAltspaceVRのプラットフォームに、複数人が同時に楽しめる仮想現実の体験を作り出すことができる。開発者には自分の作品に集中できるキャンバスが提供されるのだ。
どこからでも、一緒に体験できる
開発者の想像力がどのような形に結実するかは、まだ分からない。アーリーアダプターは大喜びで開発を行ったりするだろうが、AltspaceVRでしかできない魅力的な体験や、著しく鮮明なデジタルでの対面コミュニケーションが取れるようにならなければ、一般の人に使い続けてもらうことは難しいだろう。
今は、Eスポートのゲームの試合観戦や他の動画コンテンツを視聴することが人気だが、Romoは有識者のシンポジウムやセレブと会える場として活用されることを考えている。AltspaceVR内でユーザーはロボットのアバターになるが、その内 xxArrayのような仮想現実用のスキャンブースで撮影することで、仮想空間内でも自分の外見のまま歩き回ることができるようになるだろう。
現実世界では、警備のために熱狂的なファンがジャステンビーバーに近づけることはないが、仮想空間でなら彼の周りに集まって話を聞くことに危険性はない。このようなイベント開催の利用料や、ユーザーがプレミアムな体験のために料金を支払うことで、AltspaceVRはビジネスとして成立するだろう。
いるべき時間と場所に行くことが物理的にできないのはとても不便で、多くの問題が起きる。遠距離恋愛や渋滞する通勤、さらには物理的に離れていることでアートやエンターテイメントに触れられる機会も減ってしまう。仮想ローマは一日にして成らずだ。しかし、少しずつだかAltspaceVRのようなスタートアップは、私たちが自由にどこにいようと、どのような自分にでもなれる世界を実現しようとしている。
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